カズオイシグロが10年ぶりに新作を書いた。
忘れられた巨人
そしてNHK「文学白熱教室」にやってきた。
英国タイムズ紙の「1945年以降最も重要な英文学者50人」にも選ばれているベストセラー作家、カズオ・イシグロ。
彼が語った内容は
そのまま日韓の複雑な問題を解くヒントを示す。
内容は次の通りです。
●例えばフランス。
第2次世界大戦中、フランスはほとんどの期間ナチスドイツに占領されていた。
多くのフランス人がナチスの協力者となりナチスを助けていた。
フランスのどの村でも誰かがレジスタンスをナチスに売っていた。
ドイツの圧力は大したことなかったのに。そして戦争が終わった時、フランスはこれらの記憶、
つい最近起きた事の記憶をどうするか決断する必要があった。
この記憶は社会に深く刻まれていて、どの村の誰がナチスに協力していたとか、村民みんなが知っていた。
どうやってレジスタンスが敵に売られたとか…
そこでドゴール大統領は決断した。
社会を守るために、社会を崩壊させないために。
この国が再び強くまでのしばらくの間、国民全員が勇敢なレジスタンスだったという物語を信じようと決めたのだ。
全員がナチスに立ち向かったのだ、と。今でもフランス人の多くはそう信じている。
そんな嘘をつきつづけるのは恥辱だ、とする一方で、
そんな嘘がなければ国家が崩壊するという危機的状況だったというのも非常に理解できる。
複雑な問題だ。これは社会と個人が直面する永遠の課題だと思う。
いつ忘れて、いつ思い出し、いつ辛い記憶を明るい場所へ引きずり出すのか、と。
◎韓国は日本と補償問題は永久に解決済みと条約で謳いながらいつも蒸し返す。
韓国側から日本へ併合を申し入れたこと、
当時日本への協力者が多くいたことや、
日本に対して、国民の全員が戦って独立を勝ち取ったとは言えないことや、
戦中の日本が行ったインフラ整備に無関心で、
最初数人だった従軍慰安婦はいつのまにか20万人に増えて少女の像が米国に建てられ続けているし
戦後の経済発展が日本からの賠償費用が使われたことなども
韓国にとって不都合な事実の多くは一切触れたくない感じを受ける。
でも、それは大韓民国という国が成立するためには、「日本という悪者と戦うという物語」が必要だと
今でも韓国の為政者が信じているからではなかろうか?
●カズオイシグロは語る…
私の最新作「忘れられた巨人」。
内容を少しだけ話すと舞台は大昔のイギリスに設定してある。
人々は年齢と関係なく記憶をなくしていく。1時間前のこと、昨日のこと…思い出せないのだ。
これがこの村の社会問題となっていたのだけど、その理由がだんだん分かってくる。
竜のせいだ。竜の吐く息が人々の記憶を忘れさせるのだ、と。
これが村人たちの意見を分けることになる。
竜を殺してかけがえのない記憶を取り戻そうとする人がいる中で、竜を生かしたままにして記憶を取り戻したくない、という人たちもいる。
この世界が内戦状態にならないのは竜の吐く息のおかげかもしれない、と。
一世代前におきた恐ろしい出来事の記憶は、普通の記憶や良い記憶とともに彼らには忘れさられている。
だが、かけがいのない記憶を取り戻したがっている人がいる。
老夫婦がこう言うのだ「私たちは深く愛し合っているが、この大切な記憶を失ったら愛情までも失ってしまうのではないか。失いたくないから記憶を取り戻したい」と。
そういう物語だ。これは日本やアメリカ、イギリスにも当てはまるし、紛争があったルワンダや南アフリカにも…
分裂した旧ユーゴスラビアにも当てはまる。
多くの社会に葬りさられた記憶があるのだ。これは非常に難しい問題だ。いつ思い出していつ忘れた方がいいのか…。
◎僕が初めて外国に行ったのは韓国だった。
韓国人の大好きな友達がいたから。
漢江で飯盒たいたり、教会で信者でもないのにタダで泊まったり、いろんな所へ行った。
教会では牧師が怒鳴るように説教をし、
街ではデモもあった。
屋台や裏町も面白かった。
当時のコリアンは魅力的でかがやいていた。
狭い道も平気で突っ込んでいく友人の運転にひやひやした。
ケンチャナヨの特攻精神は、何事の困難も乗り越えるパワーに見え頼もしかった。
細かいことは気にしない。バスのおつりがないとジェスチャーで伝えたらタダにしてくれた。
運転手は前の車と口論し、殴り合いしに降りていく…熱い民族。
我々はいつから、仲が悪くなったのだろう?
カズオイシグロは言う。
記憶は、いつ思い出していつ忘れた方がいいのか…。
日韓はやり直せると僕は信じている。
幸せになるための忘却と記憶…これがうまくできればいいなあ…ほんとうに。
●日本人は考える、不都合な歴史をいつ思い出し、いつ向き合うのかを。
●韓国人は考える、あいまいな記憶に物語を重ねた歴史を、いつ忘れた方がいいのかを。