詩一編：「あなたの愛が届きました」

　　　　　　
　　　　あなたの愛が届きました！　　　　　　
　　　　
　　雨の中に薔薇が咲いた日です。
　　しとしとと降る日の朝に、
　　郵便配達が訪れました。
　　そうです。「速達です」と、
　　あなたからの郵便が着きました！
　　重たい封筒が着きました！
　　ああ、この重さは、何？

　　あなたの言葉といっしょに、
　　真っ白な花模様の便せんにくるまれていたのは、
　　銀色の小さなメダイ！
　　マリア様の彫られたメダイ！
　　あなたが大切にしてね、というそのメダイは、
　　あなたが大切にしていたという、そのメダイは、
　　あなたの心にずっと触れていたのでしょう。
　　あなたの心の色が映ったのでしょう。

　　鈍い光を蓄えた銀のメダイはいま、
　　つつましく光をにじませて、
　　それはあなたの愛の重さ。
　　ひたむきな愛の願い。
　　あなたの言葉よりも深く、
　　あなたの心を静かにひそませて、
　　届きましたよ、あなたの愛の心。
　　あなたのどんな言葉より雄弁に、
　　届きましたよ、あなたの愛のしるし。
　　　　
　　　　　　　　　　　　　　［POEM-詩集『愛に生きたい』から］

メダイ＝カトリック教会の宗教的なメダルのこと。ペンダントのようにチェーンで首からつるすことが多い。

詩一編：「たたかうこと」

　　　　　　
　　　　　　たたかうこと
　　　　　　
　　　　
　　　　 たたかう？　
　　　　きみはたたかう、という。
　　　　雄々しくたたかうと、目を上げる。
　　　　なんのために？
　　　　権利や自由のために？
　　　　きみはきっとそれが正義だというだろう。
　　　　だが、それを手に入れ、
　　　　そこで、きみはなにをしたいのか？
　　　　どんな自由を、なにをする権利を、
　　　　きみは、たたかって得たいというのか？

　　　　それはしあわせ？　
　　　　それは快適な日々のこと？
　　　　絵に描いたようなテレビの中の幸福？
　　　　商品に満ちあふれた富裕？
　　　　だが、それがきみの理想だと、
　　　　きみは胸を張れるのか？
　　　　それがきみの夢だと、
　　　　世界に向かって断言できるのか？
　　　　ほんとうの幸福を、真実のよろこびを、
　　　　きみはきっと知っているのだろう？

　　　　ぼくらのたたかいの、ほんとうの目的。
　　　　ほんとうの生きるすがた。
　　　　きみはひそかに感じている。
　　　　生きることの意味、たたかうことの意味。
　　　　それは愛を手に入れることではなかったか？
　　　　愛する者と、日々を生きて、
　　　　愛する者と、夜々を重ねて、
　　　　ついには知るのだろう。
　　　　やさしさとあたたかさあふれる、
　　　　いのちをわかちあうこと。　

　　　　だからきみにたずねよう。
　　　　きみは愛したいか？　
　　　　きみは愛しているか？
　　　　たがいのしあわせを祈り願っているか？
　　　　それが、ぼくらの愛のはじまりではないか。
　　　　ぼくらのたたかいのスタートではないか。
　　　　愛、愛こそが、
　　　　ぼくらのたたかいの力、
　　　　愛、愛こそが、
　　　　ぼくらの生きるすべてではないか？

　　　　たたかう、ゆっくりとたたかう。
　　　　やさしくたたかう。
　　　　あたたかくたたかう。
　　　　愛のたたかいだから、
　　　　だれも傷つけない、だれも責めない。
　　　　わかちあうたたかいだから、
　　　　ぼくら自身とのたたかい。
　　　　権利や豊かさのためでなく、
　　　　それは愛するたたかい。
　　　　愛するための、
　　　　愛されるための、
　　　　愛の幸せのための、
　　　　美しい、いのちのたたかい。　　　
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　［POEM-詩集『愛に生きたい』から］

