* D i a r y * 

気の向くままに、日々雑感や映画・本の感想などを書いています。
基本的にアホな日常ですが、レビューはそこそこマジメです。

雪のひとひら/ポール・ギャリコ

2014-08-25 23:41:57 | 本感想
FBのお友だちに勧められて読んだ本です。
美しい詩のような、哲学書のような。

文章が平易でやさしく、情景描写が美しく、なんだか癒されました。
人は誰によって、なんのために創られ、どこから来てどこへ行くのか?
そういうことを思ったことのない人はいないでしょう。

大人になると忙しさにそんなこと忘れてしまいがちだけど、何か辛いことが起きたりすると
ふと、そんな疑問が頭をもたげたりする…。

そういう時、黙って寄り添ってくれる友人みたいな本だと思いました。

感想はゆっこさんの読書メーターへ。

きみの友だち/重松清

2014-08-02 22:25:57 | 本感想
重松さんの作品から、あえてちょっと遠ざかっていました。
なんだか少しワンパターンなような感じがしてきたから。
それにいつも泣かされるし。
泣かされるのって、ちょっと悔しくないですか(笑)?
作者の思う壺って感じでしゃくだったのですよね。ひねくれてるけど。

けど、久しぶりに読んで、ああやっぱり読んで良かったぁ~と思いました。
泣かされたけどね!(^^ゞ

感想はゆっこさんの読書メーターへ。

心/姜尚中(本)

2013-08-10 22:51:02 | 本感想
このところ、読む本読む本どれも「アタリ」で嬉しくて仕方ない。
ここには載せていないけど、百田尚樹の「永遠の0」「夢を売る男」もしかり、そして今日読了した「心/姜尚中」もまた。

読書メーターの文章を貼り付けようと思ったけど、あれって更新すると新しいページにリンクが行っちゃうみたいなので今日はやめます。
字数制限があるのでこんな風にまとめてみました。

『おそらく若者への強いメッセージを込めた作品なのだが、心揺さぶられ嗚咽が漏れそうなほどだった。
漱石の「こころ」へのオマージュであり、ゲーテの「親和力」がベースになっているには違いないけれど、作者の体験から出てくる言葉には真実味と説得力がある。
震災後ボランティアをした青年のくだりには、私は何もわかっていないし本当に「死」を悼んだと言えるのか、と頭を殴られるような気がした。
「生」と「死」の意味、人が生きる限り抱え続ける自然と科学の矛盾、愛・友情…重いテーマを深く掘り下げ、かつ分かりやすく書いた渾身の小説! 』

少し補足しますがネタバレありなので、これから読む方のために伏字にします。^^


最初は小説じゃないと思った。
なぜなら、いきなり作者ご本人が出てくるので、体験談かエッセイの類だと途中まで思いながら読んでいたのだ。
書店での姜さんのサイン会に飛び込んできたある大学生。彼が一方的に置いて行った手紙がきっかけで姜さんとのメールのやりとりが始まる。

メールの文章の中でなんだか大学生っぽくない言葉が時々使われるので、途中から「これって姜さんの創作?」と思い始めた。
でも、そんなことはどうでもいい。
大学生のわりに言葉が古風とか、多少の矛盾は吹き飛んでしまうくらい内容が素晴らしい!

病気によって突然奪われた親友の命。
そこから生きることの意味、死の意味が分からなくなり答えを求める大学生の直弘。
恋の悩みも絡んで、まさに夏目漱石の「こころ」を想起させる展開。

はじめは、少し青臭い青年の悩み相談かなと思ったのだけど、話はどんどん深くなる。
私はゲーテの『親和力』なんて読んだこともないけれど、分かりやすい説明を加えてもらってどんどん惹き込まれた。

そしていつしか、あの震災の話が中心になる頃には、悲惨で恐ろしくて悲しすぎるのにやめられなくなった。

ご自身も息子さんを自死という形で亡くされたという姜さんの、悩み苦しみ抜いた後の死生観がよく分かる。
それから人間という「知恵」を持った存在の、それがゆえの矛盾とか。
人間も自然の一部であるのに、自然のままでは生きられない。
でも「自然VS科学」ではないんだよ、そして「生」VS「死」でもないんだよ…という考え方とか。

生は死を、死は生を内包しているということ。
生き切ったのちに訪れる死は、確実に存在した「生」によって「過去」という意味のある存在として、また「在る」のだということ。

生きることの切なさや厳しさを受け止めた上で、全てを肯定的に捉えた作者の包み込むような温かさを感じました。

素晴らしい!






何者/朝井リョウ(小説)

2013-08-02 17:25:07 | 本感想
すごく痛いけどすごく面白かった。
読書メーターにあげたのでリンク貼っておきます。(本をクリック)

ゆっこの最近読んだ本

で、読書メーターは文字制限があるので、もうちょっと補足。^^

今の大学生って(高校生もだけど)本当に気の毒。
こんな時代に就職活動をしないといけないからね。

私たちの頃は就職できなくて自殺なんてあり得なかった。
何十社受けても落とされ続ければ、自分がどんどん否定されたような気になるのは無理もない。

飛びぬけて頭が良いとか、運動ができるとか、容姿が良いとか、何かの才能があるとか、そういう人は一握り。
ほとんどの人は、その努力や誠実さや真面目さをもってしても、今はなかなかひっかからない。
むしろ「個性がない」と片付けられたりする。

