まず口火を切るのはやはりローラで、日本の「忠臣蔵」を取り上げて愛のタメに復讐するコトを賞賛します。
これは反対論も当然在るべき議論で、吉良さんの様な人々は現在でも多く居るので、果たして吉良義景は撃ち取られるべきだったのかは、日中で議論が別れる処です。
中国では伝統的に権力を養護する風潮が強く、「永いモノに巻かれる」のが美徳とされていますが、こうした「封建的な因習」は共産主義革命によって一旦否定されたので、その辺の議論は曖昧模糊な闇に沈み込み、一般人が再びそれを議論するコトは許されていません。
なのでこの議題は、党と人民の代表による公開討論会では避けて通れず、ここでも経験豊富な徳流河(ドゥルーガ)が議論の先頭に立って「愛のタメに復讐するコトは肯定できるが、中国共産党が日本やアメリカに対して抱いている復讐心は肯定できない」と具体的に論じます。
そもそも中国共産党が国民党に勝てたのは、軍国主義日本を上手く利用したからであって、建国後も日本との関係を良好に保って資金や技術の援助を受けられたからこそ、中国はここまで発展できたのだと論じます。
アメリカとの関係については、確かにアメリカも覇権主義的な傾向を持っているので、それに中国が対抗するのは必然的です。
しかし、アメリカの覇権主義はせいぜいが行きすぎた正義感からのモノで、それは「民主主義の暴走」とも取れますが、「権威主義の暴走」とはまるで違うとします。
これについては、現在ますます混迷の度合いを増している中東情勢が例に挙げられ(物語では近い過去の話)、一応民主主義国とされるイスラエルと権威主義国イランとの争いにアメリカは介入していますが、全米の大学では反戦運動が盛り上がりました。
これはウクライナとロシアの戦争に介入した時には起きなかった運動で、イスラエルがパレスチナに対して行って来たアパルトヘイト政策がその原因と言えますが、アメリカ南部には未だに「十字軍」の頃の様な価値観を持つキリスト教原理主義者も多く居り、ブッシュやトランプの保守党はそんな人達を票田にしているので、アメリカの民主主義は暴走する危険性を孕んでいると言えます。
党の代表は当然、そうした民主主義の危うさを突いて、一貫した権威主義を肯定しますが、ルーガはむしろ不安定だからこそ民主主義には成長する可能性が有るとします。
これは中東和平に貢献したシャローム教授の意見を借りて、「復讐と愛を混同するコトでずっと続いて来た戦争は、いつか必ず真の愛によって和解する日を迎えるだろう」と結論します。
その時に復讐心は「愛の許し」へと変わり、人類は古(いにしえ)から伝わる「神の教え」を再び理解するようになります。
更にルーガは神の教えについて、狭い地球だけでなく広い宇宙にも、同じ「愛の許し」を説く神が偏在しているコトを人類が理解する日は来るだろうと予言します。