あらゆる方面で活躍された嶋田昌子さん。
私にとっては横浜学の師匠であり、市民活動などの
イベントでご一緒させていただいた仲間でもあった。
なにより、とても頼りになる人生の先輩だった。
訊けば何でも教えてくださった。
リーダーシップに長けていたことは言うまでもない。
あるとき、市民イベントの打ち合わせで、会場を
運営する側の人から、あまりにも理不尽なことを言われた。
時として瞬間湯沸かし器になってしまう私は、
思わず身を乗り出した。
「ここでぜひ開催してほしいとおっしゃったのは
あなたのほうでしょ?!」
私の口からいま飛び出そうとしていたその言葉を、
「〇〇さん」と、その腹立たしい相手に、いとも
やわらかく呼びかける嶋田さんの声が遮った。
横にいる私のただならぬ気配に、彼女は気づいたのだ。
「〇〇さん、ありがとう。あなたいま、とっても
大事なことを言ってくださったわ。そう、ほんとにそれは
大事なことですよね。ねえ、皆さん、そこのところをこれから
ちゃんと気をつけてやっていきましょうね」
彼女は私たちイベント・メンバーにも穏やかな笑顔を向け、
〇〇さんの顔を充分に立てながら、私の怒りや仲間の戸惑いを
瞬時に収めたのだ。
何をするにも、嶋田さんが一緒だと安心した。
誰もがそうだったと思う。
妙に気が強いくせに自己肯定感が低い私は
ちょっとしたことでめげてしまい、前に進む気力を失ってしまう。
そんな私を、「可哀そうにね。もうちょっと大人になった方が
人生、楽なのよ」という、やさしさと揶揄の入り混じった眼差しで、
見ていてくださったように思う。
目標にしたかったが、そうするにはあまりにも大きな存在だった。
今日、葬儀場に足を踏み入れたとたん、つけていた
真珠のネックレスがなんの前触れもなく切れて落ちた。
「私がいなくなって、あなた、心細いんでしょ?
いつまでも甘ったれてないの。しっかりしなさい!」
嶋田さんにそう叱られたような気がした。
私はどこまでもこんな人間でしかないけど、
あなたのような方になにかと声を掛けていただき、
仕事や市民イベントや食事をたくさんご一緒させて
いただいたことを、言葉にできないほど感謝しています。
あなたの葬儀に伺って、久しぶりにいろんな方と会いました。
嬉しくて笑顔になりました。
でもこうして一人になると、心細くて寂しくて
涙がとまらないのです。どうかもうちょっとだけ、
甘ったれを許してくださいね。
もうずいぶん前、南区某所で、戦争体験者の方々から
一緒にお話を伺った折のもの。(橋本浩美さん撮影)
