第10話「ヨーヨーと口紅 三代目の初恋」(1987年1月15日)
の続きです。
笑ったり、しかめっ面をしたり、鏡に自分の顔を映している唯。

いつの間に買ったのか、ピンクの口紅を取り出し、良の面影を思い浮かべながら唇に当ててみるが、
唯「あほらしかー、寝よっ」
急に我に返り、口紅を放り投げて布団に潜り込むのだった。
翌日、剣道部に入部した良がひとり道場で素振りをしているのを、入り口からこっそり見ている唯。
さすが忍びだけあって、良はすぐ唯の存在に気付く。

良「今日は剣道部の稽古は休みだ。一本やらないか? やれるんだろう?」
唯「……」
管理人、ここで大変下品なギャグを思いついたが、理性の力で、なんとか書くのを断念したことを告白しておく。
どんなギャグかは、各自で考えるように。

互いに剣道着を着て、地稽古を行う二人。
しかし、普通、男が女の子に剣道の稽古やらないか? なんて言わないよね。
それはともかく、バックに流れる「ジレンマ」が、どう考えてもシーンと合ってない。
剣道の心得のある良に唯がかなうはずもなく、次々と打ち込まれるが、唯に向かって飛んで来たパチンコ玉のようなものを良が竹刀で弾き飛ばした隙に、唯が一本取ってしまう。
ま、防具をつけてるんだから、当たってもどうと言うことはなかったと思うが。

校庭で本を読んでいるミヨズ。
その近くで用務員が落ち葉を集めていた。
やがて、パラパラと雨が地面を叩き始める。

ミヨズ、眼鏡を外し、

空を見上げる。
くぅ~、やっぱり綺麗やわぁ。
まぁ、屋敷さんはモデルが本業なので、演技はいまいちだけどね。
その雨の中、良と相合傘で帰宅中の唯。

唯「良さん、わちを助けてくれたね。あの玉、わちを狙っちょった」
良「知ってたのか」
唯「命ば狙われちょって、変な話じゃけど、なんでか、怒りも力も湧いてこん……わち、どうしたんじゃろ」
良「……」
唯、戸惑ったような顔でつぶやくと、駆け出そうとして、あの口紅を落とす。
良が反射的に拾おうとするが、
唯「いらん、どうせ使わんもんじゃから」
良「……」
唯「おかしか、今日のわち……ひとりで帰るばい」
唯は雨に濡れながら、ひとりで走り去る。
無論、唯は、恋する普通の女の子としての自分と、影と戦うスケバン刑事としての自分との狭間で揺れ動いているのである。
一方、とある画廊で、結花と由真が、礼亜と会っている。

礼亜「星流学園の中に影の忍びが入り込んでるわ」
結花「らしいわね」
由真「危うく死ぬとこだったぜ」
礼亜「すべてはあるときから始まっている。風花良が転校してきた時から……確かに、風花良は風魔の隠れ里を出ている、でもそれが転校してきた風花良と同じ人物かは分からないわ」
由真「影が良兄ちゃんになりすましてるって言うの?」
礼亜「かもしれない。敵の懐に飛び込み破壊する、それが忍び、考えられないことじゃないわ」
結花「そんな……」
由真「冗談じゃないよ」
この時点では、礼亜にも影の刺客が誰なのか、確言できないのだった。
姉たちからその話を聞かされた唯は、とうぜん強く否定する。
唯「良さんは影じゃなか、正真正銘の良さんじゃ、わちにはわかる」
由真「能天気でいいなぁ、てめえは」
唯「良さんはわちの命を救ってくれたんじゃ」
結花「どういうこと、唯?」
唯は、ブロックやパチンコ玉から良が守ってくれたことを話す。
由真「カムフラージュってこともあるぜ」
結花「私は信じるわ」
由真「姉貴!!」
結花「疑えばキリがないわ、由真、父さんの言葉を思い出すの……止観よ」
由真「止観?」
ここで、久々に、父・小太郎の思い出が回想される。
幼い頃の結花と由真、そして良が騒いでいるのを見て、食事の支度をしていた小太郎が三人を正座させる。
小太郎「目をつむりなさい」

小太郎は手にした包丁を良の目の前に振り下ろすが、すでに忍びの心得があったのか、良は目をつぶったまま、顔を少し動かしてそれをかわす。
小太郎「おお、えらいぞ、良、それが止観だ。心を無にしてみれば、全ての物が止まって見える。その時、初めて本当の姿が見える。結花も由真も正しい心で物を見つめることを忘れちゃいかんぞ。止観で見ればやがて真実が見えてくる」