それでも就活生は自分をどこかでまだ諦めきれない。
だけどとりたててアピールするものを持たない者は、だんだん見方がひねてくる。
他者を分析して、素性を分からないように覆面したSNS上でバッサリ切り捨てる。
そうすることで、ギリギリ自分の優位性を確認したり、自分がうまくいかないことをカモフラージュしたりする。

そういう子たちが出てくる話。
うう、痛い。

痛いけどかなりの(それこそ)分析力と話の構成力で一気に読ませるし、最後の展開なんかはハメられた~って感じ。

でも、一番最後にちょっと救われる。
おかえり~って思う。
現実はそう甘くないのだろうけど。

いや面白かった。
就活してる人にとっては痛いかもしれないけど、一度読んでみてはどうかと思う。

こんなオバチャンでも自分に重なるところがあったりして、わが身を振り返ることができたんだから。
リアルで就活中の人、どうかくじけないで。
君が悪いんじゃないよ!

ひそやかな花園/角田光代

2013-05-07 22:53:55 | 本感想

「読書メーター」に登録して、レビューをそちらに書くようになってから、短くまとめるのが少しは出来るようになってきた。
なんせ私は下手の長文でどうしようもないから、短く書く練習にもなると思って登録したのだ。

で、この作品『ひそやかな花園』(角田光代)もそちらにアップした。
一応リンクなど貼っておきます。こちら

普段はそれで終わりなんだけど、この本はやっぱりもうちょっとだけ語りたい気持ちが残ってしまった。

なので少しだけこちらにも書かせていただきます。

* * * * * * * * 以下、感想 * * * * * * * * * * 

角田さんは相性のいい作家なのだけど、この本は最初の3分の1くらいまでなかなか進まなかった。
登場人物がとっかえひっかえ出てきて語り手になり、なんだか誰に視点を置いていいのか分からないまま…。

幼少時代の夏のキャンプ。
子どもにとっては楽しいばかりの思い出なのだが、実は集まっていた家族には秘密があった。
そしてある夏を最後に親たちは急にキャンプをやめてしまう…。

その謎を当時の子どもたちが徐々に知っていく。
そのあたりからどんどん面白くなり、重いテーマが明らかになってからはもう惹き込まれるように一気読み。
角田さんはやっぱり、テーマを突きつけておいてそれを丁寧に作中人物に考えさせながら読者を巻き込むというスタイルがお得意だと思う。

読書メーターは文字数制限があるので、この先が語りたかったことだけど書けなかった。
ネタバレになるのでこれから読む方は反転文字にするので読まないでね。

ズバリ、体外受精で生まれた子どもたちの話です。それも父親がどこの誰かも分からない。
それぞれの親たちも、その選択に踏み切るまでには相当悩んだり葛藤があったり。
いざ妊娠し子どもが産まれてからも、家族になろうと(当たり前の家族でいようと)色々と努力している。

親たちの気持ちは分かる。
でも、この小説で浮き彫りにされた「そうやって産まれた子どもたち」の悩みや苦しみを、私は今まで深く理解しようとしていなかった。
登場人物(=語り手)が複数いて、それぞれ少しずつ受け止め方も違うしそれが当然だけれど、みんな傷つき自分の存在を肯定できずにいる。

若い時に読んだ曽野綾子さんの『神の汚れた手』という小説でも感じたことだが、人が侵していい領域ってどこまでなんだろう?

乱暴な言い方になるけれど、個人的には「命の操作」に関して私は否定的な立場をとる。
行き過ぎた延命治療もそうだし、人が医学の進歩のままに生まれるはずのなかった命をこの世に生み出すということなども。

そこには喜びとひきかえに、もっと深刻で大きな悲しみ・苦しみが待っている気がする。

『命に対して人は平等である』という信念の元、作中の医者は子どもの出来ない夫婦を手助けする。
精子を提供する人も(お金目当てやひやかし半分の人もいるが)、自分が誰かの役に立てるなら…という気持ちで協力する人もいる。

けれど、「可能」だから「やっていい」と判断するのは人間のおごりではないのかな。
子どもが欲しくて欲しくて仕方ないのに出来ない、という方がこれを読まれたら憤慨されるかもしれないけれど、私はそう思う。

人は平等というけれど、そもそも本当にそうなのか。
容姿も頭の良さも、生まれた家の貧富も、色々な才能も、本当に人それぞれ違う。

天から2物(それ以上も)を与えられたような人もいれば、地味な人生でしかも苦しいこと続きの人もいるかもしれない。

平等の名のもとに、「存在しない」はずのものを「存在させる」ということは、何もかも手に入れようと思えば出来るのだという人間の誤った絶対感なのではないか。

「不足する」ことを受け入れて、天から与えられたものの中でどう幸せになっていくか、それが生きることの課題の一つなんではないか。
偏っているかもしれないけれど、そんなことを思うわけです。


でも、この小説が嫌いだったわけでもなんでもなく、むしろ後半は主人公たちが葛藤しつつ、自分の存在をそれぞれ受け入れていく姿が素晴らしく感動した。
そもそも多分、上の、伏字にした部分について掘り下げるための小説ではない。
そのことの是非うんぬんではなく、実際そうやって産まれてきた人たちがどう考えどう生きていくか…を描いているのだ。
その部分には文句なく感動するし、本の帯に書かれていたある登場人物のセリフが生きてきて、ジーンとした。

ちょっと重いけど興味ある、読んでみようという方、お勧めです!

