鎌倉駅に向かうバスに乗ったら、途中でテープの音声が社内に流れた。
「警察からのお知らせです。『振り込んで』と言われてもすぐには振り込まないで、本人確認をしましょう」それとなく車内を見渡すと高齢者が多い。相変わらず振込め詐欺が続いているようだが、関係者と身内以外は誰も驚かないほど日常の事件になってしまった。
この放送を聞いて今朝、浜で見た珍しい魚を思い出した。“せいちゃん”の網に掛かっていた「カエルアンコウ」の事を。
ユニークな風貌で、肉厚な胸ビレと腹ビレを手足のように器用に使って海底を歩き回り、泳ぎは下手で体長10センチほど。
最大の特徴は頭から生えた釣竿のような棒の先端に“エスカ”と呼ばれる白っぽくてゴカイに似た疑似餌をつけ、この疑似餌をクネクネとリアルに動かし小魚をおびき寄せ、まるで釣るように大きな口を開けて獲物を丸飲みすると言う。
魚のくせに魚を釣るという「カエルアンコウ」。
人間のくせに人間を釣る「振り込め詐欺」。
「カエルアンコウ」は、生まれ付きの本能であり、持って生まれたその特殊機能を生かさなければ生きていけない。人間には、人間を釣らなくても生きる術は他にもある。「カエルアンコウ」の真似などしなくても生きられる。第一「カエルアンコウ」に失礼だ。
写真に撮った後、「カエルアンコウ」を両手で包むように静かに海に帰すと、より深い所を目指し一歩一歩と歩き出した。