結花「心の目に映ったものだけを信じるの……由真、私の心の目は、風花良は昔のままだと告げてるわ、いつも私たちを助け、守ってくれたあの良だとね」
唯「そうじゃ、きっとそうじゃ!! 良さんは結花姉ちゃんや由真姉ちゃんのおもうちょったとおりの人じゃ、間違いなか、な?」
由真「あんた、良にいちゃんのことを……」
由真、嬉しそうに身を乗り出す唯のほっぺたを指でつつく。
唯「姉ちゃんらと一緒じゃ、だってきょうだいじゃもん」
その後、風間家に近付く黒装束の忍びの姿があった。
家の前に張り込んでいた良が、それを攻撃し、追い掛けるが、忍びは良の名を騙った呼び出し状を家の中へ放り込んでいた。
三人はすぐ、指定された学園の屋上へ向かうが、途中で般若に止められる。

般若「退けい、これはお前たちに仕掛けられた罠だ。良と前後して、学園に入り込んだ者に、どうしても身元の分からぬ者が二人居った」
由真「じゃあ、そいつらがさっきのコマを?」
結花「やっぱり良ちゃんは……」
般若「紛れもなく本物だ」
もっとも、良が怪我をしていると知った三人は結局学校へ向かい、般若もそれを許す。

校庭からは、屋上に設けられた十字架に良が縛られ、その頭の上でコマが回っていると言う、いささか間の抜けた光景が見えた。

三人は急いで良のところへ行こうとするが、途中の細長い踊り場では、たくさんのコマがぐるぐる回転していた。
唯「なんじゃこりゃー?」
それは近付く者に反応し、互いにぶつかり合って激しく飛んでくると言う厄介なトラップだった。
三人は一旦下がる。
結花「踊り場の闇のどこかに、コマを操る影がいる。それさえわかれば」
唯「止観じゃ、こっちの気配を消して、心の目で見ればええんじゃ……姉ちゃん、止観じゃ!!」
結花「唯!!」
結花は折鶴を顔の前にかざし、目をつぶって精神を集中させる。

結花「見えた、右から弧を描いて飛んでくるのは右回転、左からのは左回転、その左右を結ぶ一点に敵はいる!!」
何だかよくわからないが、結花の言葉を頼りに影の居場所を突き止め、それぞれの武器で攻撃する。
つーか、止観だの小難しいことを言わずとも、懐中電灯で照らせば良かったのでは?
それはともかく、刺客の正体は、最初に記したように、あのカジケン用務員であった。
が、刺客は不利を悟ると、自ら喉をかき切って命を絶ってしまう。
前回のハヤブサもそうだが、あまりに諦めが早過ぎる。
三人がやっと屋上へ辿り着くと、唯や良に向けて、鋭い槍が何本も飛んでくる。
二重のトラップだったが、それは何者かによって叩き落される。
続いて、彼らの前にセーラー服姿のミヨズが登場。

ミヨズ「あっはは、あっははは……どうやらこの学園の風魔はあなたたちだけじゃなさそうね」
唯「お前、なにもんじゃーっ」
ミヨズ「あはは、あはは……私の名はミヨズ、覚えておきなさい、いずれあんたたちもこの風花良と同じ運命を辿ることになるでしょうから、あはははは……」
屋敷さん、発声が苦手なのか、いまひとつ迫力のない笑い声になっている。
ミヨズは笑いながら空に飛び上がり、闇の中へ姿を消す。
しかし、過去の事例から鑑みて、任務に失敗したミヨズも、翔に処刑されないといけないと思うのだが……
三人は良の体を十字架から助け下ろすが、既に良は虫の息だった。

良「君たちの父を殺したものは、恐るべき影の頭目……君たちの父上から預った物だ。これに秘密が……」
良、「翔」と言う字が書かれた鞘に入った短刀を取り出し、唯に託す。
しかし、良はどうやってそのことを知ったのか、何の説明もないのは物足りない。
第一、そんな大事なものを、なぜ他人である良に預けねばならなかったのだろう?
良「結花、由真、唯、さよならは言わない、だからいつでも僕が見守っていることを忘れないで……くれ……」
唯「良さんーっ」
由真「良兄ちゃん……」
良の体に縋りつき、泣きじゃくる三姉妹。

それを離れたところから見ている般若。
無論、槍を叩き落したのは般若だった。
般若は夜空を見上げ、
般若「人の世に蔓延りし邪悪のものら、陰を陽となさしめんとするか、哀れなるかな……」
こうして、唯の淡い初恋は、影と風魔の暗闘の中に飲み込まれて消えたのだった。
エピローグ。
初めて良と会った本屋のあの場所を再び訪れた唯。

振り向いて、短い間に積み重ねた良との思い出を噛み締める。
と、その良が階段を降りてきたのでハッとするが、無論、それは唯の錯覚に過ぎなかった。
唯(良さん、父ちゃん、この仇はわちが必ず取っちゃる。必ず……)