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あたし好きなもんは好きだし、強引に諦める術も知らない

『ちかえもん』3話、なかなか討ち入らない赤穂義士に生きた人間を垣間見る。

2016-01-30 12:28:49 | テレビ
木曜時代劇『ちかえもん』3話のネタバレ感想まとめ。





虚実ないまぜな華やかな世界。
もがいてのたうち回る、豆腐メンタルの不器用なおっさんがかいらしく思えてくる。






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■うた・近松門左衛門


恒例のちかえもんの歌。

 
「君とよくこの小屋に来たものさ わけもなくお茶を飲み話したよ」


GARO『学生街の喫茶店』ならぬ、近松門左衛門『大坂の芝居小屋』といったあたりでしょうか。
のっけから飛ばしてくるなあ。



■アニメ、岸部一徳


朝から徳兵衛とお初のイチャイチャを見せつけられた万吉。
ちかえもんのところに、のび太くんよろしく駆け込んできます。

 
「大坂一っちゅうことは日本一っちゅうこっちゃ。つまり日本一の金持ちなんや」
「あの徳兵衛はやがてその財を皆受け継ぐ男。わしかておなごやったら嫁にもろてほしいと思うわい!」


この絶妙なクオリティ…!!
似てる。
岸部さん、小池さん、松尾さんみんな似てる。



■げすいぞ、徳兵衛


その小池さん演じるのが平野屋徳兵衛。
これがまたゲスいゲスい。


「恨むんやったら己の生まれを恨むこっちゃ。」
「お前らみたいな子どもの時分からよそい働きにやられてるような者は、そないな家に生まれついたのが身の不運っちゅうこっちゃ。」


おいこら、ストーブのくせに生意気だぞ(『あまちゃん』の話)

それにしても丁稚の子ども達相手になんとみっともない。
『あさが来た』の新次郎は「爽やかなあほぼん」だったけど、こっちは「ムカつくあほぼん」。
小池さんがどちらかというとベビーフェイスだから余計にムカつくんですよね。

と思ったら、ちかえもんも似たようなことを思っていました。


「あほぼんもここに極まれりや。」
「あそこまで突き抜けた不孝者は初めて見た。人間あそこまで親不孝できまんねんな」
「どこに感じいっとんねん」


不孝糖売り・万吉は別の方向に何か可能性を見出した様子。
そして……


「おい、あほボン。わいと一緒に不孝糖売らへんか?」

ど う し て そ う な っ た 。


「親不孝してでも手に入れたいものがありますのや。」

煽られ逆切れ、の結果ノリノリの徳兵衛。
万吉が売っても全然だれも買ってくれなかった不孝糖が、一瞬で売れました。

てかこれただのたちの悪いナンパじゃねえか。


で、まあ万吉と徳兵衛は不孝糖を売るのですが……
当然徳兵衛は有名人なので、みるみる間にひとだかり。

 

握 手 会 商 法



■赤穂義士の気持ちと物書きの気持ち




なんか唐突にはじまったwww




時は元禄16年、1703年2月4日。
ちょうど「学生街の喫茶店」をうたった後、吉良邸に赤穂浪士が討ち入ったとの瓦版が街中で配られていました。
あの忠臣蔵の話です。

ちかえもんはそれをヒントに、『忠義』の筋を描こうとするのですが。

「おのおの方、いざ!」
と討ち入りしようとするものの、
「あいや待たれい。わらじの鼻緒がきれた。しばらくしばらく」だの
「あいや待たれい。我が住まいの行灯の明かりを消したるや否や」だの
「父上!ここはまこと吉良の屋敷でござりましたか?」だの

さっさと討ち入りせんかい!とツッコミたくなる忠臣蔵。
白黒感といい、アフレコのズレ感といい、無駄に再現性にこだわった逸品。


これに関して、ちかえもんは…

 
「わしもそない思いますねんけどな、なかなか行こうとしまへんのや」
「誰が」
「赤穂義士が」


なかなか筆にのってくれない赤穂義士。
このままでは忠義の討ち入りができなくなってしまう。
そこを深めていったら、赤穂義士の『人間味』が垣間見えた。



これ、まさに公式HPで脚本の藤本さんが仰ってる言葉のとおりだなと。
左メニュー、「あらすじ・みどころ」のページに、藤本有紀さんの話が載っています。
設定、構成からはみ出していく万吉やちかえもん。

