フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

少女の翳

2015-10-02 10:27:16 | 

 少女の翳(かげ)

明け方目覚めると
玄関の片隅に
一人の少女が蹲っていた
ああ 来たんだね
やっと ここを見つけ出して
来てくれたんだね
心の内では ほんの少し怯え
ほんの少し なつかしく
じっと君を見ていた

恨みがましい眼で
おどろどろした顔で
ぼくを見上げるでもなく
君は黙って そこにいる
抱きしめてと 言ってくれれば
ぐいと一歩を踏み込むのに
茫然と 茫然と
立ち尽くしていたんだ
君の思い出の中に

夜が白むにつれて
君の存在が薄らいでいく
そうだ ぼくはすっかり
大人になってしまった
たくさん人生を知ってしまった
おとぎ話だったんだね
君と愛し合ったこと
忘れないよ 君と心から
心から睦み合ったこと

さようなら さようなら
薄れてゆく君の翳に
ぼくは涙もなく
そっと 別れを告げる
青春は 青春は
あんまりにも遠いもの
時はあんまりにもむごいもの
でも またいつでもおいで
会いたくなったら いつでも……