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小さな旅(3.5)

2017-01-17 06:25:51 | Travel (Okinawa)



釣り人は50代ぐらいの

男性で、地元は東京だと言い、

度々時間ができるとこの島に

遊びに来るらしい。


その後、男性とは

たわいもない話を

してから別れた。


7月初旬にも関わらず、

日差しは強く、暑さと開放感から

上着を脱ぎ捨て

上半身裸になっている。


近場の浜辺で

腰を落ち着かせながら、

青々とした海と空を

眺めていると、

自分が今どこにいるのか

忘れてしまいそうになる。


いや、

忘れた方がいいのかも知れない。


いろいろな思考が現れては

消えていく。


どれぐらいの時が過ぎたのか、

気がつくと空がオレンジ色に

変わり始めている。


遠くの地平線で太陽が

沈もうとしている。


その光景に、

再び思考の海に浸かりそうに

なったのだけれど、

なんとか抑えて

来た道を戻り始めた。


道端の雑草が太陽の光を

反射して黄金色に靡いている。



風は身体を心地よく

通り過ぎて行く。



民宿に着くと、

すぐに夕食となり、

名前は忘れたけど地魚の煮付けを

中心とした料理がテーブルに並んだ。






初めての味だったけれど、

僕の舌に合っていて美味かったし、

一緒に飲んだオリオンビールが

格別だった。



ほろ酔い気分でシャワーを

浴びて部屋に戻り、

畳に寝転びながら板目の

天井をボーと眺め、

暫しの間無の状態に入る。



再び起き上がり

携帯で時間を確認すると、

午後8時を過ぎていた。



若干酔いに足りなさを感じ、

食堂でオリオンビールの缶を

二本購入してから暗い夜道に繰り出した。



建物の明かりが少ないことと、

空気が澄んでいることによって、

空には幾万もの星が広がっている。


前浜ビーチに着くと、

さらに月光が海に反射していて

辺りを優しく照らしていた。



僕は砂浜に寝転ぶ。



波の音と風の音が

混じりあう神秘的な時間を

過ごしていると、

頭上の方から砂を踏む音が

聞こえてきた。


人が来たかなと、

思ったのだけれど

足音が妙に軽やかだったので

振り向いて見ると、

10m程先に鹿が二頭歩いている。


鹿も僕に気がついたのか

足を止め、暗闇に光る眼光が

四つこちらを向く。


向いたといっても一瞬で、

すぐに首の向きを変えて

遠くに行ってしまった。


後で民宿の方に聞くと、

鹿はケラマジカと言い、

この島特有の鹿と言うことだった。


暗くて毛色などは

確認出来なかったが、

あの眼光は

生命を感じさせるには十分な

迫力があった。



ケラマジカが去ってから、

オリオンビールを飲み干し、

若干の肌寒さを覚えたので

民宿に戻り、

そのまま良く乾いた

布団に潜り込むようにして、

深い眠りに落ちて行った。






つづく