08/3/30、NFCにて鑑賞。7.0点。
わずか50分。マキノ正博と阪東妻三郎はその間に名シーンを次々と繰り出してゆく。「一番星消えた」「韋駄天走り」「十八人斬り」……いずれも日本映画史に名を残す。時代劇、マキノ、阪妻、いずれかのファンなら迷わず観るべき必見作だろう。
経験談として述べておくと、鑑賞前に物語に関しての予備知識は持っておいた方がいい。赤穂浪士の英雄、堀部安兵衛が堀部家へ婿入りする以前の「中山安兵衛」時代(つまり青年時代)を描いたもので、公開当時の日本人には有名なエピソードだったのだろうが、(俺含め)現代人だとそこの教養を欠いた人が多いはず。最後まで主人公と言葉を交わさないヒロインの存在など、背景を知らないと意味がよくわからないままになってしまいかねない。
その中山安兵衛、物語も終盤を迎えるまでは、ひたすら酔っぱらい男として描かれる。「一番星~」の台詞に象徴される酔漢剣客としての阪妻のキャラクター造形はお見事で、戦前にすでに酔拳を先取りしていているかのようで楽しい。そんな彼がクライマックスで見せるのが「韋駄天走り」で、ここでの疾走するショットの執拗な反復は、(個人的にはやり過ぎの気がしなくもないのだが)良くも悪くも鮮烈な印象を残す。何より、「走る」というシンプル極まりないアクションをフィーチャーするだけでも魅力的な場面になるのだ、ということをこうも確信をもってやれるというのが凄いではないか。そしてラストを締めくくる「十八人斬り」の殺陣。阪妻は言うまでもないとして、エキストラの数なんかも圧巻だ。
物語、人物描写、アクション……どの要素もないがしろにすることなく50分という尺の中で描ききってしまうのだから、限界まで無駄を排して作品全体が猛烈な速度で疾駆するのかと思いきや、そう単純ではない。たとえば主人公が伯父に説教される場面では、伯父と別れた後で主人公が一言一句に至るまで反芻して再現したりする。こういった余裕を感じさせるシーンが多数あるために、「ストーリーを語ることで精一杯」といった性急な印象を全く与えない。緩急を巧みに織り交ぜたテンポで軽快に進むのである。これはもうマキノにしか不可能な芸当だろう。本作では、「早撮り」のイメージが付くことを恐れて稲垣浩の名を拝借し、共同監督の名義にしたらしいが、いやいや早撮りの多作というのは紛れもない才能だ。ひれ伏すしかない逸品である。ただし、個人的にはそれでもやはり50分は短すぎたのではないかと思えてならない。せめてあと15分、いや10分でも長く見たかった。
名作。
わずか50分。マキノ正博と阪東妻三郎はその間に名シーンを次々と繰り出してゆく。「一番星消えた」「韋駄天走り」「十八人斬り」……いずれも日本映画史に名を残す。時代劇、マキノ、阪妻、いずれかのファンなら迷わず観るべき必見作だろう。
経験談として述べておくと、鑑賞前に物語に関しての予備知識は持っておいた方がいい。赤穂浪士の英雄、堀部安兵衛が堀部家へ婿入りする以前の「中山安兵衛」時代(つまり青年時代)を描いたもので、公開当時の日本人には有名なエピソードだったのだろうが、(俺含め)現代人だとそこの教養を欠いた人が多いはず。最後まで主人公と言葉を交わさないヒロインの存在など、背景を知らないと意味がよくわからないままになってしまいかねない。
その中山安兵衛、物語も終盤を迎えるまでは、ひたすら酔っぱらい男として描かれる。「一番星~」の台詞に象徴される酔漢剣客としての阪妻のキャラクター造形はお見事で、戦前にすでに酔拳を先取りしていているかのようで楽しい。そんな彼がクライマックスで見せるのが「韋駄天走り」で、ここでの疾走するショットの執拗な反復は、(個人的にはやり過ぎの気がしなくもないのだが)良くも悪くも鮮烈な印象を残す。何より、「走る」というシンプル極まりないアクションをフィーチャーするだけでも魅力的な場面になるのだ、ということをこうも確信をもってやれるというのが凄いではないか。そしてラストを締めくくる「十八人斬り」の殺陣。阪妻は言うまでもないとして、エキストラの数なんかも圧巻だ。
物語、人物描写、アクション……どの要素もないがしろにすることなく50分という尺の中で描ききってしまうのだから、限界まで無駄を排して作品全体が猛烈な速度で疾駆するのかと思いきや、そう単純ではない。たとえば主人公が伯父に説教される場面では、伯父と別れた後で主人公が一言一句に至るまで反芻して再現したりする。こういった余裕を感じさせるシーンが多数あるために、「ストーリーを語ることで精一杯」といった性急な印象を全く与えない。緩急を巧みに織り交ぜたテンポで軽快に進むのである。これはもうマキノにしか不可能な芸当だろう。本作では、「早撮り」のイメージが付くことを恐れて稲垣浩の名を拝借し、共同監督の名義にしたらしいが、いやいや早撮りの多作というのは紛れもない才能だ。ひれ伏すしかない逸品である。ただし、個人的にはそれでもやはり50分は短すぎたのではないかと思えてならない。せめてあと15分、いや10分でも長く見たかった。
名作。