Ⅷ 夕べの林檎
山影も 樹々も
人の影さえ 長く伸びて
丘の上から鐘の響きが聞こえる
樹々の上にのびる
修道院の鐘楼には金の光さして
修道士の手が長く垂れた綱を
揺り上げおろすたびに
きらり きらりと光る金色の鐘
夕影の隅々まで
しみいるような静かな音にひかれて
思わず見上げる丘の塔
それから笑みにあふれて
うなだれて祈る林檎農家の夫婦
頭(こうべ)を垂れ 感謝する
今日の楽しい汗
今日の美しい青空の一日
我が神よ 今日のみ恵をありがとう
今日の報酬をありがとう
この秋も早生(はやなり)の林檎
たんとできました
真っ赤に 真っ赤に実りました
収獲の籠から
もっともよい果実を捧げます
幸せいっぱいの林檎を召しませ
丹誠こめた我らが愛の林檎
いえ この実りはあなたのもの
あなたのなされた奇跡の御業(みわざ)
あなたから戴いたもの
多くの人を喜ばせ
多くの人を幸せへと導く
秋の林檎の実り
世界を 宇宙を
支配され給うあなたの
指の先から生まれたすべてのものの
創造への感謝の思い
暮れなずむ百姓家の
農道走る子らの自転車の
吸い込まれてゆく先に
ほのぼのと灯るのは
夕餉まぢかの明かり
夕餉の準備の喜びの暖かさ
この世の苦しみ乗り越えて
その団欒へと
今日も歩み入ろう
背中の林檎の籠とともに
世のみなに祝福を与えながら