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オペラで世間話

サイト「わかる!オペラ情報館」の管理人:神木勇介のブログです

オペラ公演、DVD、本の紹介・・・そして、音楽のこと

新国立劇場『セヴィリャの理髪師』(10/22)

2005-10-23 | オペラ公演
【新演出の必要があったのか】
 今まで新国立劇場で上演されてきた『セヴィリャの理髪師』は、マエストリーニの原演出に粟國淳が手を入れたもので、極めてオーソドックスな演出でした。今回の新しいプロダクションは、演出家ヨーゼフ・E.ケップリンガーによって、時代背景が「フランコ政権下の1960年代のセヴィリャ」とされました。
 私はこのことを知ったとき、惜しいことをしたなと思いました。なぜなら、以前のプロダクションは、オーソドックスでバランスが取れており、視覚的にもいかにも「オペラ」っぽく、『セヴィリャの理髪師』という親しみやすい演目で、初めてオペラを観る人に「オペラの楽しさ」を知ってもらえる最適なプロダクションだと思っていたからです。
 『セヴィリャの理髪師』以外のロッシーニのオペラは、まだ新国立劇場に登場していません。読み替えに堪えうる作品は他に多く存在します。『セヴィリャの理髪師』がシーズンのテーマ「英雄たちの運命」に合致しているかも疑問です。
 新国立劇場開場から丸8年、もう十分オペラファンは育ったとして、新しい『セヴィリャの理髪師』が望まれたのでしょうか。

【興味深いバルトロ邸】
 それでも、私は新しい『セヴィリャの理髪師』を期待して鑑賞しました。オーソドックスだろうが読み替えだろうが、本当にいいものなら誰でも楽しめます。
 序曲から幕が開いて舞台は動き始めました。回り舞台の上に2階建ての家を建てて、外と中がよく見えるようにしてあります。この家の様子や舞台と歌手の動かし方を一目見たとき、これはおもしろいものが観られるのではないかと思いました。
 しかし、残念ながらオペラが進めば進むほど疑問点が多くなりました。意味のない動き、ウケを狙った動き、そういったものが多くて、肝心の作品に潜むおもしろい箇所が生きていないのです。いいアイデアもたくさん盛り込まれていましたが、これだけの舞台ならもう少しいいものが作れたのではないかというのが私の印象です。

【オペラの主題はどこへ】
 時代背景を変更しただけで、オペラそのものの読み替えを行っていないのであれば、筋は通すべきです。第2幕後半でフィガロと伯爵はバルトロ邸にハシゴを使って忍び込みますが、そのハシゴをバルトロが外してしまうことから伯爵とロジーナの結婚が成功します。まさにこのオペラの主題である「無用の用心」が描かれるわけです。しかし、今回の演出ではこのハシゴのエピソードが描かれていません。

【音楽について】
 オペラが冴えなかったのには音楽面にも原因があります。伯爵役のフェルディナンド・フォン・ボートマー(T)はアジリタが不安定でしたし、フィガロ役のダニエル・ベルチャー(Br)の歌詞は聞きづらい。バジリオ役のフェオドール・クズネツォフ(Bs)は声量はありましたが、それ以上に訴えてきませんでした。
 また、ニール・カバレッティの指揮も、ロッシーニの生き生きとした音楽を活かしきれていません。アンサンブルが乱れていたところもありました。

【データ】
ロッシーニ『セヴィリャの理髪師』
2005.10.22 Sat. 15:00 新国立劇場(大)
カバレッティ(指揮) E.ケップリンガー(演出)
東京po.新国立劇場cho.
アルマヴィーヴァ伯爵:フォン・ボートマーT / ロジーナ:シャハムS / フィガロ:ベルチャーBr / バルトロ:柴山昌宣Bs / ドン・バジリオ:クズネツォフBs / ベルタ:与田朝子Ms / フィオレッロ:星野淳T / 隊長:木幡雅志Bs

バイエルン国立歌劇場『タンホイザー』(10/01)

2005-10-02 | オペラ公演
【11年前でも「新しい」】
 バイエルン国立歌劇場の引っ越し公演で、1994年プレミエの『タンホイザー』を観てきました。今から11年前のプロダクションですが、デヴィッド・オールデンの演出は現在でもまだ「新しさ」を感じさせるものでした。
 日本のオペラも、最近はおもしろい演出が増えてきていますが(もちろん外国から一流の演出家を呼んできているためでもありますが)、このような海外の歌劇場の舞台を見せられると、まだまだ追いつけないのだなと思ってしまいます。

【オールデンの演出のわからなさ】
 このオールデンの演出は、わからないことも多くあります。私はオーソドックスな演出が好きですが、でもあまり平凡だと、ただ退屈なものになってしまうので、「わかる」と「わからない」の中間くらいの「仕掛け」をたくさん用意しておいてもらえるとうれしいところです。

