Re-Set by yoshioka ko

■「拉北者たちの沈黙」 第五回

 日本の場合、拉致問題を解決するために北朝鮮の経済を支援をする、という理由は国民の信を得なかった。だが、今日の新聞を読むと、韓国ではそんな提案を考えているらしい。

《以下引用》
 「韓国の李鍾ソク(イ・ジョンソク)統一相は17日、国会統一外交通商委員会で、今月21日から平壌で開かれる第18回南北閣僚級会談で、大規模な経済支援と引き換えに、韓国人拉致問題などの解決を北朝鮮側に迫っていく方針を明らかにした。李統一相は、南北間の人道上の懸案事項として拉致被害者や朝鮮戦争時の韓国軍捕虜計約1000人の帰還と、南北離散家族の再会を挙げた上で、「特に拉致被害者問題を解決するため果敢な経済支援方式を提案する考えだ」と言明。さらに「目標は拉致被害者の生死を確認し連れ帰ること」とし、北朝鮮が反発しないよう「体面を傷つけないようにする」と強調した」(4月17日『読売新聞』)《引用ここまで》

 記事から推測できることは、いまの韓国政府にとっては、どうしても北朝鮮とは一戦を交えたくない、ということなのだろう。深読みすれば南北の統一こそが、冷戦が始まってから起きたさまざまな問題を解決する、という信念が根本にあるからだろうと思う。その妥協的な提案とも受け取れる。

 しかし国民の目線に立って考えれば、不法な行為によって犠牲となった自国民救済のために、なぜ国民の税金を使ってまでして、相手に経済支援を与えなければならないのか、という疑問が当然湧いてくる。

 拉致被害にあった当事者家族や遺族からみれば、なんでもいいから早くして欲しい、時間がないんだ、という思いだろう。

 韓国・統一相の今日の発言が今後どのような方向に向かうのか、じっくり見てみたいと思う。それは日本政府の拉致問題解決に向けた施策に影響するに違いないからだ。
 
 『拉北者たちの沈黙』第5回目の今日は、機能に続いて元北朝鮮中央放送記者の張海星(チャン・ヘソン)氏が語る拉致の実態とその目的である。

□諸刃の「刃」
 DMZを挟んで敵対してきたふたつの国家。かつて南の権力者もひとり独裁という牙城に身を置いて、如何に権力を温存し拡大するか、に腐心してきた。そのとき北の権力者にとってその答えのひとつが韓国人の拉致という犯罪ではなかったか。

 「金日成・金正日父子政権の基本的な統一戦略は、南を赤化して北方分界線を済州島の先端まで押そうというものです。この目的のためには北朝鮮のスパイを送り込むよりは韓国人を拉致して教育し、価値ある人物を今度はスパイに仕立て上げて送り返すわけです。スパイとして役立つ人物は数10人にひとりに過ぎませんから、たくさんの韓国人を拉致する必要があったわけです」

 それが486人にも上った韓国人拉致事件だった。そして日本人拉致も同じ考えの上で行われた、と張海星氏はいう。
 「日本は韓国にスパイを送り込むための足場でした。日本人になりすませば韓国には自由に入れます。ということで、日本人になりすますための教育を行うには、日本人拉致が必要だったんです」

 韓国人拉致といい、日本人拉致といい、その目的とされた赤化統一路線はいまも生きているのだろうか。
 「変わろうと思っても変われるものではありません。金日成のときに出された北朝鮮の統一案は高麗民主連邦共和国(注⑬)という単一国家です。ひとつの民族、ひとつの国、2つの体制、2つの政府を基本にした統一案です」

 しかし現実には、その後の北朝鮮経済の困窮が少し軌道修正をさせた。
 「最近、北朝鮮は民族共助、という言葉をしきりに使うようになりました。民族共助を通じて南北が力を合わせてアメリカの戦争に反対しよう、とか、日本の圧力に対抗しようなどといってます。これは韓国を自分たちの側に引きずり込んで、米・日・韓の共同体制から韓国を切り離し、そうすることで国際的な孤児状態から抜け出そうという魂胆なんです。しかし本音はいまも赤化統一であることには変わりはありません」

 〈民族共助〉という言葉を私が耳にするようになったのは、アメリカにブッシュ政権が誕生し、〈太陽政策〉を否定、返す刀で北朝鮮に対しては敵対政策を採用し出した時期からだった。このころから韓国では若者たちを中心に〈反米感情〉が高まり、反比例するかのように北朝鮮に対する親密感が増し始めていた。北朝鮮のテレビやラジオ放送は〈民族共助〉という言葉を盛んに使い、若者たちの〈反米感情〉を賛美し、韓国の若者たちは若者たちで〈太陽政策〉も〈民族共助〉もひとつのものとして受け止めた。

 だが北朝鮮にとっても〈太陽政策〉は実は諸刃の刃でもあった。

 「太陽政策が間違っているとは思いません」
 かつて金正日政権宣伝隊のひとりであった元中央放送記者の張海星はいう。

 「北朝鮮の住民はもともと韓国についてなにも知りませんでした。しかし太陽政策のお陰で韓国から米が入り、肥料が入り、金剛山ツアー(注⑭)が始まったり、というなかで、韓国には乞食がうじゃうじゃいる貧しい国だと思いこんでいたが全く違うんだと思い知らされたのです。私も北朝鮮にいたとき韓国の米を初めて食べました。本当にうまかったですよ。35年生きてきたなかであんなにおいしい米は食べたことがありませんでした。みんな最高の品々です。録音機や家電製品もすばらしい。こういうものを通じて韓国は本当に豊かなのに、なぜわれわれはこんなに貧しいのか、と反金正日感情が生まれるんです。太陽政策はこういう面では成功したといえるんです」

 その一方、ものや資金の流入は金正日政権の独裁制をさらに強固にし、体制を生き延びさせることにもつながる。どちらに力点があるのか、〈太陽政策〉はそういう意味で諸刃の刃なのである。(第6回に続く)

(注⑬)高麗民主連邦共和国・・・1980年10月、朝鮮労働党の第6回大会において採択された統一案。この共和国創設法案には南北間の経済や文化、それに教育、交通、通信、民族連合軍の組織など10の施政方針が述べられている。

(注⑭)金剛山ツアー・・・1998年、韓国の現代グループと北朝鮮のアジア太平洋平和委員会が取り決めた合意に基づいて進められてきた。韓国側からはこれまで43万人が金剛山観光に訪れ、南北和解に役立つと期待されている。
 

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