第八芸術鑑賞日記

評価は0.5点刻みの10点満点で6.0点が標準。意見の異なるコメントTBも歓迎。過去の記事は「index」カテゴリで。

地獄門(1953)[旧作映画]

2008-11-04 03:18:30 | 旧作映画
 08/3/27、神保町シアターにて鑑賞。6.0点。
 米アカデミー賞で衣装デザイン賞と名誉賞、カンヌでグランプリを獲得した日本映画の金字塔……という歴史的な評価を持つ一方、今日でも人気の作であるとは言いがたい。ストーリー(菊池寛原作の時代劇で、人妻に惚れてしまった男の物語)が陳腐であるとか、衣笠の演出に切れ味がないとか、様々に批判されている。確かに物語映画としての出来はよろしくないかもしれない。いやそもそも、欧米から見た日本的美が評価されての受賞なのだと考えれば、日本国内でそこまで高く買われないのも不自然ではない。
 しかし何はともあれ、このカラー映像の見事さだ。50年代前半の作品でここまで綺麗なカラーは観たことがない。前半、海をバックにしたシーンなどでは度肝を抜かれる。何と鮮やかな青だろう。日本初だというイーストマン・カラーの出来栄えに拍手である。これでプラス1点(逆に言うと、映像以外に楽しめるポイントが無い)。
 衣笠貞之助という監督については、これまで『狂った一頁』('26)の一部分をフィルムセンターで観たことしかなかったため、その尖がった実験性ばかりが印象に残っていたのだが、本作に関しては時代劇の様式美を前面に出している。というより、様式美を信じすぎていると言ってもいい。テンポが緩慢で、もう少し語り口に工夫が欲しかったところである。ここで言うテンポというのは、ストーリー全体の流れもさることながら、個々のショット、個々のシークエンスがやたらと冗漫だという意味である(特に会話シーンに典型的)。『狂った一頁』の前衛作家という印象からすると、本当に同じ監督の作品なんだろうか、と感じてしまった程だ。
 というわけで、今観ても驚かされるカラー映像は文句なしに素晴らしいのだが、日本映画の歴史そのものに興味がなければ楽しむことは難しい。長谷川一夫、京マチ子といったキャストのファンは一見しておくべきか。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hychk126)
2008-11-07 01:24:11
わたしは、安易なエキゾチシズムに流されず作品本来の価値を見据えるべきである...という風なことを眉間にしわを寄せて言いたいタイプの人間ではありませんし、そういう要素を含めての作品ですから、雰囲気に酔うこと自体あって良いことだと思ってます。、..が、....にしても、しかし、これはいただけません。記憶が薄いので詳細に踏み入れませんが、観ていて少しでも次の展開に期待が高まる瞬間が皆無でした。これが国際的な場で高く評価されてしまうのは、評価する側にとっても日本映画にとっても、ちょっと小恥ずかしいことだ思います。
思えば同じ頃、溝口の雨月がヴェネチアに上陸しているわけで、19世紀のジャポニズム・ブームに匹敵するくらい、当時のあちらの知識人は日本にメロメロだったのでしょうね。
返信する
Unknown (0miwaken@管理人)
2008-11-07 03:13:21
まったくその通りだと思います。
……と言いつつこれを自分の評価軸の中で「標準」の出来としてしまうのは良くなかったか……と思い始めました(笑
唯一良かったと思えたカラーの綺麗さ云々というのも、せっかく観てるんだから何か楽しめるポイントを見つけたい、というような心境から無理やり褒めるべきところを見出してしまったと言えなくもないです……

また、

>国際的な場で高く評価されてしまうのは、評価する側にとっても日本映画にとっても、ちょっと小恥ずかしいこと

こういう事例って実際多いんだろうなぁと思わされたりもした一本でした。そして逆に、この文で述べられている「日本映画」という言葉を「評価される側」に置き換え一般化してみれば、自分自身が外国映画(映画に限らず自分から遠い文化全般に当てはまりますが)を見る目というのも同様の事態に陥っているかもしれないな、とも。
返信する