猫鳴り/沼田まほかる

2012-09-10 14:14:23 | 本感想


その文章に惚れ、次々とこの作者の本を手にするきっかけになった本。
人の心の奥の奥を描き出すのがなんてうまいんだろう。
暗いし重いし、読んでいて決して爽やかな文章ではないのだけど…。

しかも、目をそむけたくなるような後ろ向きな感情・醜い心理をこれでもかというくらいに炙り出してくる。
この人の他の小説はそういう部分が強調されすぎて、もう「エグ・グロ」の世界に近くて実はあまり好きじゃない。

でも、「猫鳴り」は違う。
辛いのをちょっと堪えて最後まで読んでみるとしみじみと良さが分かる。
救いがあるわけじゃない。
「絶望」を描いているけれど、だからと言って最後に「希望」があります的な単純な話じゃない。
ただ、「絶望」を受け入れたり、ほんの少しそれに慣れたり、足を半歩前に進める程度の仄かな灯りが見える感じ。

大きく3つの章に分かれる。
1つめはやっと授かった子を流産した中年の夫婦の話。寂しい境遇の女の子も出てくる。
2つめは母親がいなくて父親と二人で暮らす思春期の男の子。いつもイライラしている。
3つめは1つめの夫婦の夫のその後。妻は病気で既に他界している。

彼らは、それぞれ『空っぽの底なし井戸』『ブラックホール』『死の恐怖』と呼ぶ絶望みたいなものを抱えている。
その全てに「モン」という猫が関わる。
猫のモンの存在そのものや行動が彼らに与えるものは、希望などではないけれど、そういう絶望感と向き合うことそのものを余儀なくさせる触媒みたい。
猫という言葉を持たない自然児が、淡々と、でも健気に「生」に向かっている姿が、人間たちに教えるものがある。

特に最後の章は、共に年老いた主人公と猫が過ごす最後の時間を濃密に描いていて、生きることの先に自然に在るだけの死をゆっくりと丁寧に読者にも見せてくれる。
涙なしには読めなかった。
まほかるさん、本当はとてつもなく優しい人だろうと思う。

つなみのえほん/くどうまゆみ

2012-06-23 20:45:51 | 本感想
あの震災と原発事故を経て、日本人はどう変わっていっているのか?
どこへ行こうとしているのか?

様々な考え方や活動方法があり、自分自身日々あれこれ考える機会も多くなった。
正直、迷うこともある。
でも、一番根本にあるべきは「命の重さ」だ。
全ての意見や行動の芯にあるべきは、あの日亡くなった沢山の命を「悼む心」でなくてはならない。
そして、自然を畏れるこころ。
人の力の限界を知ること。
シンプルに粛々と生きることの大切さ。

そういう想いを原点に考えれば、どういう方向に行くべきかが分かってくる気がする。
この本が、あらためてそれを教えてくれた気がする。

* * * * * * * * 以下、感想 * * * * * * * * 

これは絵本。
でも、子どもたちはもちろん、大人にも読んでもらいたい絵本だ。

作者の工藤真弓さんは、宮城県南三陸町の神社で神職をされているまだ若い女性。
ゆうすけくんという5歳の男の子のお母さんでもある。

去年の3月11日の震災と津波の被害に遭われ、大変な思いをされながらこの絵本を書き上げられた。

シンプルで分かりやすい言葉と、色鉛筆を使って描いたやさしいイラストで、その日のことを伝えている。

あの日のことは、テレビや新聞で沢山情報を知っていたつもりだったが、経験された方の言葉が一番。
それが率直な感想だ。
その場にいないと分からないような細かいことまで、すごい臨場感で迫ってくる。
決しておどろおどろしい表現などない、いや、工藤さんのお人柄なのか、丁寧すぎるくらいの、むしろ静かな語り口だ。
それでも切々と状況が胸に迫り、その時その場にいた人々の心情が伝わってきて、じわーっと涙が溢れた。

素直に詠われた五行歌がさらに素晴らしく、短い言葉なのにしっかり胸に届く。

「雪降る中を/家族で逃げる/暗い森も/いのちを守る/灯の中と思う」

神社の裏山に逃げ、杉の林のすきまから波がやっとひいていくのが見えた時、雪も降ってきたというのに寒さも感じなかった。
ここなら津波も来ないだろうという安堵感から「暗い森にいても命を守ってくれる灯の中にいるよう」に感じたというのだ。

避難所となった体育館で体操マット2枚に8人で寝るという状況。
「砂だらけの足を/重ねて」という五行歌の一部で、私はハッとさせられた。
どんなに命からがら逃げたのか、この言葉ではじめて本当にわかった気がした。

他にも素晴らしい歌が沢山入っているけれど、一人でも多くの方にぜひ手にとって読んでいただきたいので引用はこのくらいに。

工藤さんは、絵本の最後をこう結んでいる。

『なにも持たずに にげなさい。今度はみんな助かりなさい。
いのちをかけた伝言を、明日に伝えてゆくために、私たちは生きてゆきます。』

沢山の亡くなった方々への追悼と、その命を無駄にしないために書かれたこの本。
今度大地震が来たら、とにかくなにも持たずに逃げようね、と伝えるために書かれたこの本。

出来るだけ多くの子どもたちにも読んでもらいたい。
全国の図書館や学校に置いてほしい。
心からそう思う。

舟を編む/三浦しをん(本)

2012-06-07 22:08:42 | 本感想
今年の本屋大賞と聞いていたし、三浦しをんさん好きだし、ああ読みたい!と思っていたら運良く借りることができた!
サクサクッと感想など。^^

