冬桃ブログ

転んでも転んでも

 情けないことだが、私は幾つになろうと、強く賢い
大人にはなれない。何の後ろ盾もない後期高齢者という
社会的弱者のくせして、嫌いな相手には嫌いな態度しかできず、
ついには喧嘩腰になってしまい、あげく、鼻であしらわれる。

 そんな状況の中、重いカートを引きずって
横浜からS村へと出発した。長い列車の一人旅ではあるが、
それはそれとして心弾む数時間になるはずだったのだ。
 ところが頭の中は、いま勝てない喧嘩をしてきたばかりの
相手に、投げつけることができなかった悪態でいっぱい。

 それがいけなかったのだろう。
 人を呪わば穴二つ、という諺もある。

 新幹線に乗るため新横浜を目指しているつもりの地下鉄が
反対方向へ向かっている。もはや三駅も過ぎているではないか!
 生きた心地もなく次の駅で降り、乗り換えて引き返す。
 早めに出てきたはずが、際どいすれすれ。

 それでも間にあって良かったと安堵したのもつかの間。
 次の列車に乗り換える段になってホームを間違え、
またもやすれすれで駆け込み(ああ、今年の2月にも
似た光景が)……したはいいが、車内へ足を踏み入れたとたん、
自分のカートにつまずき、激しく転倒。
 痛いやら恥ずかしいやらで、早く起き上がりたいのに、
カートに手や足を取られ、無様にもがくばかり。
 そんな私に、誰一人、声もかけてくれない。
 その車両には私以外、誰も乗っていなかったのだ。
(特急だけど自由席なのに)

 なんとか起き上がって席に腰かけ、無事に列車には
乗れたけど、こんな有様で、と2時間15分後に
降車駅へ迎えに来てくれる人にラインを送った。
 慰めと励ましの言葉を期待したのだが「既読」が
ついただけで返事はなかった。
 
 目的の駅に降り立ったのは夜もどっぷりと更けた頃。
 誰も恨むまいと、我ながらけなげな笑顔をつくり、
S村の「行く春滞在」をスタートさせた。

 アケビの花。


 かなり強烈な転倒だったにも関わらず、
翌日からよく動いた。これまで私の持ち分は花畑のみ。
 畑は雑草刈りくらいの「猫の手」作業だったが、
この回から農作業に参加させてもらえる。
 畑の一画に、老ドラゴンが私の畝をこしらえてくれた。
 そこに自分で選んだ作物、ツルムラサキとコカブの
種を蒔く。ときめきの農婦デビューである。
 もちろんこれまでどおり掃除、洗濯、料理と
家事も頑張る。あの「転倒」によるダメージはなかったのか、
と思うほどの、言い換えれば、あり得ないスタートだった。

 が、昨日、フキ畑で鎌をふるい、シャワーで汗を流し、
いざ浴室を出ようとする際、それは起きた。
 足が床を滑り、頭を含めて全身打撲、という転倒に見舞われたのだ。
 咄嗟に掴んだドアの取っ手が音をたててはずれ、
引けども押せどもドアが開かない、という状況に
陥った顛末は、もう恐ろし過ぎて書けない。
 にも拘わらずその後、普通に自分の仕事を続け、今日になって
温泉施設の整体に行ったが、ちゃんと食事の支度をし、
いつもどおり夕食をつくって美味しくいただいた。
 
 頭には瘤、あちこちに痣で、「普通」なわけがない。
 私は鍛えたアスリートなんぞではなく、
若いころから自他ともに認める虚弱だった。
 要するに歳のせいで結果が出るのが遅いのだ。
 前にもこういうことがあったのを思い出す。
 「その時」を待つ時間はなかなかのサスペンス……
なんてことを言ってる場合ではないだろう。
 きっと来る、必ず来る、すぐに来るのだ、その時が。
 そして私は、いやおうなく「現実」に放り込まれる。
 愛と健康と穏やかな日々……素朴な願いではあるが、
これほど得難い夢もないのだろう。

 刈り取った雑草の捨場に、忽然と咲いた一凛の花。

 

 

 

 
 

 

 
 
 

コメント一覧

yokohamaneko
酔華さん

 高齢者にとって転ぶほど危ないことはない、
と日頃から自分に言い聞かせているのに、そして
気を付けているつもりなのに、やっぱり転ぶのですよねえ。
 まあお互い、今後は「より気を付けましょう」と肝に
命じましょう。
酔華
先日、私も同じような目に遭いました。
短時間のうちに2度も転んでしまったのです。
なんたって高齢者ですからね。
お互い、もっともっと気をつけましょう。
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