【オペラ・ファンは驚くはず】
アーティゾン美術館の「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂」展に行ってきました。どのような展示があるかあまり考えず、オペラで使う衣装とか、小道具とかが並んでいるのかなと思っていただけでしたが、実際に行ってみたら驚きました。展示室の一角に何気なく置いてある見開きの楽譜。パリ・フランス国立図書館で所蔵されているグルックのオペラ《オルフェオとエウリディーチェ》の直筆譜なのです。もちろん作曲家の直筆譜は、よく書籍にも写真として掲載されていますし、研究や観賞用にファクシミリ版としてコピーが出回っています。ですが、この直筆譜は本物。グルックが手書きしたものです。
絵画は、描いた画家がその絵の前に実際にいて、その絵を描いて、それが展示されます。絵画を鑑賞しながら、私たちはその製作者の息吹をも感じることができるわけです。普段はオペラを観ていて、楽譜に書かれた音符が演奏されたその音楽を聴いているわけですが、その直筆譜を前にして、作曲家本人にすごく接近した感じがしました。音楽は、出回っているコピーの楽譜があって、それが演奏されればそれで事足ります。とはいえ、その元となった作曲家自身が書いた直筆譜。《オルフェオとエウリディーチェ》の見開きになっている部分は、まさに序曲の開始部分でしたが、これがなければ、その後のオペラ史が変わっていたかもしれない。そう思うと、この一点ものの直筆譜は、私には名画と同様の価値ある美術品に感じられました。
そして、他の直筆譜もあります。ラモー《レ・パラダン(遍歴騎士)》、ロッシーニ《ウィリアム・テル》(見開きは、有名な序曲でフォルテになる箇所)、ヴェルディ《ドン・カルロ》(フランス語版)、ワーグナー《タンホイザー》(パリ版の挿入部分)など驚きのラインナップ。展示を見つけるたびに、のけぞりそうになりました。私は金曜の夜に行きましたが、バレエ・ファンが多かったのか、これらオペラの直筆譜を覗き込む人は皆無でした。もう大きな声で宣伝したくなります。ここに、国宝級のお宝がありますよ。楽譜の見開きの展示も、ここぞという部分を鑑賞できるように開いてあり、大変うれしい演出です。
他にも私がおもしろいと感じたのが、オペラ初演時の舞台デザインや舞台模型。例えば、《タンホイザー》の第2幕、ヴァルトブルク城の歌合戦の場面の舞台が再現されています。そういうものを見ていると、初演時の舞台を再現したオペラ公演などを見てみたいとも思ってきます。エリーザベトの冠などの衣装小道具、初演時のポスターを見ながら、初演の時に想いを馳せました。
オペラ・ファンは、この企画展に足を運んだら、きっといろいろな発見があると思います。私はここに書いたこと以外にも多くの気づきがありました。また、このようなオペラハウスをテーマにした企画展があればうれしいです。
【企画展データ】
アーティゾン美術館(ARTIZON MUSEUM)
「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂」展(2022.11.5-2023.2.5)
日時指定予約制、1,800円(学生無料)