内容をざっとまとめると……。
東京都港区のマンションで一人暮らしをしている女性が、夜中の１時頃、
トイレに入った。戸は閉めていなかったのだが、トイレの前に置いてあった
「こたつセット」の箱がなにかの拍子に倒れ、閉まった状態になってしまった。
そして、びくとも動かなくなった。
マンションだからトイレに窓はない。叩けど叫べど誰にも気づいてもらえず、
８日間も、トイレの水を飲みパジャマだけの薄着で閉じ込められていた。
この女性、偶然にも私と同い年、同じ名前。
それは関係ないとしても、事件そのものは私にとって他人事ではない。
私も一人暮らしをいいことにトイレの戸は閉めないが、その最中に地震が起きて
戸が勝手に閉まり、ついでに立て付けがおかしくなって開かなくなる、という自体
は充分考えられる。そうなるとほんとに絶望的だ。
この女性は寒さに震え、飢えながらも８日間もちこたえ、無事に発見されたが、
じつにラッキーだったと言えるだろう。
できることなら孤独死は避けたい。人はいつか死ぬのだから「死」自体は怖くない。
むしろいつまでも生きてることの方が怖い。ただ、こんな絶望的な状況で
じわじわと死に近づいていくのは恐ろしい。拷問でしょ、これは。
孤独死して何日も気づかれず、猫二匹が飢えるのも辛い。異臭を放って隣近所に
迷惑をかけるのもいやだ。
そんなことを言うと、「付き合いが多いんだから、そんな心配はないでしょ」と、
たいていの人は一蹴する。でも私は人が思うほど社交的ではないし、肉親を含め、
常時、連絡を取り合うほど密度の濃い付き合いをしている人などいない。
それに、たくさんの知人友人がいたはずの大原麗子さんや飯島愛さんでさえ、
発見されたのは亡くなってから何日も後ではないか。
締め切りを過ぎても原稿が来ないとか、会議などに無断欠席するとかで、
仕事の関係者が気づいてくれるでしょう、とも言われるが、これに関しては先日、
同業の物書きからショッキングな話を聞いた。
彼女はメールの「下書き」フォルダに、出したはずの「送信・返信」メールが
大量に溜まっていることに先日、気づいたそうだ。
中には仕事の依頼や、講演の確認メールもあったそうで、彼女はあわてて先方に
連絡した。すると先方は「お返事がなかったので、仕事は受けていただけないもの
と判断して」とか「おいでにならなかったので、なにか都合が悪くなったのだと
思って」と答えたそうだ。
メールなんて、家でパソコンを空けたときしか見ないし、パソコンの故障で
見たくても見られないと言うこともある。返事がなければ電話で確認するべきだと
思うのだが、それをしてくれないケースも増えている。
ファックス、メール、携帯電話など、コミュニケーションの手段は近年増えた。
しかし手段はあっても、人の繋がりそのものは薄くなっているような気がする。
前記の、トイレに閉じ込められた女性のケースだが、マンションの郵便受け
から新聞が溢れているのに、管理人さんも隣の住人も「気がつかなかった」そうだ。
うちのマンションも危ない。私の隣の部屋はずっと空いてるのだが、国勢調査の
記入紙が、何日もドアのところに挟んであった。
ある日、廊下で管理人さんに会ったので、「この部屋、空き部屋だけど家主さんが
いるんでしょ？ この紙はそちらに渡してあげたほうがいいんじゃないですか」
と言った。
すると管理人さんは「あ、この部屋、誰もいないんですか」と、驚いていた。
個人情報にやかましい時代とはいえ、必要な情報は知っておいてもらいたいものだ。
ともあれ私には、「うちの郵便受けが溢れてたら、異変がないかどうか確かめて
いただけませんか」と、管理人さんに頼んでおくくらいしか、いまできることはない。
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冬桃
ひー
