社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

戸塚茂雄「メンゲスの国際統計論」『統計学』第52号,1987年3月

2016-10-17 11:34:26 | 4-2.統計学史(大陸派)
戸塚茂雄「メンゲスの国際統計論」『統計学』(経済統計学会)第52号,1987年3月

 フランクフルト学派に属するG.メンゲスの国際統計論。国際統計とは何か,またその問題点と今後の課題をコンパクトに要約した論文。この種の論文は少ないので,問題提起が新鮮である。使われたメンゲスの論文は,「国際統計の根本問題(”Grundfragen der internationalen Statistik” Argemeines Statistisches Archiv, Bd.65,1981)」で1980年12月に開催されたドイツ統計学会第51回年次総会での講演である。

 メンゲスは,本文中でも紹介されているが,ザールブリュッケンのザールランド大学にヨーロッパ統計研究所を設立し,この研究所を主宰した。その後,ハイデルベルク大学国際比較経済社会研究所の所長となり,OECDの助言者でもあった。豊かな国際的統計活動の経験を背景に国際統計論の問題を広範に論じられているのが,上記の論文である。同論文は七節で構成されている。第一節は「歴史的前書き」で,この部分は当該のテーマと関係がないとして,筆者はその紹介を割愛している。

 「第二節:理論的問題提起」ではまず,理論の前提となる国際統計,国家統計,超国家統計,統合統計の定義が与えられている。国家統計については,「統計がその空間的表示能力において法的意味で唯一の自治国家の領域に制限されている場合,その統計は国家統計である」と定義されている。国際統計については,「統計が一国家統計以上のものから成り立っている場合,それは国際統計と呼ばれる」。統合統計については,「それがいくつかの(統計的意味で)独立した国々ないし国の一部から成り立っており,その各部分が比較可能である場合,(国家ないし国際)統計は,統合しているといえる」。超国家統計については「それがその構成要素において比較可能であって,法的に自立している諸国家の重要な全体の領域についての全体的な表示を行える場合,その統計は超国家統計と呼べる」。
  国際統計,国家統計,超国家統計,統合統計の定義の他にもう一点,メンゲスは国際統計の理論は可能であるか,という問いをたて,フラスケムパーの事実論理によりながら,この問いに悲観的な展望を示している。比較可能性は,フランクフルト学派に伝統的な調整方法によってしか生まれてこない。
以上の前提にたって,筆者は以下,冒頭に掲げた論稿をもとにメンゲスの議論を敷衍している。国際統計の理論に否定的見解を示したメンゲスは,しかし国際比較概念によって,国際統計の統一(政治が決定する統計調査計画),調和(概念と分類),標準化(データ調査後の組み替え)などの理論として国際統計の独自な可能性を正当化していると,筆者は理解している。

 「第三節:実質的な国家統計の状態について」では,国際統計の実状が述べられ,ECにおける統計の統一化が広範囲で進んでいること,他の世界では統計の統一化の進展がない現状を確認している。

 「第四節:比較方法論の現状について」では,「社会的生産物と購買力の国際比較システム」,OECDの社会指標,「標準化され同質化された投入産出表での1960年­1970年の東ヨーロッパ,西ヨーロッパ諸国の経済変化。フォルクスバーゲン財団への最終報告」がとりあげられている。とくにメンゲスがかかわった後者の例をひいて,問題点を剔出している。生産概念の相違,比較の方法(係数比較,全体的基準)がそれである。

 「第五節:実際的な提案」では,現行の国際統計の2つの主要な欠陥,すなわち確かな一般理論の不足,データの誤差範囲を特徴づける能力のなさ,が指摘されている。一般的理論の不足に対してメンゲスは悲観的であるが,原則は次の考えられるとしている。(a)モジュール(国民経済計算などで,その一部をなし,それ自体独立した機能をもつユニット)技術。(b)長期計画,(c)政治的方向づけ。

 「第六節:方法論的な提案」では,国際性の視点から統計活動の新しい段階にふさわしいと想定される次の9項目が列挙されている。(1)調査[アンケート,兆候となる数字,間接的に測定された指標などによる補足],(2)データ編集[個々の統計の集計的編成と国別編成(標準化,規格化,均質化,一般的な編集原則,編集結果の種類と質の評価,集計統計の誤差範囲規定)],(3)データ変換[コンピュータに引き渡されたデータは取り戻しえない],(4)記述[パターン識別],(5)分析[関与する専門科学にそった分析],(6)推論[比較の目的に対応した因果的パターンの組],(7)予測[パターン識別の方法],(8)資料提示[国際的な資料展示には用語の問題,結果の詳細な解説が必要],(9)機構[国際データ・バンク]。

 筆者は最後に,メンゲスの理論を総括してその意義を確認し,今後の課題を掲げている。まず意義としては,国際統計,国家統計,超国家統計,総合統計の区別と関連をはじめて示したこと,国際統計は実は国際比較統計であると指摘したことがあげられる。

 今後の課題としては,以下の諸点が示されている。国家統計の調和・統一・標準化が大事であるが大変困難な作業で所期の効果をおさめていない,世界には経済制度,慣習,慣行,法令,思想の異なる国々が存在するのでそれは当然なのだが,両者の関係をしっかり見極める必要がある。比較可能性の問題で言えば,社会科学的概念の曖昧さ,国家の特性による曖昧さ,国家概念の問題や国家間の多面性に由来する曖昧さをフランクフルト学派の調整理論によってどのように克服されていくのか定かでない,この点の考察が今後とも重要になる。

 実際的提案でメンゲスは確実な一般理論の不足とデータ誤差を特徴づける能力不足をあげ,その打開策にモジュール技術,長期計画,政治的方向づけを指摘したが,このなかでは特に政治的方向づけが厄介な問題である。政治と統計の問題は,今後とも考察していかなければならない難問である。国際統計の方法論的提案は9項目に分けてなされている。提案の価値は大きいが,筆者の上記のまとめはややわかりにくい。

 国際統計は,今後とも必要になるのは間違いない。提案の具体化は喫緊の課題である。
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