第八芸術鑑賞日記

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花よりもなほ(6/3公開)

2006-06-27 11:54:48 | 06年日本公開作品
 6/15、渋谷シネパレスにて鑑賞。6.5点。
 『誰も知らない』の是枝裕和最新作は、人情時代劇
 父の仇討ちのため江戸に出てきた若侍は、貧乏長屋に暮しながら仇を探し回っている。しかし広い江戸で簡単に仇の見つかるはずもなく、長屋の子供たちに寺子屋まがいのことをして過ごす日々。もともと剣の腕もなく、気性も穏やかな彼は、いつしかそんな毎日に安住しているのだった。一方その頃、前年に主君を切腹に追い込まれた赤穂浪士たちが、仇討ちの機会を狙っていた……
 上映時間の大半を占めるのは、主人公と長屋に暮らす人々との交流。その群像劇としての側面を横軸に、主人公の仇討ちに関する話が縦軸として全編をまとめている。そこに赤穂浪士の仇討ちという歴史上の事件をからめているが、フィクションと史実とのバランスのとり方がなかなか上手い。これらプロットに関しては、監督自身による映画のためのオリジナル脚本だけあって、まとまりの良さは抜群である。
 タイトルの「花よりも……」というのは、散る桜の花に象徴される、儚さという日本人的美意識への問題提起だ。まぁそれ自体は現代人の感覚からいってごく正論であるし、終盤の感動を盛り上げるためのテーマとしては成功している。しかし是枝作品というのは、こういう明快なテーマが見えてくると途端に、その優等生的な性格に少々辟易させられてしまう。あえて映像詩として昇華させた『誰も知らない』のような撮り方を復活させてほしいとも思うのだ。
 ……といっても、本作のわかりやすいテーマ、分かりやすいストーリーは、人情時代劇というジャンルにおいては正しい作り方である。観客にもうしばらく観ていたいと思わせる幸福な二時間余。
 全体の印象はコメディタッチだが、個性的なキャストがそれを支えている。
 また、ヨーロッパの民族音楽のようなサントラが実にいい。
 最終的には、どうしてもパンチが足りないためこのくらいの評価に落ち着くが、佳作といっていいだろう。

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