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あたし好きなもんは好きだし、強引に諦める術も知らない

【岡山地域発】 BSプレミアムドラマ『インディゴの恋人』に描かれる藍の色

2016-02-01 14:50:12 | テレビ

1月27日、NHKのBSプレミアムで放送された岡山発地域ドラマ『インディゴの恋人』のネタバレ感想です。

 


傷や汚れが価値になる。
デニムも、人間も。



主人公は岡山県・倉敷市で暮らすデニムの加工職人・健二。
叔母の死を機にジャズピアニストという夢をあきらめた健二が、滞在画家・みゆきと出会う物語です。

暗い過去を背負ったふたりが見出していく未来の色は──。



■色




受胎告知の絵の前で出会う健二とみゆきのふたり。
そこに背景の藍色がハマりすぎてて。

映画というより絵画のように見えました。




 

みゆきのアトリエ。
白と青のコントラストがまた美しいったらもう。






そこから一転しての、回想シーン。

 
「バンドはもうやめます。ピアノも」
「だから紗代は俺が育てます」


健二が姪っ子の紗代とふたりで暮らしている理由。
紗代を守るために諦めたもの。

どこかもの寂しい黄昏色です。




■壊すアーティスト


デニム加工工場を見学したいと健二に持ち掛けたみゆき。


 
「でもデニムって壊すことで完成するんですよ。普通欠点になるところが、世界で一つの価値になるんです」

デニム加工してるシーン、見入ってしまいました。
新井さんの丁寧な言葉は、まるで優しい音を聴いているようで。


「そんなことない。職人さんだってアーティストです」

職人だってアーティスト、思いを加工にすることこそアーティスト。
健二とみゆきのひたむきさに素直に共感を抱きます。

 

みゆきの言葉に励まされ明るい光の下で笑顔をみせる健二。
対照的に、暗い青の中に囚われているようなみゆきが印象的なシーンです。



■つながる色






目を見張った藍のシーン。
紗代のバレエを見て、咄嗟に描き出すみゆきの絵は「青の少女」でした。



 




人の手によって縫われているデニム。
そのまま穏やかな瀬戸内海の色へ。
倉敷の晴れた空へ。

青のリンクに思わず見とれました。




画面での青のリンクは他にも。

 

錦織選手よろしくカメラに藍を塗るように、そのままみゆきの絵へ。
みゆきの藍と健二の藍はどこかで繋がってるでしょう。

それにしてもみゆきの藍色に染まった細い指が素敵です。



■みんな過去に言い訳して生きている


お互いに惹かれあうようになった2人。
みゆきが健二の家で暮らすようになり、物語はさらなる展開をみせます。


「ずっと一緒にいてくれませんか」

紗代が健二に伝えたことは、自分を育てるためにピアノを諦めたことに引け目を感じていたことでした。
その言葉にどこか空虚感を感じる健二。
みゆきに一緒にいてほしいというけど、みゆきは「自分はそんな資格はない」と断ります。

紗代の気持ちも健二の気持ちにも。
どこかひりひりとした現実が漂っています。

何か守るものがなきゃ生きていけないときだってある。
でも守られる側も引け目を感じるときがある。
そんなすれ違い。

守るべき紗代に突き付けられた現実を、さらにみゆきが突き付けた真実を、健二は受け止めきれないまま、夜の作業場へ向かいます。


「みんな何かに言い訳して生きとんじゃ。そうじゃないと生きていけん。
 それでも前を向く。みんなそうじゃろ。こっからがお前の人生じゃ」


自分は卑怯者だ、と落ち込む健二に社長のかけた言葉は、白熱灯のようなどこか暖かいものでした。




■世界が色を取り戻す


健二が帰宅したのは翌朝。
しかしもうみゆきはいませんでした。
代わりにやってきたのは、みゆきの娘・藍でした。

 

藍という名前。
青系の色が中心だった画面に赤いコートには驚きます。

昨晩みゆきが話していた「子供を捨てた」という過去が、捨てられた子供・藍によって語られます。



早朝でしょうか。
カーテン越しの光に照らされた藍色の赤ん坊。
手を上げそうになったみゆきは、当時の夫に自分を病院へ送ってくれと涙ながらに訴えたのでした。

みゆきにとって藍色はとても愛おしい、でも悲しい色だったのでしょう。
あの青いマリアの絵もそんなみゆきの心情を揶揄していたのかもしれません。


そんな藍の話を聞く3名のもとに、みゆきからの『記念日レター』が届きました。





 
「私の心の中には14年前からずっと青い少女がいます」
「私はその少女を観た気がしました」


青い少女と倉敷で再会したことが綴られたその手紙。
青い少女・紗代と、赤い少女・藍が対照的です。


みゆきを探しに出た健二は、あの受胎告知の前で見つけて声をかけました。


「デニムは傷や汚れが価値になるんですよ。多分…人も」

それはデニム加工工場でみゆきに伝えた言葉。
アーティストである職人が心をこめて、傷つけたり汚したりすることで、その価値が高まっていくデニム。
人間だって同じなんじゃないか。
傷ついても汚れてもいい、言い訳にしていい。
でも前を向いていく。

健二の青は優しい言葉が響きます。




 

藍と再会するみゆき。
青一色、藍一色だったみゆきの世界が、藍のコートの赤色によって色を取り戻していくような錯覚を感じました。
それは美しいマーブリングのように。
人が変わっていくことって、そういうことなんじゃなかろうかと。





■こっから。




それからまた時間が経って、みゆきは一枚の作品を仕上げました。

 
「こっからが俺たちの人生です」

健二はあの夜の告白を忘れてくれと伝えて。
あなたはまだ描きたいはずだ、と付け加えます。
光に浮かぶようなふたりが美しい。

そのみゆきが描いた作品は、藍色から解放された幸福に満ち溢れていました。



藍色の木。
色とりどりの海を駆け回る子供たち。
藍や紗代を思わせるような、あるいは健二を象徴しているような。







それからまた数年が経ち。

 

「ここから」という言葉の通りピアノに向かう健二。
どこかの海でカンバスに向かうみゆき。

鍵盤を弾く健二の指先、色を選ぶみゆきの指先。
あの踊っている子供たちのようで。

悲しい藍色に捕らわれない、そんな優しい風を感じる景色です。







■人間の色


主人公の男女ふたりが結ばれる結末が必ずしもハッピーエンドとは限らないのでしょう。
何かを偉大なことをおさめるのがアーティストだとも限らないのでしょう

何かにとらわれて不安になったり迷ったりする大人たち。
倉敷の風景にマッチしていました。

描かれる色と光、空気感がとても気持ちよかったです。




決して大きな盛り上がりや爆笑があるドラマではありません。
でもちょっとビターな大人の恋、ここまで生きてきた中でついた傷や汚れ、それでも描く未来。

そんなことが丁寧に、加工され、重なって描かれていて。
「ああ、いいもの観たなあ」と清々しい気分になれる、そんな作品でした。




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