冬桃ブログ

「動けねえだよ!」

 今日は週に一度の心身障害者就労支援施設「てふてふ」。
 
 路上生活の人達に分ける洗剤を、小さな紙袋(これも、てふてふの手作り)
に少しずつ詰める作業。


 朝、九時過ぎに行き、ラジオ体操、掃除、作業をして
4時半に終わる。
 「お疲れ様!」と言い合って別れ、外の通りを向こうに渡ると、
おじさんが一人、ぺたりと地面に坐っていた。
 足を前に出し、手で必死に地面を押し、前に進もうとしている。

 なにせ目の前がドヤ街のコトブキだから、座り込んでるどころか、
倒れ込んでる人も珍しくはない。
 以前、NPOさなぎ達の山中理事長と一緒に歩いてたら、
コンビニの前に男性が横たわっていた。
「先生、人が倒れてます!」
 びっくりして、私がそう言うと、先生はどれどれと顔を覗き込み、
「ああ、このままにしといていいよ、これは」
 理事長はドヤの人々を主に診ている医者だから、
顔色を見ただけでわかるようだ。

 妙な姿勢で前へ進もうとしているこのおじさんも
一目見てコトブキの人だとわかった。
 通りすがりの人も知らんぷりしている。
 でも私は医者じゃないし、まんざらの通りすがりでもないから
「大丈夫ですか?」と、声をかけずにはいられなかった。

 「足と腰が痛えだよ。歩けねえだよ!」
 おじさんは顔を上げ、切ない声で言った。
 ほんとに、立つこともできないようだ。
「うちはどこですか?」
「あっち……だと思う」
 おじさんは、弱々しくコトブキの方を指さす。
「支えたら歩ける?」
「駄目だよ、救急車を呼んでくれ」
「病気?」
「酒、飲んだだよ」
 泣きそうな顔で、おじさんは訴える。
「いっぱい飲んだの?」
「ンだ。全部飲んだだよ」
 今日は生活保護の支給日。それで飲んだのだろうか。
 
 ちょうど「てふてふ」から、女性スタッフのマキタさんが出てきた。
 大きな声で呼ぶと、駆けてきてくれた。
 男性スタッフのヒラヤマさんもやってきた。
 いろいろ尋ねてみると、おじさんは生活保護ではなく年金生活だという。
 「てふてふ」よりもう少し関内駅寄りの、昼間からやってるような
居酒屋で飲み、足腰が立たなくなった。
 それでこの姿勢のまま、ここまでずりずりと身体を運んできたらしい。

 ろれつはちゃんと回っている。けど、どこか身体が悪いようだ。
 どこのドヤにいるのか、そのドヤがコトブキのどのあたりにあるのか
尋ねても「わかんねえだよ」と悲しげに言うばかり。
 しかし、お酒を飲んでのことだから、救急車を呼んだら叱られそうだ。
 ひたすら飲んで、御飯はもう三日も食べてないと言う。

 さあ、困った。どうすればいいのか。
 が、うち(NPOさなぎ達)にはプロがいる。
 「さなぎの家」の池田さんを呼んだ。

 駆けつけた池田さんは、おじさんの前にしゃがみ、
「相談員の池田と申します。どうされましたか?」
 と、穏やかに尋ねる。
 彼のたくみな誘導で、おじさんはようやく自分の名前を思い出した。
 でも、住まいがわからない。
 警察を呼ぶしかないのかな、と思った時、池田さんが立ち上がって言った。
「大丈夫、連れてってあげますよ。ちょっと待ってくださいね」
 「さなぎの家」へとってかえし、車椅子を持ってきた。
 よっこらしょと、おじさんを抱き上げ、それに乗せた。
 そしてコトブキの方へと、静かに押していった。
 おそらく池田さんには、おじさんのドヤを見つけ出す
ノウハウがあるのだろう。

 ドヤ街の人間って、やっぱり飲んだくれや落ちこぼれ
ばかりじゃないか、駄目人間の集団じゃないか……と
思われるかもしれない。
 そうかもしれないが、ここには、どうしようもない
事情を抱えて流れてきた人がたくさんいる。
 生活保護を不正受給して遊んで暮らす輩も、中には
いるだろうが、こうなるしかなかったんだろうな、
という人の方が多い。
 もちろん一人一人訊いて回ったわけではないが、
何年かこの町に通っていると、そう思わざるをえない。
 世の中にはあるのだ、どうしようもない事情というのが。

 人間は「居場所」がないと生きていけない。
 物理的にではなく、精神的に。
 どうしようもない事情の人が、流れ着く場があって良かったと思う。

 NPOさなぎ達のキャッチフレーズは「誰もひとりぼっちにしない」である。
 傷ついた孤独な人達を、さらに孤独にしないよう、スタッフ達は
とてもプロフェッショナルな仕事をしている。
 でも、(おそらく)安月給だし、世間の脚光を浴びることもない。

 だけど、見てるからね、ちゃんと見てるからね、
せめて、私だけでも。

 おじさんを車椅子に乗せ、コトブキへ向かう池田さん。

 
 
 
 

コメント一覧

冬桃
大丈夫
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
おでさん
 いつもありがとうございます。

「その場所が、もっと暖かく、安全で心安らぐところになれないものか・・・。」

 はい、そうなるよう、日々、努力し、サポートしている
人達もこの町にはたくさん居ます。
 私もここへ通うことで、いろんな人に支えられています。
 「誰もひとりぼっちにしない」というキャッチフレーズは
NPO,、コトブキの人達、両方から発しあっているのかもしれません。
おで
http://odesamaryu.exblog.jp/
安月給で世間の脚光を浴びることもない・・・からこそ「おじさん」やドヤの人たちに寄り添えるのかもしれない・・・と思うと、なんだか胸が一杯になりました。
そこに来るしかなかった人々の「のっぴきならない事情」には、おでなどには思いもよらない深いものがあるのだと思いますが、それでも、その場所が、もっと暖かく、安全で心安らぐところになれないものか・・・しかしきっと、それは、たぶん無理なのですね。
どんな国のどんな社会にもドヤのような場所、居場所を求めてそこへ流れ着くような「場所」が必要なのだろうと思いました。であればそれは、自分と無関係ではなく、同じ社会の輪の中でしっかりとつながっている事を認識しなくてはならないと感じています。
冬桃さんのブログで、いつもいろいろ拝読させて頂き、ありがたく思っています。
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