秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.3

2009-08-22 02:16:03 | Weblog
「さっきの人、回避の蛇行機動がワンパターンなのよ、左右左左の繰り返しだからアタリを付けて(未来位置予測)パワーダイブ一発で追いついたわ」
 一般に戦闘機型の操縦席の場合、右手に操縦桿、左手にスロットルレバー(車で言うアクセル)を握るので左旋回しやすい傾向にある。

 あゆはゲームを終えカプセル型操縦席から出て大型筐体の基部にあるロッカーから上着とカバンを取り出だした。
 先ほど撃墜したF-16のパイロットがどこか別のゲームセンターからの通信対戦で近くに居ない事を確認した上でブレザーの制服を羽織ながら尋ねられるままに勝因を語る。
 ゲーム内の機体が宙返りすれば操縦席も360°回転するので荷物は上着を含めてロッカーに入れ着ている服の全てのポケットも空にしなければならない。
 上着をそのままロッカーに入れるのも気が引けるからと持参した半透明なゴミ袋に入れるのは女の子らしいのかそうでないのか。他の数少ない女性ゲーマーはブティックのカラフルなショッパー等に入れている。

「外部モニターで見てると分かるけど(激しく動くコクピットの中で)そんな事出来ないわ」
 あゆに対しゲーマーとしても個人的にも憧れている小学校高学年の女の子が感心する。背丈はあゆより既に高い。
「大型筐体で動く(動かされる)ゲームは運動神経も良くないとね、DDR(ダンスダンスレヴォリューション)とか面白いよ?」
 あゆはその場でステップを軽やかに踏んで見せる。
「あゆさんみたく踊れないから恥ずかしいよ」
「PS2のDDRとかWillの身体動かすやつとかさ」
「うーん……あゆさんはどうして運動神経が良いの?」
「幼稚園の頃から合気道や弓道の道場に通っていたからかな? 今度一緒に行く?」
「うーん……」
 その小学生の女の子は何かにつけ気持ちが引いている。彼女の父親が戦闘機が好きでよくここに親子連れで来なければおよそ彼女が操縦桿を握る事は無かったであろう。

「はいはいはいはい六時十分前だよー! また明日ー!」
 午後六時になると例え保護者同伴でも小中学生は法令条例によりゲームセンターから退去せねばならない。
 店内放送では丁重な呼びかけをしているがそれとは別に店員が店内中を恒例の追い出しにかかる。
 この三月まではあゆも追い出されていた方だが高校に進学してからは午後十時迄居られる。
「はいはい、そこの女の子達、お家に帰ろー」
「この四月から高校生ですが、何か?」
 あゆは学生証を誇らしげに見せると周りから失笑が起こる。
「……厳密に言うと16歳以下は退場なんだな、君の誕生日は……?」
 目があまり良くないのかその店員は目を細め顔を突き出してくる。
「射手座(11/22~12/21)の女よ!」

 一同に大爆笑されあゆは自分より大きい小学生の女の子の手を引いてプンスカ怒りながら店を飛び出しその子を駅の改札まで見送ると岐路に着いた。
 ヨドバシカメラ秋葉原店の前を通り過ぎリアル秋葉原エリアに入ると急に人通りのない寂しい街になる。
「そういえば高校に入ってから道場行っていないな――ん?うちの前に誰か居る? さっきのおじさん?」

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