3/9、シネマライズにて鑑賞。
7.0点。
映画の命は編集だ。もちろんハナシがつまらなきゃ面白くなりようもないし、個々のショットが酷かったらとても見れたもんじゃないし、俳優が揃って冴えない顔ばかりしていたら盛り下がるだろう。だがそれでも、編集こそが映画の映画たるゆえんだと、(少なくとも今の)俺の映画観は主張する(まぁもう少し広げていえば、編集を含めたポストプロダクション全般だ)。
適当に撮った顔のアップが、葬式のショットで挟めば悲しそうに見え、観光地のショットで挟めば楽しそうに見える。そういうモンタージュ理論の発見こそ映画史上の最大の事件であって、だから常に映画史の端緒として扱われるリュミエール兄弟は、あくまで前史という位置づけにすべきだろうとしか思えない。
長回しとかワンシーンワンショットとか、そういった技法も「編集」という作業の存在を前提にしてこそ輝くのであって、そうでなければただの冗長な動画の垂れ流しにすぎない。
その意味で、本作の上映時間の九割に対しては5.5点くらいしかつけられないが、ラスト5分間には9.0点くらい献上したい。いや、もう部分限定なら10点でもいい(7.0点というのはその妥協点だ)。
山崎まさよしのフォーキーな歌を(おそらく)フルレングスで流し、その間に短いカットを目まぐるしく繋いでいく。台詞も何もない。出てくるショットのほとんどはそれまでのシーンからの抜粋であり、話が進展するわけではない。回想のような位置づけのシークエンスだ。だがこの五分間に、本作の全てが賭けられている。
「連作短編アニメーション」と銘打たれた本作の上映時間はわずかに60分。描かれる二つの初恋の物語は、いずれもシンプル極まりなく、どこまでも青臭く、演出も限りなくベタだ。
そんな凡庸な物語から掬い取られたショットたちが、各々は瞬時に消えてしまいながらも数積み重なって、二度と戻らない日々への郷愁を完璧に表現する。それまでの55分間は長い前フリだ。
アニメ作品としての本作については、賛否分かれるところだろう。基本的にリアル志向な背景の上を、いかにもアニメ然としたキャラクターが動き回るのには、大きな違和感を覚える人が大半のはずだ。駅の看板や現実の街並みまで完璧に再現しようとしている背景美術に対し、クリクリとやたら目の大きいキャラクター造形。チグハグな印象は否めない。
ただし、個々の画のクオリティは圧倒的に素晴らしい。これが三作目となる監督の新海誠は(俺は本作で初見)、25分間のデビュー作『ほしのこえ』をたった一人で作りあげた職人。
また、鹿児島を舞台にした第二話では海や空がフィーチャーされるが、(ロケット打ち上げのシーンに顕著なように)派手な色彩によってかなりファンタジックな味わいが加えられており、独特な世界を作り上げている。
第一話での節操の無いモノローグの使い方や、第二話での類型的な人物造形など、全編通じて恥ずかしいくらいに青臭いのは事実。また、あまりにも狭く自己完結した印象の作品世界に息苦しさを覚えるようにも思う。
それでも、このラスト5分間をスクリーンで見逃すのはあまりにもったいない。