ちかえもんも同じような苦しみを味わっている…
というより、このちかえもんは藤本さん自身を投影させているのかなと。





で、まあ物語の中では豆腐メンタルなちかえもんなので、当然ながらショックを受けるんですが、お袖がフォロー。


「そんだけ特別な仕事やいうことやろ?」
「お殿様にも公方様にもでけへんことを、あんたはその腕一本でやっとんのや。すごいこっちゃがな」



「そやな!」

なんだかわいいな、ちかえもん。


で気を取り直して筆を握るのですが、どうもうまくいかない様子。
それを観ていたお袖が、ひとこと。

「わては別に赤穂のお侍さんのことあっぱれとも思わんけどなあ」
「わてらからしたら親不孝の極みや」


遊女が、忠義に殉じる武家の男たちを、どこか冷静な目で見ている。

忠臣蔵を遊女たちがどういう風に見ていたか、当時のことはわかりませんが。
でもお袖の言う通り、何もお仕えした殿様だからってもう亡くなってる人のために死ぬことなんてない。
何が孝行だ、何が忠義だ。

命のとらえ方が現代とは大きく異なる近世の頃。
表面的な「忠義」ではなく、さらに掘り下げたお袖の言葉、お見事。




■お初のうたは…



「父は都の六波羅へ虜となりて あさましや」
「憂き目に合わせ給うとの」


この歌は本当になんなのかと。
しかも先週より1節増えてる。



■平野屋と黒田屋


働きたくない!徳兵衛を、とある蔵へ連れてきた喜助。


「若旦さん。平野屋の跡を継ぐちゅうことは、並大抵のことやおまへん。それを今のうちによう知っておいとうおます。」

この蔵に何か隠されていそうな気はするのですが、まだ明かされず。
(あかんもんなんじゃないの)

一方黒田屋も、平野屋に「新しい商売をしないか」と持ち掛けます。
それは「大陸からいろいろと珍しいものを取り寄せる」というもの。

もちろん江戸時代元禄年間、輸入に関しては厳しい制限があります。
ですが……


「しかし平野屋様のお力を持ってすれば…それも不可能ではないこと。この久平次はよ~く存じております」

なんか意味深だぞ!
で、悪い顔してるぞ!!


天満屋にいるのは平野屋と黒田屋の旦那様の2人。
それから別室にちかえもんとお袖。

そこへやってきた明るい声の主ふたりに忠右衛門は……





■赤穂義士が動き始めた


商談は中断、説教が始まります。


「人様に親不孝を勧めて歩いとったちゅうのやな?」

不孝糖を売っていた徳兵衛を呼びつけ、居合わせたちかえもん、万吉ごと説教部屋へ。
当然ながら叱る忠右衛門。

ですが万吉にも言い分があります。


「あほボンにはあほボンしかあれへん商いの才覚ちゅうもんがおまんねんな」

その人らしい個性がある。
徳兵衛はそのナンパや握手商法(どうなんだ)を武器に、不孝糖を売ったと。
それをなぜ褒めないのか、と万吉。

お初のときもそうでしたが、万吉は人を見る目があるんでしょうね。
人の裏側、というより内側でしょうか。
逆に万吉の内側は…と気になるあたりです。



でも忠右衛門は言い返します。
そんな才覚はいらないと。
必要なのは、「侍のような忠義の心」「かの赤穂義士みたいに、家のため主のために命なげうつ覚悟」であると。

と、ここまで黙って聞いていたちかえもんでしたが…

「旦さん、それは…!それはあんまり…酷でっせ!」
「平野屋の跡継ぎたる者こうあるべきと旦さんの思い描くもんばっかり押し付けられたら、そら…若旦さんかて息が詰まりまっせ」