【ヴォルフラムの描き方】
 今回、特に不思議だなと思っていたのが、タンホイザーの旧友ヴォルフラムの描き方です。従来、ヴェーヌスベルクに堕ちたタンホイザーに対比して、誇り高く立派に描かれることが多いヴォルフラムですが、オールデンの演出では、気弱で悩み多き詩人となっていました。最初は少しパッとしないなあと思っていました。
 でも、第2幕の歌合戦でよくわかりました。ヴォルフラムが悩みながら歌った「精神の愛」に対して、タンホイザーが「快楽の愛」こそが真実だと反論する場面。続けてヴァルターやビーテロルフがタンホイザーを非難しても、タンホイザーの暴論が止まないという状況で、それまで弱々しかったヴォルフラムが、何か吹っ切れたかのように歌い出したのを見たとき、なるほどここを頂点に狙ってきたのかと納得しました。その表現効果は抜群。その直後、タンホイザーがとうとうヴェーヌスを讃えて歌うというように、決定的な場面が最高に盛り上がりました。
 今回の『タンホイザー』は基本的にパリ版でしたが、この歌合戦の場面などはドレスデン版となっていたので、折衷版といったところでしょうか。私はバランスが取れていて、いい選択だったと思います。

【雄弁なピット】
 それにしても、ピットのバイエルン国立歌劇場管弦楽団の「雄弁」なこと。絶妙な合いの手に、本当にオペラをよく知っているんだなあと感心させられます。日本のオーケストラとは、まるでアナウンサーの表現と、朗読の表現の違いのようです(ただし、私はアナウンサー的な美しさも好きです)。
 特に管楽器、オーボエやフルートが際立った音楽を聴かせてくれました。
 ズービン・メータの指揮は、少し大味でアンサンブルが乱れたところもありましたが、最初から最後まで熱演でした。

【歌手の力量】
 歌手陣としては、上記のヴォルフラムを演じきったサイモン・キーンリーサイド(Br)が、筋のいい歌唱を披露。当然ながらヴェーヌス役のワルトラウト・マイアー(Ms)は貫禄の歌唱。
 エリーザベト役のアドリアンヌ・ピエチョンカ(S)は、2001年に新国立劇場『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・アンナを聴いたときから目を付けていましたが、その時より数段うまくなっていて驚きました。第3幕では、もう少し抑えてじっくりと歌った方がよかったとも思います。

【データ】
ワーグナー『タンホイザー』
2005.10.01 Sat. 15:00 東京文化会館(大)
メータ(指揮) オールデン(演出)
バイエルン国立歌劇場o.cho.
タンホイザー:ギャンビルT / エリーザベト:ピエチョンカS / ヴォルフラム:キーンリーサイドBr / ヴェーヌス:マイアーMs / ヘルマン:ケーニヒBs

新国立劇場『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(09/23)

2005-09-25 | オペラ公演
【2005/2006シーズン開幕】
 新国立劇場2005/2006シーズンの開幕公演となった今回のオペラで、最も注目されたのは、ザックス歌いとして名高いベルント・ヴァイクルが演出をする、ということではなかったでしょうか。経験が浅く、実力が未知数である演出家を、どうして招聘するのだろうかという疑問が最後まで残りましたが、やはりこれだけの歌手が何を出してくるかという期待も大きくありました。

【ザックス歌いヴァイクルの演出】
 結果的には、オーソドックスな手法で、舞台は見やすいものでした。絵画的と言ってもいいかもしれません。例えば、第1幕のエーファが赤い上衣に青いマフラーで聖母マリアを象徴した姿から、第3幕では白いドレスで花嫁姿となったり、また、小細工なしの舞台に照明の操作によって彩りを加えたりしています。
 といっても表面的な体裁を整えるばかりでなく、ザックスの仕事場に「ワーグナー」と「ザックス」の肖像画を掲げ、ワーグナーと対立した批評家ハンスリックに見立てたベックメッサーに「ワーグナー」の肖像画の方を威嚇させるなど、オペラを読み込んだりもしています。観ていてわかりやすく、それでいてよく考えられている演出でしたが、それでもやはり現在の一流演出家の作品と比べると、少し浅いかなと感じました。
 ただ、どっしりと構えたオーソドックスな演出には好感が持てます。欲を言えば、こういった手堅い演出のときは、日本人歌手で固められたマイスタージンガーたちの細かい演技は、観ていてうるさく感じられるのでわきまえてほしいところです。
 舞台背景には常に壁が置かれて、ぶ厚いオーケストラに歌手の声が負けないようにされていて、いかにも歌手出身の演出家らしい配慮もありましたが、そのために狭くなった舞台の上では、登場人物の配置や出入りがスムーズでなく、技術的な問題も見え隠れしました。

