フランシスコの花束

 詩・韻文(短歌、俳句)

林檎の祈り

2012-03-29 09:16:45 | POEMS(詩)

   Ⅷ 夕べの林檎

 山影も 樹々も
 人の影さえ 長く伸びて
 丘の上から鐘の響きが聞こえる
 樹々の上にのびる
 修道院の鐘楼には金の光さして
 修道士の手が長く垂れた綱を
 揺り上げおろすたびに
 きらり きらりと光る金色の鐘
 夕影の隅々まで
 しみいるような静かな音にひかれて
 思わず見上げる丘の塔
 それから笑みにあふれて
 うなだれて祈る林檎農家の夫婦
 頭(こうべ)を垂れ 感謝する
 今日の楽しい汗
 今日の美しい青空の一日
 我が神よ 今日のみ恵をありがとう
 今日の報酬をありがとう
 この秋も早生(はやなり)の林檎
 たんとできました
 真っ赤に 真っ赤に実りました
 収獲の籠から
 もっともよい果実を捧げます
 幸せいっぱいの林檎を召しませ
 丹誠こめた我らが愛の林檎
 いえ この実りはあなたのもの
 あなたのなされた奇跡の御業(みわざ)
 あなたから戴いたもの
 多くの人を喜ばせ
 多くの人を幸せへと導く
 秋の林檎の実り
 世界を 宇宙を
 支配され給うあなたの
 指の先から生まれたすべてのものの
 創造への感謝の思い
 暮れなずむ百姓家の
 農道走る子らの自転車の
 吸い込まれてゆく先に
 ほのぼのと灯るのは
 夕餉まぢかの明かり
 夕餉の準備の喜びの暖かさ
 この世の苦しみ乗り越えて
 その団欒へと
 今日も歩み入ろう
 背中の林檎の籠とともに
 世のみなに祝福を与えながら


林檎の祈り

2012-03-19 00:36:52 | POEMS(詩)

   Ⅶ 花咲く日

 濃い色の桃の花が
 風の中に散ってゆき
 ほんの一足違いで
 淡い桜の花が咲き始める
 桜の花はゆっくりと北上し
 みちのくのここ弘前では
 ひときわたっぷりと美しく
 ひときわ楚々として耀(かがよ)い
 ひときわあでやかに笑む
 あまりの花の景観に
 人の数はいっかな途絶えぬ
 桜たちはただ春ゆえに毎年毎年
 歌い 舞い そよぐのだけれど
 人の数の 人の喧噪に
 いつも面くらい しどもどして
 幸せのような悲しいような思いに
 春の匂いをないまぜてうなだれる
 愛でてくださるのはうれしいけれど
 人いきれはたまらん
 酒の匂いなんてもっともっと苦手
 観光列車を連ね バスを連ね
 たくさんの人が集まり
 花が散る頃には潮引くように
 人混みは見事に去って行く

 そのようにして桜がようやく静かな瞑想の中で
 葉影をひろげる頃だよ
 林檎が白い花を枝いっぱいにひろげるのは
 えもいわれぬ白さに
 お百姓さんたちは思わず溜息が出る
 思わずうっとりとして
 あっちてもこっちでも小さくつぶやく
 今年も花いっぱいだ
 ええ実りがあるとええだ
 今年も忙しくなるぞ
 背中をぞくぞくさせながら
 さらに独り言をつけ加える
 林檎は花だけじゃないぞえ
 桜みたいに花だけじゃないぞえ と
 ちょっと胸そびやかしてえばってみせる
 林檎の花も応えるだろう
 枝をぴんぴんとふるわせて
 そうだ そうだ
 このお百姓さんを今年も
 いやというほと忙しくさせてやるんだものね
 うっはは うっはは
 うはっは うはっは
 笑いのおまじない聞かせてくれたら
 いつもの何倍も 何十倍も
 みんごと実らせよう
 だれもが だれもが
 優しい気持ちになるように
 みんなが みんなが
 幸せな笑顔になるように


