社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

「編訳者解題-フランクフルト学派の統計学について」有田正三・足利末男・松井要吉編訳『フランクフルト学派の統計学』晃洋書房, 1987年

2016-10-17 11:36:18 | 4-2.統計学史(大陸派)
「編訳者解題-フランクフルト学派の統計学について」有田正三・足利末男・松井要吉編訳『フランクフルト学派の統計学』晃洋書房, 1987年

 この論稿は, フランクフルト(a.M.)のゲーテ大学社会科学・経済学部の統計学のゼミナールのフラスケムパー, ブリント, ハルトヴィックを中心としたグループ, すなわちフランクフルト学派に属する統計学者の研究足跡を明解に要約したものである。構成はまず, フランクフルト学派がドイツ社会統計学後期を形成する統計研究者グループということもあり, ドイツ社会統計学につての知識の整理を与えている。ここではドイツ社会統計学が社会の数量的把握の要求が高まる19世紀前半の時代を背景に, 「学問としての統計学」が意識され, 当初「実体科学としての統計学」が追求されたが, 次第に「形式科学としての統計学」へ傾斜し, 第一次大戦後その学問的性質と内容を大きく転換する過程が丁寧に跡づけられている。

 続いて, チチェク(学派の定礎者), フラスケムパー(確立者), ブリント(完成者)の統計学を順次, 解説している。「まとめ」にフランクフルト学派の特質が, 箇条書きで, 示されている。それによると, 特質の第一は, 統計学を形式科学=統計方法論としたことである。第二は統計的認識を量的認識として明確にし, そのための方法論的構造を独自の仕方で追求したことである(統計的方法の本質を数理にまで還元)。第三は社会および社会的現実を歴史的一回的なものとして把握したことである。第四は, 「認識目標の二元論」と「事物論理と数論理の並行論」を指導原理としたことである。第五は法則志向的認識よりも記述的認識の優越性を追求したことである。第六は, 統計方法を社会的事実の一面的外的形式であるととらえたことである。

 以上が, 訳者によって整理されたフランクフルト学派の特質であるが, 細かく見れば, 論者によって見解は異なり, 共通項は「社会科学領域における統計学の独自性」の主張であり, その限定のもとでの特徴づけである。

 「解題」のこの論稿は, 『フランクフルト学派の統計学』に訳出された諸論文のそれであり, チチェク, フラスケムパー, ブリントの諸論稿を理解する案内になっている。チチェクに関しては, その統計論が統計数獲得論=統計調査論と統計数解釈論=統計利用論からなっていることが, 彼以前の前期ドイツ社会統計学の統計方法論と一線を画していることが示され, それぞれが何を課題としていたかが叙述されている。

フラスケムパーに関しては, 彼が統計学を統計方法論として構想したこと(社会科学領域の独自の方法論), この領域での特殊な認識の方法として「事物論理と数論理の並行論」と「認識目標の二元論」を主張したこと, その内容が解説されている。これらの「二元論」と「並行論」は社会科学領域における統計的認識の方向と構造を明らかにすることで, 統計方法論の構成原理となり, また20年代後半のドイツ社会統計学界の課題であった数理統計学の摂取に関わる原理として打ち出されたものであった。

 ブリントに関しては, 社会的統計認識には2種類の認識目標, すなわち「統計記述」と「統計解析」が設定されていること, その内容がどのようなものであるかが解説されている。そのうえで, ブリントの4つの理論的結節, (1)社会的事実およびこれに対応する社会科学的概念, (2)統計的概念およびこれを基礎とする数理的概念・形式, (3)統計的結果, (4)統計による社会認識。(1)(2)を繋ぐものが「調整」, (2)(3)をつなぐものが方法的過程, (3)(4)への移行は「了解的解釈」または「了解的解析」としている。(この延長でハルトビックの統計学を紹介)

 ドイツ社会統計学の遺産を継承しつつ, イギリスおよび大陸で発展した数理統計学の成果, 統計的景気予測の経験の摂取によって, 自らの豊富化を図ったフランクフルト学派の軌跡は, ここに明解である。
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