【健闘した歌手陣】
 同時期に同演目を上演するバイエルン州立歌劇場の引っ越し公演と比べて、ネームバリューは見劣りする歌手陣ではありましたが、総合的にみて、全く不満のないレベルでした。特筆すべきはエーファ役のアニヤ・ハルテロス(S)で、なかなか聴かせます。これからの活躍にも期待できます。ヴァルター役のリチャード・ブルナー(T)も、うまく歌ったと思います。聴きやすいマイルドな声でした。ポーグナー役のハンス・チャマー(Bs)は、新国立劇場には『フィデリオ』に続く出演。『フィデリオ』のときも書きましたが、この歌手の歌唱と演技はすばらしいものです。
 肝心のザックス役のペーター・ウェーバー(Br)は、この役が初役とのこと。歌唱には満足しましたが、もう少し威厳のあるザックス像が、私の好みです。それとは逆にベックメッサー役のマーティン・ガントナー(Br)には、もう少しキャラクターを崩してほしかったと思います。

【心地よい音楽づくり】
 今回の公演で、一番よかったと思えたのは、指揮者のシュテファン・アントン・レックがつくった全体の音楽の流れでした。ワーグナーの音楽に逆らわず、前へ前へと進んでいきます。それでいていくつかのフェルマータでは十分に間合いをとっていて、そしてその間合いが絶妙でした。

【データ】
ワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』
2005.09.23 Fri. 14:00 新国立劇場(大)
アントン・レック(指揮) ヴァイクル(演出)
東京po.新国立歌劇場cho.
ザックス:ウェーバーBr / エーファ:ハルテロスS / ヴァルター:ブルナーT / ベックメッサー:ガントナーBr / ポーグナー:チャマーBs / マグダレーネ:小山由美Ms / ダーヴィット:吉田浩之T


二期会『フィレンツェの悲劇』『ジャンニ・スキッキ』(07/30)

2005-08-01 | オペラ公演
【フィレンツェつながり】
 二期会がツェムリンスキーの『フィレンツェの悲劇』とプッチーニの『ジャンニ・スキッキ』を二本立てで公演しました。両方のオペラとも、イタリア・フィレンツェを舞台とする物語という粋な組合せでした。おそらく、客席も「花の都フィレンツェ」を想像して、『ジャンニ・スキッキ』の有名なアリア「私のお父さん」などをお目当てにしていたのではないかと思います。

【事前にお知らせするほど過激な演出】
 しかし、今回の公演は、そんな期待を裏切って、演出を担当したオーストリアの女流演出家カロリーネ・グルーバーが、両方のオペラに、非常に前衛的なアレンジを施しました。どんなアレンジかというと、まず『フィレンツェの悲劇』は「SM」の怪しい世界となっていました。これは、さすがに二期会も評判がよくないと思ったのか、事前に「演出上一部倒錯的性表現が含まれます。ご理解のうえご鑑賞賜ります様お願い申上げます」というお知らせ葉書を送ってきたほどです。出演者変更のお知らせ葉書をもらうことはあっても、こんな葉書をもらったのは私も初めてでした。
 後半の『ジャンニ・スキッキ』は、『フィレンツェの悲劇』の続きという設定で、登場人物全員が今風の派手な格好をしています。肝心の「私のお父さん」のアリアを歌うラウレッタは女子高生の格好です。
 ロビーで会話をしていたおば様が「こんなオペラに9千円も払っちゃったわよ」と大きな声で話していました。

【前衛的な演出の必然性】
 最近では、日本でも前衛的な演出が多くなっています。同じ二期会でも、例えば、2004年7月に宮本亜門が演出したモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』など、賛否両論がありましたが、私は、宮本亜門がそれ以前に演出した『フィガロの結婚』の後に練り上げたすばらしい舞台だったと思います。
 ですが、今回の2本立ての公演は、同じフィレンツェを舞台とするオペラを続けて上演するという趣旨から、もっと違うやり方があったのではないでしょうか。

【健闘した演奏家は……】
 歌手陣で良かったのは、『フィレンツェの悲劇』で冷静にきちんとした歌唱をみせた多田羅迪夫(Br)と、要所を締めた菅有実子(Ms)、そして『ジャンニ・スキッキ』でひとり気を吐きプロらしい歌唱を披露した直野資(Br)でした。
 クリスティアン・アルミンク指揮する新日本フィルは、両オペラとも、とてもいい出来でした。新日本フィルの今後のオペラの演奏にも期待したいところです。