罪人の神 赦しの神

2012-03-18 15:46:40 | POEMS(詩)
 

 荒れ狂い すさむ心は
 おまえが神から遠ざかった証拠
 凍えるほどのふるえは
 おまえが神を見捨てたしるし
 おまえが見捨ててもしかし
 神は見捨てぬ
 おまえをけっして見捨てはせぬ
 見捨てぬ故に苦しまれる
 十字架上のあの苦しみを思い起こされて
 まさに背いたおまえのために
 血の涙を流される
 ああ だからといって
 おまえは悔い改めよと命ぜられているのではない
 おまえのなすべきことはひとつ
 ただ黙って苦しまれている主を思い起こせ
 おまえを見つめるそのまなざしの絶望的な悲しみを思え
 神はおまえのような罪人をこそ慈しまれている
 神はおまえのような孤独者をこそ憐れまれている
 主の胸は今張り裂けんばかり
 主の心は今激しく問いかけようとしている
 おまえはなおもなおも罪を重ねるのか
 おまえはなおも神に背を向けるのか
 いつまで いつまで
 待たねばならぬのか
 いや わかっている
 神はわかっておられる
 回心したいと願いながら
 今なお罪人の衣を脱ぐことのできない
 おまえのだらしなさを
 主は赦される
 回心の意向を持ちながら
 なお罪人にとどまっているおまえを赦し、待たれる
 なぜなら おまえの神は
 罪人の神
 赦しの神なのだから


神に抗うこと

2012-03-15 16:54:50 | POEMS(詩)

   神に抗うこと

 ぼくは神を畏れぬ者
 神に抗い
 神に刃向かい
 神に楯を突く
 さんざんぱら 凝りもせず
 神と格闘して
 くんずほつれつ取っ組み合って
 しこたま神に撃たれて
 その痛みに涙する
 だがその涙は喜びの涙
 幸せの涙
 神はこんな半端なしもべに
 まともに向き合って
 まともにたたかいを受けとめ
 容赦しつつ
 ゆっくりと でもこてんぱんに
 やっつけられた
 瘤と痣だらけの醜さは
 それは神の愛の証拠
 痛む所をなでさすりながら
 天を仰ぐ
 あらためて祈る心で仰ぐと
 真っ青な空を包んでいる
 春霞む神の愛のベール
 希望の太陽が
 ぼくの魂に照っている
 幸福とはこれを言うんだと
 喜びとはこの感謝の祈りの中にあると


林檎の祈り

2012-03-09 22:51:18 | POEMS(詩)

   Ⅵ 林檎の目覚め

 朝が明けると
 太平洋の海波がきらきらと
 まぶしく光り出す
 あれほど悪魔の力を
 この地に押し寄せた
 海は今美しく凪いでいる
 たくましくなった幹に
 優しい海風が柔らかく
 いくつもの口づけ
 働き者の夫婦が
 その幹をなでさする
 そして伝統の予祝
   たくさん実れ
   たくさん実れ
   実らぬならば
   おまえを樵ってしまうぞ
 幹の根もとに銀色に輝く斧を立てかけ
 夫婦二人で祈る
 今年の豊かな実り
 あの災害を乗り越えた夫婦と
 あの大津波に堪えた林檎の木は
 同じ苦悩を抱いて
 冬を越えた
 林檎は知っている
 夫婦の願い
 脅されて実るのではないと
 夫婦に告げたくて
 そっと枝をふるわせる
 ふと強くなった海風になぶられたかと思わせて
 林檎は深い愛と連帶を
 感じているのだ
 ああ 共に生きている
 共に苦難を乗り越え
 共に明日の豊かな実りを求めている
 その祈りを林檎も
 天なる神に祈る
 そのいのちを見守り給う神に
 夫婦と心合わせて祈る
 どうかこの夫婦に豊かな自然の恵みを
 幸福な果実をと
 すっくと幹を引き締め祈る
 ああ 見晴るかす大海原の上に
 今日もお日様が昇ったよ