* * * * * * * * * * 以下、感想 * * * * * * * * * * 

読みやすい、面白い、興味深い…の三拍子。
辞書の編纂に命をかけて取り組む出版社の辞書編集部の人々の、15年にも及ぶ仕事の日々。
1冊の辞書を作り上げるまでに、どんな行程があるのか、どんな苦労があるのかが分かるだけでも単純に面白い。

辞書の名前は「大渡海(だいとかい)」。

『辞書は言葉の海を渡る舟だ。ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。
もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。
もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう』

そういう考えから名づけた「大渡海」を作るための「言葉オタク」とも言える人々のあくなき闘いの日々が描かれていて飽きなかった。
辞書作りの話と言っても文章はとても軽妙なタッチだし、恋愛や友情も出てくるし、師弟愛のようなものも出てくる。
登場人物はみんなキャラ立てがクッキリしているので楽しい。
いつも思うのだけど、三浦さんの小説に出てくる「ちょっと変わった人」はヘンなやつなんだけどどこか憎めないし可愛い。
そういう人たちだから、会話が面白くて時々クスッと笑ってしまう。

好きだった文章を少しだけ引用。

『辞書づくりに取り組み、言葉と本気で向きあうようになって、私は少し変わった気がする。岸部はそう思った。
言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力に自覚的になってから、
自分の心を探り、周囲のひとの気持や考えを注意深く汲み取ろうとするようになった。』


『なにかを生み出すためには、言葉がいる。岸部はふと、はるか昔に地球上を覆っていあという、生命が誕生するまえの海を想像した。
混沌とし、ただ蠢くばかりだった濃厚な液体を。ひとのなかにも、同じような海がある。
そこに言葉という落雷があってはじめて、すべては生まれてくる。愛も、心も。言葉によって象られ、昏い海から浮かびあがってくる。


本屋大賞を取るのも分かる気がする。本屋さんたちは、何より言葉を愛しているだろうから、こんな文章にはコロッと参っちゃうでしょう(笑)!
私も言葉が大好きで、大事にしたいと日々思っているので、こういう個所にはじわっとくる。

そして辞書の完成が近づくと物語もある展開を迎え、少しの苦さと感動が待っている。

全体的に軽くて娯楽的要素が多い小説だし、辞書作りという特殊な仕事に関わる人々の話だけれど、誰の心の琴線にも触れるテーマがしっかりあるので良い。

それから素敵だと思ったのは、その辞書の装丁について詳しい描写があるのだけど、実はこの単行本の装丁が、まさにその通りになっていて!
これは気の利いた仕掛けだなぁ。

いや、面白かったです♪





『無常という力』/玄侑宗久

2012-05-18 22:14:16 | 本感想
福島在住の住職さんで作家でもある玄侑宗久さんが書いたこの本は、『方丈記』を紐解き、幾多の天災人災を経験した鴨長明の境地を今に重ねて解説してくれる。
そして3・11以降の日本人がどのような心持ちで生きていけば良いのかを一緒に考えていきましょう、という本。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる試なし。
世の中にある、人と栖と、またかくのごとし。」


ご存知、鴨長明『方丈記』の冒頭ですね。
あまりに有名なこの一文だけど、この先はどうだったっけ?はたまた『方丈記』って、内容的にどんなことが書いてあったっけ?
…と思うのは案外私だけではないはず。

学校で習ったのは中学だったか高校だったか?
テストもあったし、古語辞典を引きながらなんとか意味を解釈するのがやっとで、じっくりとその中身にまで入っていく余裕などなかったような気がするな。
しかも、この本「無常」ということについて書いてある。
中学生や高校生にはぴんと来なくて当然かもしれないし。

でも、それなりの年齢になって読んでみると、少しはわかる気がしてくる。
そして、時代が変わっても人っていつも同じようなことで悩んだり喜びを見出しているということも分かる。
この『方丈記』が書かれた平安末期というのは、天災が多く政治もうまくいっていなかった。
そういう点でも、今の私たちが読んで、とても参考にできる点が多い。

まえがきの中で玄侑さんはこう書いている。
『無常とは、けっして静的な諦念であるだけではなく、ある種の安定を崩し、当座のバランスは失っても、一歩を踏みだす積極的な行動のことでもある。』

そして本文は、方丈記に沿って、作者の解説と、今とこれからの福島のことをどうすべきか、ということにも触れる。
解説と言っても堅苦しくないし、ためになることが沢山書かれていて面白い。


例えば津波。かつては「海嘯(かいしょう)」と言ったそう。
作者は『津波という呼び名は良くないと思うんです。単に大きい波だと思ってしまうんですね。』と言っている。
波だと思えば、海から少し離れている人は避難しない、波なら自然に弱まるから。
でも、今回のは波ではない。『波長が二百キロから三百キロあったというんですから、これはもう海の移動です。海がわれわれのすぐそばまでやって来て、嘯くのです。』と。

放射能についての大胆な発言もあるので、読む人によっては反感を抱くかもしれない。
でも、僧侶としての作者の考え方は一貫しているように思える。

『ものうしとても、心を動かす事なし』(やる気が起きなくても、悩むことはない)。
…悲観論だけでは生きていけないのだから、楽観と悲観の間でこの言葉を呟きながら生きていくしかない、というのだ。

何が起ころうと悩まず、執着せず、全てを受け容れ、揺らぎ続けることが大事、だと。
『われわれの人生は所詮、無常なる流れの中の単なる一齣、「繋ぎ」にすぎない。けれど、そんな中でも世を拗ねず「なさけふかく、すなほなる」人になることはできる』

