西湘日記2

気候温暖、風光明媚、自然に恵まれた西湘地域に住む夫婦2人の気ままなブログ。お気軽にお立ち寄りください。

2、3回遊んだだけの男の子

2023-04-17 13:37:17 | 思い出

妻です。

お立ち寄りくださり、どうもありがとうございます。

 

小学校1年のころ、同じクラスに勉強をとても苦手にしている男の子がいました。

授業中は先生に当てられないように、いつも体を小さくしています。

どの教科でも、指名されてもほとんど答えられなくて、「わかりません」の声もほとんど聞こえないくらい。

そういう感じでしたので、男の子はクラスの中でも【ちょっと変わった子】という位置づけでした。

 

ある日の給食は、もう何の日だったか覚えていませんが、カップに入ったケーキがついていました。

白いクリームの載ったケーキに、クラスメイトたちは大喜び。

わたしも、最後まで大事にとっておいたケーキを食べ終えて大満足でした。

 

ふと気づくと、あの男の子の席の周りに何人かの子たちが集まっています。

「なんで食べないの?」

「いらないなら、ちょーだい」

すきまから見えたのは、ケーキに手をつけず、まるで授業中のときのように小さくなっている姿でした。

気になった先生がやってきて話を聞くと、「今までケーキを食べたことがないから、どんなものか、わからなくて食べられない」。

事情を知ったクラスメイトたちは一斉に驚きの声を上げました。

 

わたしは家に帰るといつもどおり、学校であったことを母に話します。

ケーキを食べられなかった子のことを話すと、母は泣いていました。

 

しばらく経った休日。

川沿いの原っぱで母とバドミントンで遊んでいると、近所に住んでいた、あの男の子が偶然やってくるのが見えました。

「お母さん、ほら、あの子だよ。ケーキの・・」

こそっと教えると、母はわたしに前もって相談することなく、いきなり

「ねえ、いっしょに遊ぼう!」

男の子に向かって叫びました。

(ええーっ⁉)

とつぜんのことにびっくりしていると、男の子はうれしそうに近づいてきました。

そのあと、バドミントンをしたり、鬼ごっこなんかをしたりして、しばらくいっしょにあそびました。

楽しかったものの、わたしは(こんなところ、同じクラスの子に見られたらどうしよう)と気が気ではありませんでした。

同じクラスの男の子と、しかもこの子と遊んでいたなんて知られたら、何て言ってからかわれるか、

わかったもんじゃありません。

ちらちらと川の向こうの道路に目をやり、知り合いが来ないことを祈りました。

 

一方、男の子はそんなこと全然気にしていないようでした。

男の子は原っぱを転がるように駆け回って、学校では見たことがないようないっぱいの笑顔で、聞いたことがないくらい大きい声でゲラゲラ笑っていました。

ほんとうに、ほんとうに楽しそうでした。

 

その後もこうやって、母と3人で、1、2回遊んだような記憶があります。

その都度わたしは人目が気になってしようがなかったのです。

(あー、あと何回、こんなドキドキ、続くんだろうなあ)と少し困っていました。

 

その日教室に配られたテストは、ちょっと変わった問題ばかりでした。

『同じなかまのものはどれですか?』のような、勉強というよりクイズみたいなもの。

このテストの点数は何日待っても教えてもらえず、ヘンだなあと思っていました(あとからわかったのですが、このテストはIQを調べる知能テストでした)。

 

それからしばらくすると、あの男の子は、クラスからいなくなりました。

わたしたちがいる、同い年の子たちばかりいるクラスでなく、いろんな年齢の子がいっしょのクラスに入ることになったのだそう。

 

家に帰ってさっそくそのことを母に話すと、母はまた泣きました。

 

学年が上になっていく中、休み時間などに、男の子の姿を見る機会が何度かありました。

彼は低学年の子たちの面倒をよく見ているようです。

 

休み時間。校庭のはしの鉄棒で前回りをしていると、不自由そうに動く下級生に手を貸している彼が見えました。

(あ、やさしい・・)

鉄棒の棒はちょっとサビていて、にぎって回すとザラザラします。

先生に交じってやさしい顔で下級生の世話をする彼と、人目ばかり気にしていた自分・・。

手のひらには鉄棒のザラザラ感、そして独特の鉄のにおい・・。

転んだ子のひざを払ってやっている彼の姿。

ザラザラ、ザラザラ・・。

 

わたしは小学校5年の終わりに転校するのですが、それまでの間、わたしは何度か彼の姿を見かけました。

 

でも・・彼と言葉を交わすことも、目が合うことも、二度とありませんでした。

そうして・・太陽の下、元気いっぱい、ゲラゲラ大きな声で笑っていた彼の顔を見ることも、もう二度とありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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