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365 photo diary

写真って、その瞬間の想いを伝えるもの。
見返したときに撮った瞬間が蘇るような、そんな写真を撮っていきたい

姫君 ~山田詠美

2010-07-09 00:00:15 | 読書感想文
山田詠美さんの作品を読んでいて感じるのは、どうして同じ人が書いているのにこんなにも違う調子の小説が書けるのか、という驚きです。
世の中に物書きさんは沢山いますが、多くの人は自分の持っている軸から抜け出せず、どの本でも基本的な思考の軸は一致しているように思います。言い換えれば、物事の切り取り方、視線の向け方が共通しているということです。もちろんこれは賞賛すべきことでしょう。自分の軸を持ってその軸を論理的に構成できる素養がある物書きさんは尊敬に値します。私も基本的にはこのように自分の軸を持って物事に接していきたいと思っているし、このブログでもそれを意識して書いていたりします。

しかし山田詠美さんはどこか違うような気がしてしまうのです。言葉を換えると、実に「危なっかしい」。どうなるかわからない。安心感がない。安定していない。
しかしよく考えてみるとこの構図は一変します。言うなれば、山田詠美さんは危なっかしくても、破綻はしていないのではないでしょうか。破綻の一歩手前で留まる。だから読み手としては安心して読める。危なっかしいのに安定している。そこに魅力を感じるのかもしれません。

この「姫君」という作品は「 無銭優雅 ~山田詠美 」に出てくるような少女漫画のようでありながら、「」が描写されています。また、「 セイフティボックス ~山田詠美 」で感じられるような、「人と人との関係性」が丹念に描かれます。この作品は人によって好き嫌いが分かれるかもしれません。私はというと、めちゃくちゃ好き、です!


この本の作品中には度々対立した言葉が並列に並べられます。

ぼくに関して詳しいのは彼女だけだ。けれども、それは、彼女がぼくを知っているのとは違う。彼女は、ぼくを知ろうと思わないからこそ、詳しくなれるのだ。ただぼくがそこにいるということに関して。

[ 山田詠美 『姫君』 MENU ]

私もこのような思いを持ったことがあります。私のことを真摯に知ろうとしてくれるとても優しい方、そんな方に限って私のことは全くわかってくれませんでした。そういう方の多くは、自分の中で何らかしらの「イメージ」や「常識」や「普通」や「過去の男性像」を持っているらしく、どうやらそのイメージ内の人と付き合っているのではないか、と感じさせるような行動を取るばかりで、決して現実の私を見てくれることはありませんでした。
私は、相手を知ろうとするのではなく、感じようと努力しています。その分相当な期間が経たないと「どんな人?」と聞かれたとき答えられませんが、常にアメーバのように変化する感じで相手を捉えようとしています。それはきっと私自身、他人とのコミュニケーション能力が低いためこういう方法を取らざるを得ないからでしょうが(^^;


「ぼくにとって、人生を狂わせた人は、今までで四人いる。誰だか当ててごらん」
「うーん、まず空でしょ?そして、お母様、あとの二人は解んない」
「ぼくの両親」
「おじいちゃんたちが、おとうに何をしたって言うの?」
「ぼくを作った」

[ 山田詠美 『姫君』 シャンプー ]

シャンプーという作品中で、お父さんとその娘(空)との会話です。人生は最初から狂ってる。狂ってるものを無理に安定させようとすると余計に狂う。狂ってるなら、その状態を受け入れ、その中で生きるのが実はもっとも安定しているのではないか、とも受け取れます。最初から狂ってるんだから、余程のことが起こったとしても寛容になれそうです。

わたくしは、もうとうに、自分が弱虫であるのに気づいている。支配することを目論む者は、いつだって、それを隠しているものだ。隠し切れなくなった時に、側に残ってくれる人。その人が一番、怖い。愛していた筈の孤独をあっと言う間に無意味に変えるその人が。

[ 山田詠美 『姫君』 姫君 ]

自分が支配していると思っても、実は相手に支配されているだけかもしれない。支配する、されるという関係が続いている内はいいかもしれないが、その精神的な、概念的な「一線」を越えた瞬間、お互いの本当の思いが試されるでしょう。支配するにしても、されるにしても、お互いに役割と責任があり、それは着ぐるみを被っている状態とも言えそうです。そのファスナーを下ろした瞬間、残るのは何でしょうか。

本当は、支配されるのも支配するのも、同じなのかもしれない。支配していると思い込む事。支配されていると思い込む事。それらは完璧に意味を失い、ただそこに残った愛情を、人がどう料理するのか。大事なのはそれだけなのかもしれない。

[ 山田詠美 『姫君』 解説(金原ひとみ) ]


カオスであることは実は生命が自然界を生き延びるために進化の過程で獲得した戦略ではないでしょうか。遺伝子には最初から不確実性が組み込まれているといいます。そうであれば、不確実であること、カオスであることが実は最も安定した状態であり、それを無理やり「人間の価値観によって勝手に決められた安定」という名の幻想に押し込むことで逆に秩序が乱れていくのかな、なんて感じさせられます。


最後に、「検温」という作品に出てきた台詞で、良く解らなかった台詞を。まだまだ私も経験不足ですね。

あの人と出会ってから、私は、ずうっと、死を隠し持っているのです。あなたもそうしてみたらよろしいわ。そういう女を男の人は、決して捨てないのですよ

[ 山田詠美 『姫君』 検温 ]

姫君 (文春文庫)/山田 詠美
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■山田詠美シリーズ
シュガー&スパイス ~風味絶佳
Make Me Sick ~山田詠美
快楽の動詞 ~山田詠美
120%COOOL ~山田詠美
マグネット ~山田詠美
無銭優雅 ~山田詠美
セイフティボックス ~山田詠美
4U ~山田詠美
姫君 ~山田詠美
放課後の音符 ~山田詠美
ぼくは勉強ができない ~山田詠美
ひざまずいて足をお舐め ~山田詠美
ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー ~山田詠美
PAY DAY!!! ~山田詠美





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1 コメント

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BRAVO (セラピスト優)
2011-04-22 08:59:21
EXCEPTIONALLY BRILLIANT,my darling(・∀・)
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