秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.9

2009-11-16 22:33:28 | Weblog



「こちらサラマンダー、通信とレーダーの管制解除! 全機目標に突入せよ! 迎撃機は私が落とす!」
 あゆは秋葉原は中央通りに面しているいつものゲームセンターでフライトシミュレーションゲーム『月下の咆哮』のカプセル型操縦席の中に居る。
 あゆはサラマンダー(火喰い蜥蜴)のエンブレムを付けたスウェーデンのJAS-39NGのいつもの乗機を使い今回は中隊長機として他の15機を従えている。
 一般に2機で分隊を組み、2個分隊4機で小隊、4個小隊16機で1個飛行中隊(スコードロン)を組む。
 最新型グリペンNGは人気機種で別に示し合わせたわけでもないのに16機全てがお揃いになってしまった。
 各人はコールサインを持ちこれはメールアドレス同様他人と同じものは名乗れない。それで言いやすくかっこいいものは早い者勝ちなのでシンプルにサラマンダーを名乗っているあゆはゲーム稼動当初からの古参ユーザーである事がわかる。
 今、サラマンダーを名乗りたかったら「サラマンダー秋風2003」等メルアド同様長くなってしまうので多くのユーザーは登録時に割り振られたIDを通信時のみ下数桁を呼称したりしてそのまま使っている。

「お?今回の敵補給部隊襲撃作戦はあゆ姫が隊長か」
「珍しいね、いつもならソロ狩りか陽動なのに」
「装備も豪華だよな、いつもならサイドワインダーとロケット弾の基本装備なのに」
 コクピットカプセルが並ぶフロアの一角が休憩・待機コーナーになっており大型スクリーンに戦域俯瞰画像がリアルタイムに映し出されている。
 さっき別の作戦でそうそうに撃墜されてしまった二人組みがしょんぼりと力なく画面を観ている。サラマンダーのエンブレムのあゆはエースとしてすっかり有名になってしまった。

 大型スクリーン映像は通常はオートで適時いいアングルで映し撃墜等見せ場はやはりオートでリプレイされる。大会などは解説者による手動操作も可能であってその時はギャラリーも多い。

 撃墜(されちゃった)コンビが気が付いたように今日のあゆは豪華な装備で戦隊指揮をしている。
 グリペンNGの兵装ハードポイントは全部で7箇所ある。胴体下にひとつ主翼の内側(内舷)と外側(外舷)さらに対空ミサイル専用の翼端が左右に同じようにある。
 今回のあゆは機体に標準装備の27㎜機関砲以外に胴体下に敵のレーダーを欺瞞する増設ECMポッド、両内舷には対地攻撃時に上がってくる各種対空ミサイルを欺瞞する増設チャフ・フレアポッド、両外舷にはレーダー追尾対空ミサイルを欺瞞する曳航式デコイポッド、両翼端には遠くから敵戦闘機を攻撃できるアムラームミサイルでゲーム内でも現実でもハイコスト装備で揃えている。
 
「あゆ姫、大会でもあるまいに妙に豪華装備だな? あの増設チャフ・フレアポッドの大写し見たか? 最新のフレアがぎっしりだ」
「チャフが無かったな?」
「そりゃ曳航式デコイと機能が被るからな」
「んん? おいおい増槽(外部燃料タンク)は?」
「空中給油機を優先リザーブだってさ」
「マジか? どんだけ(ゲーム内)金掛けているんだ?」
「安い標準装備でハイスコアなエースだし余ってるんじゃないかな?」

 360度前後左右に回転するコクピットカプセルを見守る専属オペレーターの女性が撃墜(されちゃった)コンビに近寄る。店内が混んで来る夕方以降は順番待ち等のトラブルに対応するためにゴツイ男性店員だが平日の日中は女性もシフトに入る。
「あの娘が噂の女の子エース、サラマンダーことあゆちゃんね?」
「「そうですよ」」
 先程の作戦でも同時に落とされたふたりが同時に答え息の合ったところを見せ付ける。
「小学生ですって? 学校は?」
「小柄だけど秋葉原UDX近くの高校生ですよ」
「どっちにしろ」
「学校は昼から4時間」
「なにそれ?」
「単位制の午後部」
「ふ~ん? いいご身分ね?」
「俺たちもそうですよ、俺らは夜間部だけど」
「昼間働いていないの?」
「「(勤め先)潰れちゃったwwww ここバイト募集してますか?」」
「高校生不可」
「「そんなー」」

「対空ミサイル? ウボァー!!」
「山間部から? ヘリがミサイル? あああああああ」
次々に撃墜される機体から断末魔の最後の通信が入り3人がモニターを注視する。
「こちらサラマンダー! 敵機はレーダに映っていない、ECMポッドも動作している」
 早くも味方は半減してしまったので隊長機兼エスコートジャマーのあゆはありえない事態に驚いて思わず声がうわずる。
 「全機、爆装投棄、レーダー切れ! 各機のECM・チャフ・フレア全開! 出し惜しむな!」
 あゆの機体には増設ポッドが備わっているが曳航デコイ以外は能力が劣るものの各機に標準で備わっている。
 増槽は攻撃前に全機投棄済みだが爆装を捨て身軽にしレーダーを切って敵のセンサーに掛かりにくくする。
 あゆの機体のみその強力な防御装備に頼ってレーダーでサーチするが敵機は見当たらずまた1機落とされた。
「あれは?」
 山間部森林地帯を小型の空飛ぶ円盤に羽根を付けたような物が飛び交っているのであゆは思わ最大ズームで見る。
 これは熱くなるなと思いながらこの後の昨日の刃物沙汰に関する面談までに学校に行かなければならない自分が恨めしかった。
「新兵器投入か?上等!」


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