詩一編：「恨みよ溶けよ憎しみよほどけよ」

　　　　　　　
　　　　　恨みよ溶けよ憎しみよほどけよ　　　　　　　
　　　　　　　
　人は、誰かを恨まずにいられないときがある。誰かを恨み、誰かに暴言を吐きかけ、ようやく自らであると思えるときがある。自らの矜持にかけて、自らをかろうじて支えるために、怨みの火をかき立てるときがある。傷つき、ずたずたにちぎれ、ぼろぼろに崩れそうになる心を、激しい熱に焼きながら恨む。傷ついた魂をなおいっそう痛ませて、恨みに恨み、なおも怨む。
　憎しみもまたそうである。憎しむことが彼のあるいは彼女のエネルギーとなるときがある。憎しみにすがりながら、絶望する未来の淵からはい上がろうとするときである。そうたしかに、人は恨みにかられて恨み、憎しみに追われて憎しむ。恨みたくて恨み、憎みたくて憎む。その心にはだが、いつかこの思いほどけよと、せつない願いが渦巻いている。固く結ぼれた怨みよ、憎しみよ、きっといつか溶けよ、解けて流れ出よと。氷のように冷たい切っ先をもったわが憎悪よ、わが身を撃つなと。
　そのためにはしかし、彼の彼女の憎しみよりさらにいっそう大きな翼が、彼の彼女の恨みよりもっともっと力強い柔らかな翼が、彼を彼女を愛と赦しの大地へと、運ばねばならぬ。彼を彼女を碧空のもとに包まねばならぬ。彼を彼女を幸福へと羽ばたかせなければならぬ。すべの傷をくるみ、抱き留め、じんわりと癒す大きな大きな寛容の翼、その愛の羽毛が、彼を彼女をあたたかくゆるさねばならぬ。

　だから、その心にかろうじて祈ろう。その肉体に叱咤して祈ろう。憎悪より熱いエネルギーよ、恨みより深い熱誠よ、矜恃より高い希望の火よ、いまこの心に燃えよ。赤々と燃え上がり、轟々と音立てて、愛、愛ひと筋に、その胸に燃えよ、と。
　恨みよ溶けよ、憎しみよ溶けよ、恨みよほどけよ、憎しみをほどけよ、と。
　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　［POEM-詩集『愛に生きたい』から］

詩一編：「愛する人の中に」

　　　　　　
　　　　　　愛する人の中に
　　　　　　
　　　　
　　　　 愛する人の中に、愛する人に、
　　　　神を見つけたよ、愛の神を。
　　　　かわいい、かわいい女の心の中に、
　　　　神がほほえまれているのを見たんだ。
　　　　神がまなじりをゆるめられるのを、
　　　　この目に見てしまったんだ。
　　　　そうだ、そうだった。
　　　　ぼくは、ぼくという男は、この人に、
　　　　この神に、愛されていたのだったよ。
　　　　ぼくの信ずる者に、
　　　　ぼくの神、ぼくの愛する神に。

　　　　愛する人の、ひたむきな思いの中に
　　　　愛する人の、無償の献身と信頼の中に、
　　　　神が住んでおられる。
　　　　愛の神がにこやかにぼくを、
　　　　このぼくを、見つめておられたのだ。
　　　　愛する人に心から愛されることって、
　　　　きっとそういうことなんだ。
　　　　みんな、聞いてくれ。
　　　　愛されていたんだよ。
　　　　愛の神なる者の愛、燃え立つ愛の炎が、
　　　　ぼくの心をほてらせていることを、
　　　　ぼくの魂を熱くしていることを、
　　　　ぼくは見つけたんだ。
　　　　ぼくは見つけたんだ。
　　　　
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　［ＰＯＥＭ－詩集『愛に生きたい』から］

詩一編：「花の扉」

　　　　　
　　　　　　花の扉
　　　　　　
　　　　
　　　　 泥田にすくっとのびる花茎を立てて、
　　　　水面（みなも）に咲くか、
　　　　白蓮、紅蓮（ぐれん）、ほのかな匂い。
　　　　天を見上げるうてなに光る、
　　　　悲しいほどのあこがれのひとみ。
　　　　泥にまみれているその体と、
　　　　泥にはけっして混じり合わないその心とを、
　　　　自分自身に律して、
　　　　葉にふり落ちている光、光、光。
　　　　その花を愛でているさやかな光。
　　　　つまり、それは恩寵のようなもの。
　　　　天が問いかけるとすぐにこたえて、
　　　　ひとつひとつ開いていく花の扉のなかに、
　　　　きらりと光ったしあわせの涙ひとつぶ。
　　　　愛を求める美しい涙。
　　　　愛に生きるとは、つまりそれ。
　　　　きりりと生きる。
　　　　あこがれを身にまとい、
　　　　天の光を身にまとい、
　　　　花の扉に、いのちを開く。

　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　［POEM-詩集『愛に生きたい』から］