今後の暮らし方についての提案、市場原理に呑み込まれた現代への痛烈な批判も入っている。
何より、福島に住んでいる方の発言というのは真剣だし深いと思う。
なかなかに考えさせられる本でした。

左岸より/倉本聰

2012-02-01 22:09:37 | 本感想


[左岸]…河川の下流に向かって、左側の岸のこと。

本文の最初にこんな一節がある。ちょっと長いけど引用。

『たとえば滔々たる流れが一つ。
それを右岸より眺める者と、左岸より見る者、二つの部族が存在すると、とり敢えず思っていただきたい。
右岸に立つものは批評家たちである。
左岸に立つものは創る側である。
流れには橋がなく行き来が出来ない。
右岸に立つものが突然発心し、対岸に立つべく流れへ飛び込む。すると忽ち河の流れは彼の体を下流へ押し流し、
ほうほうの態でたどりついた左岸は、彼の見た位置より甚だしく下流である。たやすく行きつけると思っていた対岸は、
もはや見えない。はるかに離れている。
見る現実とそこに立つことは極端な距離にはばまれているのだ。
そんなこともあるよ、だから批評はね、誰にだって出来るさ、けど現実には批評するだけさ。俺は下流でも左岸を行きたいね。(後略)…』

言ってしまえば、この出だしの文章を具体的にした事例や作者の思想が、様々な角度から書いてある本だ。

1979年から1989年の間に書かれたエッセイをまとめた本だから、もうずいぶん前のもの。
それでも内容は色褪せない。
…それどころか、あまりに今の私たちにあてはまり、耳の痛いことが書いてあるので驚いたほどだ。

この人は言わずと知れた『北の国から』の作者であり、『富良野塾』の主催者だが、考え方と行動が見事に一致しているので説得力が違う。

「富良野塾断章」という章に次のような文がある。

『あなたは文明に麻痺していませんか。
車と足はどっちが大事ですか。
石油と水はどっちが大事ですか。
知識と智恵はどっちが大事ですか。
理屈と行動はどっちが大事ですか。
批評と創造はどっちが大事ですか。
あなたは感動を忘れていませんか。
あなたは結局何のかのと言いながら。
  わが世の春を謳歌していませんか。
塾を開こうと考えたとき、こんな文句を手帳に書きつけた。都会の人間は果たしてどう思うか。飛びついてきてくれた若者たちがいた。
昭和59年4月6日。富良野塾開塾。』

この章の前に、そういったことを具体的に考えさせる文章が色々と出てくる。
特に心に残ったのは次の文。

『文化とは産み出された発明そのものではなく、そこへ至る過程だと僕は考える。
いかに高級な知識であろうと、知識を産み出した知恵には及ばない。知恵を駆使しての暗中模索。それこそが人間の文化ではあるまいか。』

本当にそうだなーと思う。
科学の発展によって、現代人は便利に慣れすぎた。
そしてこの便利な生活を享受するのが当然で、自分たちこそ今までのどの時代の人より文化人だと思っている。
でも実は、自分たちより前の時代の人たちが苦労して産み出した発明の上にあぐらをかいているだけだ。
そして停滞している。消費だけしている。
大きな自然災害や原発事故のような“想定外”のことが起こってはじめて、知恵を出したり、工夫をし続けたりすることを怠っていたと気づく。

気づきはしても、本当に大切なものを守るために、便利さや清潔さを捨てる勇気も知恵もなかなか出せないでいる。
気づきはしても、一度手に入れた快適な生活を手放して、時間や手間をかけ、工夫をして生きることはなかなか難しい。

でも。
少なくとも、何か身近なこと一つからでも変えていくことはできないだろうか…と考えずにはいられなくなる本。

厳しいことも書いてあるけれど、あたたかい人柄のなせるわざ、文章は読みやすくユーモラスで生き生きと楽しい。

そしてまた、楽しいだけじゃないところがすごく深い。
実際「富良野塾」に入ったとしたら楽しいだろうなと思うけれど、それ以上に自分など逃げ出してしまうだろうと容易に想像できる。

でもこのままではいけないと思う。

…そうやってグルグルと考えを巡らしていくことから始めてもいいのではないかな。
特に若い人には是非読んでほしいと思った。

最後にもう一つ、まえがきから引用。

『(前略)
今、男たちは汗を嫌悪し
できるだけ動かず
自分のエネルギーの消耗を恐れ
その分他のエネルギーに頼り
ボタン一つで快適な温度、
快適な環境に身を置けることが
豊かさであると錯覚している

僕は
枯草の匂いをさせていたい』

自炊男子/佐藤剛史(本)

2011-12-04 22:26:39 | 本感想
作者の体験に基づいた、でも一応「小説」(…と、あとがきで作者本人が書いている)。
けれど随所に出てくる登場人物の言葉は、きっと作者が実際に関わった人々が発した言葉だ。
すごくシンプルで当たり前のことを言っているにもかかわらず、とても新鮮で胸がきゅっとなる。

私自身「食」のことにとても関心があるせいか、書かれていることにいちいち頷いたり、反省したり。
食べるって、ただ栄養を身体に入れるということではないし、ましてや空腹を満たすだけの行為でもない。

少し前、うちの市の市民祭りの時、ある講演会を聞きに行き、そこで内田美智子さんという助産師さんが
話した内容が「食」に関することだった。
その時に例をひかれていたのが、実はこの「自炊男子」の中の一文だったと読んでみて分かった。
(以下、ネタバレにつき反転文字にします。)

