社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

成島辰巳「フラスケムパーの統計学と統計的代表値論(第5章)」『社会科学のための平均論』法政出版, 1995年

2016-10-17 15:05:22 | 4-2.統計学史(大陸派)
成島辰巳「フラスケムパーの統計学と統計的代表値論(第5章)」『社会科学のための平均論』法政出版, 1995年

 本稿はドイツ社会統計学派に属し, チチェクの後継者だったフラスケムパー(1886-1979)の統計理論を解明した論文である。フラスケムパーの統計理論といえば, 「認識目標の二元論」「事物論理と数論理の平行論」がその特徴であり, 誰しもがその説明をする。ここでも同様であるので, この2つのカテゴリーの解釈は省略する。ただ, 筆者が強調している個所を抜き出すと, フラスケムパーにあっては統計学の認識対象は集団であり, 集団に関して何を認識するのかといえば, それは「集団の大きさ」「集団の構成, 構造, 形態」「集団現象の時間的発展」「種々の集団現象相互間の比較の認識」であること, 大数法則の究明が統計学の中心になることはなく, この法則の過大評価をいましめつつ, 確率論の統計学への導入については全面的に拒否することはなかったということである。

 「事物論理と数論理の平行論」についていえば, フラスケムパーは社会科学的概念と数論理との不一致を前提とし, 社会科学で事物論理的概念が不可欠であると主張した。事物論理は社会的事実を数えることのできるようにする概念であり, 同時に数論理の実質的妥当性の検討のために必要な概念である。また, 事物論理のこうした概念は, 前者が統計調査論とかかわり, 後者が統計利用論にかかわると言い換えてもよい。フラスケムパーは前者の事物論理をとおして, 統計的集団(統計単位)-統計単位の標識-統計群という構成で統計調査の範疇体系を完成させた。また, その統計利用論は量的階級(度数分布), 代表値, 散布(分散), 比率, 時系列, 統計的因果研究からなり, 今日, われわれが統計利用における数理の実質的内容を問題にするさいの原型の提出という役割を果たした。

 筆者はフラスケムパーの評価にあたり, 長屋政勝の評価, すなわち社会科学の統計的方法の独自性を貫いたところにフラスケムパーの貢献があったのは事実であるが, 他方, 数理統計学の導入を方法的に準備したことが限界であったという一文を, 肯定的に引用している。また, 有田正三の評価, すなわちフラスケムパーのように数理統計学の数理形式を外的に持ち込んで, 「事物論理と数論理の平行論」を論ずるのではなく, 社会現象の本質との内的必然的結びつきにおいて論じられなければならないという評価を, これも肯定的観点から引用している。

 この「事物論理と数論理の平行論」に深くかかわるのが統計的代表値論, 平均論である。フラスケムパーは統計的代表値を次のように定義している, すなわち統計的代表値(代表値一般ではない)は「個別値の統計的系列によって一義的に規定され, 系列の両極値の中間にあり・・・そしてさらに直観的・事物的に重要な意味が一致するところの個別値からなる統計的系列の集中的表現」と。数学的論理から導出される代表値が経験的事実においていかなる意味をもっているかを考察することで, そこに事物論理と数論理の平行論を貫徹させ, 上記の定義に結びつけたのがフラスケムパーだった。

代表値算出の認識は, 2つある。一つは補償機能であり, もう一つは全系列の中位点をもとめることである。前者は系列の個々の多様性を, その全体の効果において同一の結果に導く, 同じ数の, 相互に等しい大きさの項によって置き換える「仮想された」値である。後者は全系列の中位点(個々の値に対する比較基準に役立ち, そして同時に分散度の算出の出発点になるような点)を求めることに他ならない。

筆者はフラスケムパーの代表的統計値論の土台を以上のようにおさえたうえで, 仮想的「補償値」としての代表値と中位点としての代表値の内容をさらに踏み込んで解説していく。とくに中位点としての代表値の内容について, ①絶対的(算術的)観点(a.中位数・算術平均・最頻値, b.「分界値」と「最重値」)と, ②相対的(幾何的もしくは対数的)観点についての詳しい解説がある。また代表値概念の拡張として, 二面分布の「中心点」とトレンドについての説明が付け加えられている。

 筆者は以上のフラスケムパーの代表値論の解説を, 彼の論文「統計的代表値の論理への寄与」(有田正三, 足利末男, 松井要吉編訳『フランクフルト学派の統計学』晃洋書房, 1987年, 所収)にもとづいておこなっているので, 正確な理解のためにはこの論文に当たるのがよい。しかし, 筆者はフラスケムパーの代表値論が, 一般に受け入れられていないとして, その理由が彼自身の論理的考察が不十分なのか, あるいは現実に意味のある代表値論でないのか, 判断を留保し, 今後の課題としている。

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