薄暗い中、待ち続ける。
犯人の登場を。
「こんな手薄な警備で、守れるのか?ホームズ。」
我慢できずに、警部は問いかけた。
その問いかけに対し、すくさま返す。
「警部は自分の腕に自信をお持ちですよね?
私もあります。」
きょとん、とする警部に続ける。
「だから、決して手薄なんかじゃありませんよ。
むしろ、こうたくさん人がいると、不審者が紛れ込むかも、
知れませんから。」
なるほど、確かにあれ程の警官がいたら、その中に犯人がまぎれてしまう
可能性があるだろう。
隠れた犯人に気づくには、人数が多いほど難しい。
無駄に多数の愚者よりも、少数精鋭といったところであろうか。
しかし、3人というのは、あまりに少ないのではないだろうか。
そして、この暗さ。
一体、どんな策があるというのか。
待つこと。
この場所で、待ち続けること2時間。
窓にはちょうど月が見えるようになった。
月明かりが、彼らの元まで差し込む。
「ホームズ、仮に犯人が現れたとして、たった3人で、
どうやってこの絵を守るつもりなんだ?」
警部は少々不満げだ。
対して、ホームズは動じず、
「ま、見ていて下さい。」
ゆとりの表情。
なにか、考えがあるのだろう。
その時、彼の口元にある、パイプたばこの煙が、
ふわっと揺れた。
同時に、月明かりが陰る。
「いらっしゃいましたよ」