「いただきます」「ごちそうさま」をなぜ言わなければならないか分かりますか?
「いただきます」の意味の一つは、作ってくれた人の命をいただくということです。
命とは時間です。(中略)
皆さんが生まれてから今日までの間、お母さん、お父さんは、自分の命の時間を使って、皆さんを食べさせて
きたのです。
そして、これから親元を離れるまで、ずっと、皆さんは、お母さん、お父さんの命の時間を食べていくわけです。
食べ物を粗末にすることは、作ってくれた人の命を粗末にすることです。
心を込めて、「いただきます「ごちそうさま」を言いましょう。(後略)


他にも、もっと感動的なエピソードや言葉が出てきて涙腺がゆるんでばかり。

はじめ、主人公(=佐藤さんがモデル)は、どこにでもいるような男子学生で、お腹いっぱいになればそれで
いいという考え方だった。
食に関する考え方は生き方に対する考え方や行動に直結している。
沢山の良い出会いが次第に彼を変え、とうとう農業に関心を持ち、自ら農家に泊まり込んで体験までする。

そして…実は佐藤さんはうちのわりと近くに住んでいて、今は九大の大学院で助教授になり、農業や食育、
環境保全のことについて研究したり事業をしたりされている。
「食」を見つめることで人生がガラッと変わったのだという。

色んな偶然やラッキーもあったかもしれないけれど、本人の素直さや、物事をじっくり考える姿勢、そして
素敵な人や言葉との出会いが、彼に素晴らしい活躍の場を用意したのだ。

最近、「読書のすすめ」の清水店長の講演会で佐藤さんが司会をされ、その時に地元の食材だけを使った
海鮮丼屋を始めました、と言われていた。
一度行ってみたけど、大人気ですでに完売していた。
絶対一度は食べてみたい。
ただのグルメ的興味ではなく、食べることで彼の思想が少し分かるかもしれないし…☆

平易な文章でぐんぐん読めるし、とにかく大切なことが沢山書いてある。これは子どもたちにも読ませたい!

人生逆戻りツアー/泉ウタマロ(本感想)

2011-11-07 22:16:58 | 本感想
今までに読んだ本の感想の続きも書いてないのに、ちょっと先に書きたいのがあるので今日はそれを。^^
本のソムリエ・清水店長の講演会『読書のすすめ』で紹介されていた中の一冊『人生逆戻りツアー』。

とても軽妙なタッチでコミカルすぎるほどコミカルな部分もあるのに、グッと深いことを言ってる。
その入りやすさと奥深さの両方で、笑ったりホロッとしたりしているうちにあっという間に読了。
人間誰しも「あの時ああしていたら」「こんなはずじゃなかった」「自分にも夢があったのに…」
などと思うことがあるだろう。
一度でもある人は、多分とても共感できるし、考えさせられると思う。
逆に、自分はこの人生で100%満足!という方は読む必要ないかもです。^^

あるスーパーの店員をしている60代の男があっけなく死んでしまう。死んでしまうところから始まる話。
死んだ彼は自分の3人の守護天使と会い、人生を逆回しに振り返る旅に出る。
…という荒唐無稽な話ではあるのだけど、随所に出てくるまるで格言のような言葉が本当に心に沁みる。

いくつかご紹介(これから読まれる方は飛ばしたほうがいいかも)。

『人間にとって本当に必要なことかどうかが、社会全体の賃金基準や価値評価に比例していない。
こちらの領域から考えたら、人類にとって重要でないものになぜか高収入が与えられている場合もある。
人間社会にとって真に価値ある働きをする者に正当な評価や対価を与えられないのは、人類全体の知性が、
未だ極めて発達遅滞だということの大きな証拠の一つだ』(天使Aの言葉)

『人が本気で何かを求めた時、宇宙のエネルギーが総動員で望みを叶えようと協力してくれる。』

『自分自身を大切に思わないと、永遠に与えられているエネルギーを使用可能にすることができない。』

『スポーツ、ダンス、絵画、彫刻、音楽、工芸…あらゆるジャンルで人が神業のような表現活動を行う時、
それは神の領域に微妙に足を踏み入れた瞬間でもある。』

『(神に対して)どんなに遠回りしても、どんなに忘れようとも、どんなに捨てようとも、神は
私たちを決してあきらめない。』
などなど。


この場合、別に特定の宗教の話と思わなくていいのだと思う。
私はこの本の「神」を、何か人間の力の及ばない絶対的(immortal)な存在と捉えて読んだ。
宇宙の力と言ってもいいかもしれないけれど。

この主人公は、死んでしまってから魂の世界で自分の人生を一つ一つ検証していき、最後には変な神様
(おかまです!笑)に直接話を聞いて、学んでいく。
次に生まれる時には記憶はなくなってしまうのだけど、ほんの少しずつ前世よりも進歩できるのでは?と
思わせてくれる。

そうは言っても、誰もが好きなことを職業にして、しかもそれが人をも幸せにできるとか、そう単純に
できていないのが人生…ってことは分かっている。

でも、あっという間に歳を重ねてきてしまって、なんとなく人生尻すぼみ的な感じになっていた今日この頃、
たまたまこの本と出会った今、キラキラ輝く方との新しい出会いや頑張っている懐かしい人との再会が
重なり、私もまだまだこれからやらなきゃ!と思えた。

心が温かくなり勇気の湧く本!

