聞いて、遠くの窓へと2人とも目を向ける。
天窓へ、1人の影がある。
シルクハットに、たなびくマント。
長身の男性という事は分かる。
スコットランドヤードが初めて目にした、犯人の姿。
しかし、逆光のため、その人物の表情は見えない。
「いつもの警官たちは下げたか。少しは賢くなったか?
レストレイド君。」
低いトーンの声が、かすかに聞こえた。
その時、
彼の体が宙を舞った。
天窓から、ひといきで絵画のすぐ前へと降り立つ。
そのあとには、キラキラと輝くものが見えた。
ホームズは、なるほどという顔をする。
「なかなか器用でいらっしゃいますね。
細い糸を使って、ここまで瞬時に移動するとは、想定外でしたよ。」
それを聞いたワトソンたちは、唖然とした表情を浮かべるばかり。
当の本人はというと、見破られた事に対して、何の気もないという感じだ。
それよりも、今、この目の前にある標的が大事というところか。
「警備をお前達3人だけにするというのは、なかなかの名案だったな。
しかし、もうこの作品は私の手中に落ちたようなものだ。」
ここまで簡単に入り込んだ彼のことだ。
絵画を手にして、逃げるなんてことは造作もなくやってのける
自信があるのだろう。
圧倒的に、相手の方が優位な状況だ。
「残念ながら、そう予告通りにはいきませんよ。」
犯人の目が、ホームズに向けられる。
「この絵は、あなたが狙っているものではありません。
一歩先に、精巧な偽者と交換しておきました。
これをお持ち頂いても結構ですが、果たしてご満足頂けますかな?」