海側生活

「今さら」ではなく「今から」

初物

2017年06月16日 | 季節は巡る

(円覚寺)
行きつけの小料理店のカウンターに座るなり、オヤジが言う「初物が入っています、鮎です」。続けて「天然ものです」。

一箸入れたら塩焼の鮎は独特の香気を発している。初物には野菜や果物であれ心を和やかに落ち着かせる作用がある。

オヤジが聞いてくる。
「この鮎と言う漢字を使う別の魚を知っていますか?」考えつかない、記憶を総動員したが解らない。「鮎魚女とか鮎並と書きます」。漢字を見てやっと読めた、アイナメだ。何度もアイナメ釣りはしたことがあったのに漢字での表記は知らなかった。アイナメは煮魚が一番好きだが刺身でも美味い。しかしアイナメは、どこと言って鮎には似ていない。大きさも色も、ただ脂肪分が多い白身だ。
食べ終わる頃、勧めたビールを飲みながらオヤジが又聞いてくる。口元が気のせいかニヤけている。「アイナメは魚偏に”六九“とも表記するそうですよ」。カウンターの上に指でなぞりながら、言われた字を書いてみた。思い当たらなし見たことも無い。オヤジは一層ニヤけて「六九をアラビア数字で書いてください」。「69と」。-----これ以上は文字にするのは憚られる。

鮎の話だった。オヤジの話は続く。
鮎は年魚とも呼ばれ、寿命は一年です。もっともメスの中には越年するのも珍しくありません。人間に限らず鮎だって女性の方が長生きするのですね。五月ごろから海から川へと上り始め六月には自分の縄張りを持ちます。川石に付着した藻を食べて育つので独特の香気を発散します。
オヤジは暫く間を空けて、眼を細め、次の定休日には又、伊豆の狩野川に鮎釣りに出掛けます、と真顔になっていた。

さらに、鮎は獲ったらすぐに食べねばならない。たった一日活かしていてもワタが抜けてしまい、いわゆるワタ抜けになってしまいます。しかし最近養殖モノが多くなった。やはり鮎は天然ものでないと---。ではどこで見分けるか?天然ものには黄色の斑があり、そして顔つきが違う。また鼻ペチャが多い。

店を出る間際に、オヤジの次の定休日の翌日に来店の予約をしたのは言うまでもない。
もう一度、鼻ペチャに合うのが待ち遠しい。