親が、孝行息子たるものかくあるべし、と押し付けたものがそのまま子供に反映されるわけがない。
そりゃそうだ。子どもは生きているんだから。

「押し付けられると息が詰まる」
それはちかえもんが『忠義』の忠臣蔵を描こうとして書けない、その息苦しさそのものだったのでしょうか。


「そもそも……そもそもそもそも、赤穂義士かてそないに家のため主のために命なげうつ覚悟があったんでっしゃろか?」
「戦が終わって100年、家より主より忠義の心より、もっと大事にしたいもんかてあったんや」



徳兵衛の想いを通じて自分の気持ちに気が付いたとき、突然赤穂義士の心情が見えたちかえもん。
武家に生まれたことを後悔しているものもいるはずだ。
討ち入りなんかしたくないと思ってるものもいるはずだ。
わからないけど、きっといたはず。

だから鼻緒がきれただの行灯の明かりを消し忘れただの、もたついていた。
ちかえもんの筆に赤穂義士がのった瞬間でした。
それを近くで見ているお袖の優しい笑顔がとてもステキ。


「皆がわあわあ言うほど華やかなもんやおまへんのや」
「赤穂義士も、平野屋の若旦那も……家に縛られて義理に縛られて、のたうち回ってますのや…」


虚実ないまぜな華やかな世界。
みんながもがいている。のたうち回っている。
徳兵衛もそう、ちかえもんもそう、お初もそう。

綺麗ごとだけじゃ生きていけない。
みんな何かに縛られてもがいている。


唯一縛られていないのは、自由に歌って踊っている万吉くらいといったあたりでしょうか。




■放蕩息子徳兵衛



「分かってるわい。……私みたいな者、家っちゅう後ろ盾とったら何も残らん。しょうもない男や」
「…こないな私が生きていこう思たら、『私は平野屋の倅や』言うて偉そうな顔して羽振りよう振る舞うしかあれへんやおまへんか」



「今日の商いは楽しおましたか?」

番頭の喜助が涙ながらに徳兵衛に尋ねると、徳兵衛は団子を取り出しました。
それは今日自分がナンパだろうと握手会だろうと、自分自身が稼いだ金で買ったもの。
丁稚たちに食べさせようとして買ったものでした。

喜助さんは知っていた、もしくは気づいていたんでしょう。
放蕩息子・徳兵衛が、華やかに見せかけながらのたうち回っていること。

ちかもんもまたそれに気づいていた。
気付いていたことに気づかなかったけど、でも心のどこかでは徳兵衛と似たようなものを感じていたんだと思います。



そんな徳兵衛を「ほんまに救いようのないアホ息子」と忠右衛門。
佐七のもとで手代からやり直して働くように言い渡し、続けます。

「そうでもせんとお前みたいなあほに恐ろしゅうと平野屋を任せられんわい!」

頬に涙を伝わせる徳兵衛。
観ている方も思わず涙が出ました。

あれ、おかしいな。
さっきまでムカついたり笑ってたりしていたのに。




■孝行とは、不孝とは



しかしその万吉が歌い続ける孝行とは、不孝とは何なのでしょうか。

貧しい家に生まれた丁稚と、豪商の跡継ぎとして生まれた徳兵衛。
それは対比ではなく『ほぼほぼ似たようなものなのではないか』と。
親不孝を突き抜けていくと、それは親孝行になるのかもしれません。

ゲスでどうしようもなくてムカつく徳兵衛だったのですが。
家・親がなければ生きていけないと涙ながらに語りはじめた瞬間
「なんかごめん」ってふと感じました(というより泣いた)

物事の表面と裏面にはっとし、それがひっくり返る瞬間に息をのむ。

ああ『平清盛』でもあったわ……頼朝のあれだわ……



孝行、忠義……表だけでは済まされない。
それを掘り下げて掘り下げて、裏にあるものを描いていくのが『曽根崎心中』
お袖の言葉にあったとおり、それは孝行と真反対の親不孝そのもの。


近松門左衛門が覚醒し、徳兵衛、お初たちの登場人物が動き出す。
黒田屋久平次も動き出しているのでしょう。


さて来週はどんな喜怒哀楽が待っているんでしょうか。

予告の感じだと黒田屋久平次が赤穂義士…?
お初と徳兵衛の運命やいかに、そしてちかえもんは…?!



……ってな陳腐な言い回しはわしのプライドが許さんのである。(きりっ






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