第八芸術鑑賞日記

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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(08/4/26公開)

2009-08-15 23:54:26 | 08年4月公開作品
 08/5/28、アミューズCQNにて鑑賞。7.0点。
 まだ若いのに寡作なポール・トーマス・アンダーソン(PTA)だが、コーエン兄弟の『ノーカントリー』とオスカーを争ったこの新作で、急激に凄みを増したように思う。いや、思う、などと自信なさげなことを言っている場合ではなく、確実に凄みを増している。といってもこれまでのPTAというと個人的には『マグノリア』('99)しか観ていないのだが、そのときに自分の中で貼ってしまった「無闇に才気走った印象ばかりが残る若手監督」というレッテルは、本作を観て慌てて引き剥がすことになった。
 本作には原作があって、アプトン・シンクレアが1927年に発表した『石油!』がそうらしいのだが、恥ずかしながら今回初めて耳にしたくらいなので未詳。PTA自身による脚本でかなり脚色が加えられているという話も聞くが、それも比較できない。ただ、たとえば『ノーカントリー』が同時代作家の小説を原作にしていたのに対し、80年前の小説をあえて今映画化したという事実からは、なにか確信犯的な信念のようなものを感じなくもない。
 で、その原作を現代において映画化し、158分の長尺をかけて一体どんな物語が語られたのかといえば、石油で財をなした男の一代記である。そこに大きな影響を与えているサブキャラクターは二人で、一人は孤児だったところを主人公が引き取って息子として育ててきた少年、もう一人は主人公が石油採掘のために居を構えた村の神父だ。特に後者(神父)は物語のターニングポイントに繰り返し登場し、主人公の終生の敵のように描かれる。この神父を主人公に匹敵する重要人物として捉えれば、本作は、金によって権力を拡大しようとする男と宗教によって権力を拡大しようとする男との壮絶な戦いの記録となる。しかしまた一方で、「息子」の存在も極めて大きい。本作の主人公の一生というのは、孤独を求めつつも家族を欲し(「息子」のみならず、映画後半では「弟」も登場する)、しかしつまるところ自分以外の誰もが他者でしかないと知るに至る、そういう人生であったと言える。
 ……こうして主題論的に取り出される数々の物語は、単純といえば単純だし難解といえば難解だが、しかし本作には、それをどう捉えるにせよ、「これは○○についての物語だ」といった形での一般化を一切拒絶するようなところがある。それはおそらく、本作が徹底して叙事詩として作られているためで、その形式ゆえに、そこからは際限なく多くのものを汲み出すことが可能になっている。しかし「際限なく」とはいっても、汲み出せるものの範疇には限りがある。タイトル("There will be blood")が示しているように、それは必ずしも多くの人にとって快いものではない。ともあれ、PTAが送り出してきたこの巨大な作品に対して、その主題を論じたいという誘惑には駆られない。ただ一編の叙事詩として受け止めておきたいと思う。
 むしろ、本作に関してその突出した点としてはっきり名言できるのは、個々のショットの圧倒的な力強さである。オスカーの撮影賞を獲ったロバート・エルスウィットによる画面は、全ての映画ファンが歓喜すべき目のご馳走だ。はじめに(あえてシネフィル的な言い方で)総括しておくと、本作において決定的な働きをなすアクションは、基本的にどれも垂直運動である。石油を掘るに当たって人は穴の中で昇降を繰り返し、いざ石油(=blood)が出るとなればそれは上方への噴出として現れる。駄目押しのように、オープニングで振り下ろされるツルハシとラストで打ち下ろされるボウリングのピンとは明確な対称をなしている。しかし本作はシネスコで撮られているので、横長のスクリーンを使って垂直方向の運動を見せる、という画面設計の上手さが要求されることになるのだが、これがとんでもなく上手い。特に、前半の山場となる油井炎上シーンなどは完璧としか言いようがない。アングル、カット割、カメラワークと揃ってこれだけタイトな演出を見せつけられてしまうと、やはりアメリカ映画はとんでもなく凄いと痛感する。これと比べればタルコフスキーによる『サクリファイス』('86)のラストなどは児戯に等しいとすら言えてしまうかもしれない(流石に怒られるか)。
 撮影に加えて、音楽も特筆しておかねばならない。ジョニー・グリーンウッド(Radiohead)によるスコアは、過剰に現代音楽的なもので、良かれ悪しかれ鮮烈な印象を残す。場面によっては不穏さを醸し出す狙いが少々はっきりしすぎている感もあるが、それでも魅力的だ。爆音上映にも最適な素材だろう。
 それからもちろん忘れてはいけないのが、ダニエル・ルイ=デイスによる完璧な人物造形だ(オスカーの主演男優賞)。ほとんど出ずっぱりで主人公の半生を体現してみせるのだが、これほど説得力を持ったキャスティングというのはなかなか難しいだろう。
 30台にしてすでに巨匠のような風格を獲得してしまったPTAの新たな代表作。必見。
ジャンル:
映画(DVD)
キーワード
ノーカントリー アメリカ映画 カメラワーク タルコフスキー ボウリングのピン サクリファイス グリーンウッド シネフィル アンダーソン コーエン兄弟
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