読書覚え書き・Part2

2011-08-30 16:27:25 | 本感想
★発達が気になる子のサポート入門/阿部利彦(実用本・学研新書)

発達障害の子どもたちといかに接したらいいのかが、ただの心構えだけでなく、実例を挙げて解説してあり分かりやすい。
どんなに知識が豊富でも理解しよう、一緒に悩もうという気持ちがなければ、こういう子たちのいる現場では通用しないと思う。
でも、やはり正しい認識を持ち、的確な対処方法を知った上で接することが大事。
ためになる。

★まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん(小説)

冴えない便利屋の多田啓介の元に、ある日高校時代の同級生・行天が転がり込んでくる。
そして様々な依頼を引き受けてしまい問題が続出。やくざや商売女と関わったり、危ない橋を渡る羽目に。
性格の全く違う二人は、時にぶつかり合いながら仕事をこなし、それぞれに抱える過去や心の傷を知り合うようになる…。
イヤ面白い、軽妙なタッチで飽きない。その上しんみり考えさせられるところもあって、面白い小説ってのはこういうもののことを言うのだ。

★記憶喪失になったぼくが見た世界/坪倉優介(ノンフィクション)

大学在学中に交通事故に遭い、突然記憶喪失になってしまった青年の手記。母親の文章も時々混じる。
自分や家族のことはもちろん、この世の全ての物の名前、感覚的なことの意味(味、時間、生理現象など)、文明の利器の目的や使い方…などといった全てのことが分からない。まず、「かあさん」という人を覚え、物の名前を覚え、食べたり寝たりするサイクルを覚え…。
ついには大学に復帰し、社会生活に再び参加できるようになるまでの記録。
本人と家族の並々ならぬ努力が凄い。あきらめないとはこういうこと。当たり前に生きていることの有難さを実感する感動の手記。

★ポトスライムの舟/津村記久子(小説)

文庫本のタイトルと同名の1編と、「十二月の窓辺」という2つの中編小説。
どちらも働く若い女性が主人公。どちらもごく平凡、どちらかと言うと仕事に燃えるタイプでもなく、日々を淡々と無難にこなせればいいくらいに思っている。
でもそういうわけにもいかないのは、家族や同僚、上司などとの関わりの中で生きているから。
ちょっとビターで斜に構えてる感じが私好みだった。働くって大変だ、とつくづく思う。でも後味のいい小説。

★猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子(小説)

美しい詩のような小説。この人はなんて言葉を巧みに操るんだろう、とうっとり。
そして底辺にずっと流れる上品で悲しい調べ。
読んでいる間はずっと、日常とは全く違う時間の中にスッと入ってしまう感じ。
「成長することを途中で止めたある少年」がチェス台の中に隠れてずっとチェスをするというちょっと変わった話。
変わっている分「博士の愛した数式」ほどの感情移入は出来なかったが、上質の言葉で綴られる切なさいっぱいのちょっと哲学めいた話で好き。

★逆事/河野多惠子(小説)

新聞の書評を読んですごく興味を持ってしまい即読み。小説とエッセイの中間みたいな短編が5つ。
不思議な感覚。難しくはないのだけど今ひとつ入り込めないまま突然ストンと終わる。
妙な「突き放された」感と浮遊感があって、途中から中毒みたいになってすぐに読了。
最後の『逆事(さかごと)』なんかは、ゾクゾクするような終わり方。
説明しようのない人の心の機微とか行動とかをさりげなさそうに書いているけど、これ計算しつくして書いているのだろうな。再読すると良さがじわじわ分かるんじゃないかな。

★レインツリーの国/有川浩(小説)

高校生の頃夢中になった小説についてネット検索をしていて、あるレビューに辿り着く。
読むと自分ととても感性が似ていて、少し意見の違うところもあって、書いた人に興味を持つ。そして返事を期待しないままメールしてみる。
…と、今どきの出会い方で二人の恋は始まる。メールのやりとりが若者らしく初々しくてすんなり読めてしまう。
でもそれだけでは終わらないあるテーマがこの話にはあり、それがぐっと深いものにしている。考えさせられるし、胸キュンもあるし、とても楽しめた良い小説。

もう少しあるけど、また次回。^^

読書覚え書き(相当前の分から…)・Part1

2011-08-11 23:42:24 | 本感想
もともと、本や映画のレビューを書きたくて始めたサイトであった…。
それが今じゃ、サイトは完全に放置してしまい、Blogだけ気ままに(というより、もはやわがままに)書いてる。

でも、たまには本のこととか書かないとね。
ということで、今日は1~5行くらいずつの覚え書きということに…。^^
(読んだ順番は忘れたので、思い出すままに)

★ロック母/角田光代(小説)
短編集。さすが角田さん!読ませる力はすごい。一番印象に残っているのは文庫本のタイトルにもなっている「ロック母」。
妊娠してしまった主人公が相手に逃げられ大きなお腹を抱えて実家に帰ると、大音量で“ニルバーナ”を聴くちょっと壊れた母がいた…。
テンポもいいし会話もぶっきらぼうだったり荒れた雰囲気なのに、なんだか全体に切ない。
憎悪や怒りや「しみったれた人生」に対する屈服感が、まさにロックみたいに流れてる。他の話も含め、爽快な話じゃないけど、嫌いじゃない。


★東京島/桐野夏生(小説)
設定が面白そうで読んでみたけど、私にはあまり合わなかった。桐野作品、結構好きなのが多いのだけど。
でも怖いよなー、もし無人島に流れ着いて、男ばかりの中、女は自分ひとりだけだったとしたら…。主人公はそれを逆手にとって「女帝」へと
のしあがって行くのだけど。ちょっと痛快かなと思っていたら、話はだんだん思わぬ方向に…。そういう意味では飽きなかったけど。