【データ】
ツェムリンスキー『フィレンツェの悲劇』
プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』
2005.07.30 Sat. 15:00 新国立劇場
アルミンク(指揮) グルーバー(演出)
新日本po.
シモーネ:多田羅迪夫Br / ビアンカ:菅有実子Ms / グイード:大野徹也T / ジャンニ・スキッキ :直野資Br / リヌッチオ:大間知覚T / ラウレッタ:斉藤紀子S


サン・カルロ歌劇場『ルイザ・ミラー』(06/18)

2005-06-19 | オペラ公演
【フリットリ(S)の日本デビュー】
 今回の公演では、イタリアのソプラノ、バルバラ・フリットリ(S)の日本デビューが注目されました。
 フリットリが日本のオペラ・ファンに広く知れ渡ったのは、NHK衛星第2でミラノ・スカラ座『イル・トロヴァトーレ』が放映されてからではないでしょうか。このときは、テノールのリチートラに注目が集まっていたのですが、共演していたフリットリに目が(耳が)奪われた人も多かったはずです。

【なぜフリットリは『ルイザ・ミラー』を選んだのか】
 フリットリが日本デビューのために選んだオペラが、ヴェルディの『ルイザ・ミラー』でした。
 なぜこんなマイナーなオペラを選んだのかは、実際に観に行ってよくわかりました。フリットリの演じたルイザ役は、ソット・ヴォーチェ(弱く柔らかい声)を駆使しなければならない難しい役だったのです。強くて大きな声を出すソプラノはどこにでもいますが、弱音を駆使して、しかもその声で客席を感動させることができる歌手には、めったに出会うことができません。そして、フリットリが最も得意とするのが、このソット・ヴォーチェなのです。
 彼女の経歴を見てみると、メトロポリタン歌劇場や英国ロイヤル・オペラハウスでも『ルイザ・ミラー』を歌っています。このオペラは世界の有名歌劇場といえど、普段あまり上演しないオペラなので、不必要に他のソプラノと比較されることもないでしょう。フリットリにとっては、得意な技術を正当に評価される舞台となるわけです。

【サッバティーニ(T)の完璧な歌唱】
 相手役のロドルフォには、ジュゼッペ・サッバティーニ(T)を連れてきました。これも最良のキャスティングだったと思います。
 ただ声を張り上げるだけのテノールでは、せっかくのフリットリの歌唱が台無しになってしまいます。サッバティーニは、現在活躍中のテノールの中でも、弱音による声で完璧に歌うことのできる数少ない歌手です。彼にとって、今回のロドルフォ役は初めて挑戦する役でしたが、見事に歌いきりました。

【新しいヴェルディの演奏スタイルとは】
 サッバティーニの声はヴェルディには合わない、という意見もあるかとは思いますが、私はそうは思いません。
 一昔前なら、ヴェルディの太い旋律を歌うためには強い声を必要とするという考え方が主流だったかもしれませんが、今やそういった考え方は古いものでしょう。アーノンクールが指揮したヴェルディ『アイーダ』のCDでも、主役ラダメスに、強い声というより、スタイリッシュな声を持つラ・スコーラ(T)を起用して成功していることからも明らかです。
 私は決して従来のヴェルディの演奏を否定しているわけではありません。むしろ、その力強さにも魅力を感じますし、それを追い求めてもいます。
 ただ、「ヴェルディの演奏はこうでなければならない」と最初から決めつけてしまうことに抵抗を感じます。私は、それぞれアプローチの仕方の問題だと思うのです。その演奏の意図がどれだけ作品の意図に接近できたか、そういう考え方が重要だと思います。

【ナポリを聴いてから死ね?サン・カルロ歌劇場】
 今回、マウリツィオ・ベニーニが指揮するサン・カルロ歌劇場管弦楽団は、フリットリとサッバティーニという繊細な表現を得意とする歌手を得て、センスのいい演奏を実現していました。
 少し速めのテンポでサクサクと進み、ヴェルディの音楽をより軽快に生き生きと聴かせることに成功しています。加えて、ラストに向かってオペラを劇的に盛り上げたその技術は、さすが本場イタリアのオペラハウスだけあって、やはりオペラを知っているのだなあと感嘆しました。
 この公演くらいのオペラをやってくれたら、誰も文句はないのでは。演出をもう少し工夫してもらいたかったところですが、全体的に非常にレベルの高いオペラ公演となりました。

【データ】
ヴェルディ『ルイザ・ミラー』
2005.06.18 Sat. 15:00 オーチャードホール
ベニーニ(指揮)ラヴィーア(演出)
サン・カルロ歌劇場o.cho.
ルイザ・ミラー:フリットーリS / ロドルフォ:サッバティーニT / ヴルム:デ・カロリスBr / ヴァルター伯爵:スリアンBs / ミラー:アントヌッチBr / フェデリカ:キウーリMs / ラウラ:マラヴァージMs