海側生活

「今さら」ではなく「今から」

日本人の優しさ

2015年01月25日 | 鎌倉散策

                         
「あの鳥さんは、とても遠くて寒い北の国から、氷の無い暖かいここへ飛んで来たのよ」
その幼い子は、キラキラを大きく輝く眼を瞬きもせず、腰を落としてユックリと話すお母さんの口元を見続けている。

大寒に入り冬の鎌倉らしさを撮ろうと被写体を探し求め、久し振りの鶴岡八幡宮で、ひと休みしようと腰を下ろした源平池の側のベンチで、聞くとはなしに耳に入ってきた。
池には、ここでは珍しい雁が10羽ぐらいの群れをなし弱い日差しを楽しんでいた。幼い子は、ここには多い鳩との体の大きさや色の違う雁に興味を持っているようだ。
20代後半と思しきお母さんは矢継ぎ早に発せられる我が子の質問に、一つ一つ言葉を選びながら答えている。
幼い子の「雁さんは、いつおうちに帰るの?」が最後の質問だった。

手をつないで池から離れて行く親子を見ながら、この幼い子は成人してからも、きっと人も羨む優しい心を持ち続けるに違いない。

若いお母さんの説明に興味を持ち、ウェブを覗いてみた。
渡り鳥には夏鳥、冬鳥、旅鳥の区別があるらしい。
夏鳥は春になって南の国から飛んで来て、秋に帰って行く鳥で燕や時鳥など。雁や鴨は秋に北国から飛来し、春になると北国に帰っていくので冬鳥。そして鴫や千鳥のように、春秋の二回、日本に立ち寄る鳥を旅鳥と言うらしい。雁は山が紅葉に染まり始める秋分の頃日本に来て、春分の頃日本を去ると言われている。

また青森県・津軽の外ヶ浜では、雁が北へ帰った後、海岸に落ちている小さな流木を拾い集めて、風呂を焚く習慣があった。雁は海を渡る時、小さな木を口にくわえる。疲れた時にこの木を海に浮かべて羽を休めるためである。日本に着いた雁は、その木を外ヶ浜に落として目的地に行く。そして春になり日本を去る時、再び木を拾って口にくわえて飛び立つと言う。
つまり海岸に残った木片は、日本で捕えられたり、不幸にして死んだ雁の物である。そこで浜の人々は、この木片を拾い集めて、死んだ雁の供養に雁風呂を焚くと伝わっているそうだ。

もちろん、これは伝説であり、実際に雁が木片を口にくわえることは無い。しかし哀れを誘う伝説だ。
また高浜虚子の『雁風呂や海荒るゝ日は焚かぬなり』と言う句もあった。

日本人で良かった、日本人の心にはこんな優しさもあったのだ。
源平池での母娘の会話の雰囲気がいつまでも耳に残る一日だった。