★リアル・シンデレラ/姫野カオルコ(小説)
TVで絶賛されていたので期待して読んだけど、私にはちっとも面白さが分からなかった。
両親は病弱で容姿の美しい妹を可愛がり、自分のことはぞんざいに扱う。ずっと影のような存在で男性からもモテないし取り柄もない泉。
でも彼女は本当の幸せの意味を知っていた。素晴らしく純粋な女性・泉という無名の女性の半生をルポするという形式で語られていくのだが、
その手法も感情移入できなかった一因かも。ああでもやっぱり、これに感動できない自分の心の汚さがいけないんだわ!(泣)


★本当の自分に出会う旅/鎌田實(エッセイ)
大好きな鎌田先生の「旅」にまつわるエッセイ。どの旅も、深刻な病気や障害を持っている人、高齢者といった、通常旅など無理だと思われて
いる人たちとのものばかり。先生はとにかく、「なんとかなるさ!」の精神であきらめかけている人たちをこれらの旅に引っ張り出す。
そして必ず「良かった!」と思って帰ってきてもらう。中にはその後ぐんぐん元気になったり、旅のリピーターになってしまう人もいる。
先生のまなざしは暖かい。そしてどんな時もあきらめない。結婚25年目の新婚旅行(お金がなくてずっと先延ばしになっていたから)は、なんと
アウシュビッツとチェルノブイリ!命の大切さや弱い人々への愛をいつも大事にしている先生の話は、説得力があって元気になる。文章も平易でグー。


★風花/川上弘美(小説)
結婚7年目、夫の浮気を知った主人公・のゆり。自分自身のことなのにどうしていいか決断がつかず、夫から離婚を切り出されても結論を
先延ばしにする。ふわふわしたたよりなげな文章と展開で、とっても川上さんチック。あまり年齢の変わらない叔父と温泉に旅をしたり、女友達と
気の進まない沖縄旅行をしたり、なんとなく過ごしつつも前に進もうとするのゆり。夫の転勤をきっかけに別居にふみ切り、その後、さらに第三者の
登場が…。前半はとてもゆるくてちょっと退屈~…と思っていたら、後半急展開があって面白かった。のゆりはいつの間にか大人になったのね。
人と人の絆のあやうさが、短かいセリフにちらっと覗くようで、読んでいて自分もあわあわと切なくなる。終わり方も好き。


まだあるけど、長くなるので今日はPart1ということで、このくらいに。^^

きことわ/朝吹真理子

2011-03-09 23:33:40 | 本感想
文藝春秋に掲載された芥川賞2作品のうちの1作品。

若く美しくおまけにいかにも頭脳明晰という感じの作者の容姿。
前もってなんとなく入っていた、才能溢れる期待の新人!というフレコミ。

どこか格好つけの気取って読みにくい文章なのではないか…という勝手な思い込みがあった。
でも全然違った。

文章はたしかに美しく透明感に満ちていて上品だけれど、決して敷居が高いとは思わせない。
軽くはないけれど、読みやすく軽妙洒脱で流麗。

そもそも、出だしからして
『永遠子(とわこ)は夢をみる。
貴子(きこ)は夢をみない。』…だ。

意味不明の『きことわ』って、なーんだこういうことか!といきなり安心させてくれる。
その、入りやすい入口から抵抗なく入って、サササ…と歓待されてどんどん奥の方まで案内されるような心地よさ。

そうしてあっという間につかまれ、あっという間に読み終わった。

ある別荘のオーナーの娘・貴子と、その管理人の娘・永遠子。
7つも歳の離れた二人の女性の、幼少期のある一日と、25年を経て33歳と40歳での再会の日。

大きな出来事は何も起こらず、精神的な葛藤やいざこざや対立も何もない。
芥川賞という大きな賞をとる小説が、こんなにサラッとしていていいのだろうかと思うくらい。

非常に感覚的な作品で(こういう作風を決して嫌いではないのだけど)、テーマというテーマもないようなふわふわとした感じで終始した。

作者は「時間」というものに特別な想いを持っているようだ。
文章の中にも、2人の主人公のまわりを流れる時間だけでなく、宇宙の時間や古代へと思いを馳せるような表現が多々出てきた。

そして「夢」と「記憶」についての描写もまた。

夢の中のもどかしい感じとか、同じ経験をしたはずなのに時を経て覚えていることが違うということとか、とても共感できる。

でも、なにか物足りない。
美しい散文を読んだと思えばいいのかもしれないのだけど。

そもそも7歳と15歳の2人が25年を経て…という設定からして。
女性って、その25年間こそ様々なことがあるはずじゃないか。

なのに作中の2人はあまりに透明なままでリアリティが薄かった。
色んなことがあったことを仄めかす文章もなくはないけれどなんか違和感があった。

これはそんなことを書いた小説じゃないといわれればそれまでで、夢とうつつ、茫洋たる時間を、才能を駆使して巧みに書いたのだということかもしれないけれど。

伸び縮みする時間、歪む時間、どこかですりかわる時間…そういう感じの面白さは充分に感じられたし、本当にこういうの嫌いじゃないのだけど。

うーん、だけど人物に迫りきっていないので心地よさだけ残って、すぐに忘れそうだ。
別に人物を描いたんじゃないですもの…と言われそうではあるけれど。