社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

有田正三「フランクフルト学派の統計学理論について」『経済学の諸問題』, 大阪経済法科大学出版部, 1987年

2016-10-17 11:37:30 | 4-2.統計学史(大陸派)
有田正三「フランクフルト学派の統計学理論について」『経済学の諸問題』(故金澤尚淑博士追悼論文集・編集委員会), 大阪経済法科大学出版部, 1987年

 本稿ではフランクフルト学派を形成した3人の統計学者, すなわちチチェク, フラスケムパー, ブリントの統計学理論が系譜的に紹介され, その意義の検討が行われている。「フランクフルト学派」という呼称は, フラスケムパーが筆者に宛てた手紙のなかで, 自分たちを「フランクフルト学派」としたのを, 筆者が日本の関連学会で紹介し, 以来, その用語が学界のなかで人口に膾炙するにいたったのだそうだ。筆者は冒頭で, そのことに触れている。

 「フランクフルト学派」の統計学を紹介する前に, 筆者はドイツ社会統計学が19世紀後半に, ドイツの官庁統計事業の整備を志向し, またケトレー統計学を継承して, ドイツ国民の統一的数量像の形成を課題として成立した事情に言及している。しかし, ケトレーの統計学は, 社会物理学というその名称が示しているように, 機械的決定論的要素が色濃く, これに反対する「意志自由論争」を経て, ケトレーの統計学は克服され, マイヤーなどの「実体科学としての統計学」, すなわち社会集団の悉皆的観察にもとづいて社会生活における合法則性を追求する総合体系化された統計知識としての統計学が台頭する。マイヤー統計学はドイツ社会統計学の定礎を築いた。

 時代を経て, 第一次大戦後, そのドイツ社会統計学も変容を迫られるにいたる。その内容は, 「実体科学としての統計学」から「形式科学としての統計学」への転換, 統計調査論の再編と並行した統計利用論の展開である。ここに登場したのがチチェクである。チチェクは, 一般統計方法論の主導性を唱えたが, 具体的にはそれを「統計数獲得論(=統計調査論)」と「統計数解釈論(=統計利用論)」から構成した。「統計数獲得論」では, 統計調査の論理的構造に踏みこんで, その成果を「四基本概念の理論」として定式化した。「四基本概念」とは, 調査単位, 調査標識, 群, そして陳述である。この「四基本概念の理論」を取り入れて, 統計調査論の再構成が図られた。ついで, 「統計数解釈論」では, 統計比較, 因果的連関の摘出をベースにした統計利用論が展開される。チチェクの統計学ではなお, 「実体科学としての統計学」は清算されないまま残滓としてのこった(「広義における統計的結果学」)。チチェク統計学の過渡的形態性が云々される所以である。

 フラスケムパーは統計学を統計方法論と規定し, チチェクにいまだ残っていた「実体科学としての統計学」を払しょくする。統計学は, 社会科学領域の独自の方法論として, 構想される。その原理は, 統計方法を数理の応用としつつ, それを「事物論理と数論理の並行論」と「認識の二元論」によって根拠づけ, 統計的認識の方法を定立する。「事物論理と数論理の並行論」とは, 一切の数理的概念および数理的手続きが「実体の論理」から規定されて始めて有意味になることを裏付ける理論である。「認識の二元論」とは, 統計的認識には記述的性格のものと, 典型的(法則的)性格のものとがあるということを, その方法的構造の解明の基礎とすべきであるという理論である。フラスケムパーにあっては, 統計的認識の構造における統計調査と数理的解析手続きの位置を確認し, 記述的方向で展開していく姿勢が強くみられる。

 ブリントはフランクフルト学派の統計学の完成形態を与えた統計者である。ブリントは社会的統計的認識の客体の特質を, その歴史的性格と人間の価値観と目的への依存性にもとめる。このような特質をもつ客体に対し, 二様の認識目標, すなわち統計記述と統計分析が設定される。統計的記述では, 社会科学的概念と統計的概念との間に間隙があるので, その「調整」が不可欠であるとし, それを社会統計学の基本問題とみる。また統計的結果は社会的現実の記述としては外的形式的で一面的でしかないので, 事物的連関においての意義づけと妥当する価値観念および目的表象との関係においての批判的考察である「了解的解釈」が必要になる。ブリントはまた統計分析に関しては, 分析の前提となる大数法則が有効になる保証, すなわち社会的集団の同一性と因果的関係の統計的証明との確保が困難であるとして, 統計的分析は「了解的解釈」によって, 「了解的分析」に依らざるをえないと述べている。

 筆者は以上のように, フランクフルト学派の統計学を整理, 検討し, その特徴を次の4点にまとめ, 論稿を閉じている。(1)統計学の学問的性格を「形式科学」=統計方法論としたこと,(2)統計的認識を量的認識として明確に意識したこと(社会的現実または社会科学的概念の実体によって可能にされ, また制約される), (3)統計方法論が統計調査論と統計利用論を内容として構成されたこと, (4)その方法体系では, 法則的認識が疎外され, 記述的認識が優越し, 支配的位置を占めていること。
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