社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

成島辰巳「エンゲルをめぐる統計事情とエンゲルの平均の意義(第2章)」『社会科学のための平均論』法政出版, 1995年

2016-10-17 15:04:22 | 4-2.統計学史(大陸派)
成島辰巳「エンゲルをめぐる統計事情とエンゲルの平均の意義(第2章)」『社会科学のための平均論』法政出版, 1995年

 エンゲル係数で有名なエンゲル(1821年)の統計論を解説した論稿。筆者はこの論稿で, 19世紀の前半にドレスデンで生まれたエンゲルの略歴と業績, そしてエンゲルの平均論を論じている。エンゲルが生まれ, 育った頃のドイツは「ドイツ関税同盟」の結成(1838年), ブルジョアジーの台頭による「3月革命」(1848年)と挫折を含め大きな変革期にあった。エンゲルは1842年から45年にかけ, フライベルクの鉱山専門学校で採鉱学を修め, 卒業後の研修旅行でフランスの社会改良主義者のル・プレに, またベルギーの統計学者のケトレーに会い, 大きな影響を受けた。とくにケトレーとの邂逅は決定的で, エンゲルが, 官庁統計家として, 統計学者として生きていく契機となった。その後, エンゲルは「ザクセン統計協会」の局長, プロイセン統計局の局長を歴任した。エンゲルの業績は多岐に及ぶ。著作としては『労働の価格』(1866年), 『人間の価値』(1883年), 『ドイツ鉄道における労働の価値』(1876年), 『人間に就いて』(1883年), 『ベルギー労働者の生活費』(1895年)がある。官庁統計を統計の基本であると考えていたエンゲルは, 他にも幾多の統計事業の改革(「中央統計委員会」の設置, 統計情報の積極的公開, 自計主義の採用, 各種経済統計の整備)を推し進め, また「統計ゼミナール」を主催し, 後継者の育成に尽力し, 社会政策学会の創設(1883年)にも関与, 貢献した。

 エンゲルは, 統計学の役割が社会の数量的認識を自然科学的方法で把握することにみていた。すなわち。統計学は, エンゲルにとって, 「社会の物理学および生理学」であった。この意味で, エンゲルはケトレー主義者であった。しかし, ケトレーは社会を「単なる人間の集合」とみなしていたのに対し, エンゲルはそれを「人間共同体」ととらえていた。このことを反映して, ケトレーは自身の仕事を人口統計, 道徳統計に限っていたが, エンゲルは進んで, 統計学を社会および消費の研究で豊富化した。

 エンゲルの家計調査研究は, このうち「家族の福祉」の測定にかかわって展開された。後世で, エンゲルの法則として有名になったエンゲルの法則は, 「人間の福祉の度合は肉体の維持に必要なる支出部分が爾余の生活欲望を充足するために残された支出部分にたして示すところの比率において表示せられるのである」という指標である。エンゲルはまたケットという家族の大きさを測る計量単位を考案し, 家族の「平均」生活費の算出に使おうとし, また実際に「最低生活費」を計る尺度しての「限界数字」をもとめるために活用しようとした(普及しなかった)。

 平均論の分野で検討する価値がある業績としては, 通常の平均とは異なり, 客観的に存在する「中数」の概念をよりどころに, 「消費の中数」「生産の中数」の推計を行ったこと(「中数」概念としての平均), 実質的な意味の「典型」を具体的社会分析から導き出し, 労働力の自己費用を計算した(「典型」を示す平均)。これらは, 現実をあらわす平均(「グループ分け」または「階層別」による平均, 「中位」を示す平均), 一般性の近似的表現としての平均(「中値」)とともに, 実質的な意味の平均に関心をよせたエンゲルの統計理論の核になるものに他ならなかった。
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