冬桃ブログ

「息もできない」


 観たかった韓国映画「息もできない」が、いつの間にか
DVDで出ていた。うちの近くの「ツタヤ」はしょっちゅう、
並べ方を変えるので、韓国映画の新作がどこにあるのか
しばらくわからなかった。

 監督のヤン・イクチュンは役者だった人らしい。
 監督としては短編映画を二本撮っているようだが、
これが初の長編映画。
 製作、監督、脚本、主演と、大事な役目を一人でこなしている。

 ヤン・イクチュン演じる主人公サンフンは、どうしようもない
駄目男だ。「秋津温泉」の河本は、駄目男のくせに表向きは
いっぱしの社会人面している狡い男だが、サンフンは完全に
社会のゴミ。借金の取り立てをやってるチンピラで、なにかと
いうと暴力を振るう。
 暴力だけで生きてるような男。それを隠そうともしていない。
 かといって、ヤクザであることを誇示してもいない。
 ゴミであることを自覚しながら、ほかにどうしようもないから
こうして日々を生きているだけ。

 そんなサンフンに、平然と突っかかってくる女子高生がいた。
 「なんだこいつ」と思いながらも、その女子高生ヨニと、
なんとなく付き合うようになるサンフン。

 ロマンチックに惹かれあうわけでもないのに、気がつけば、
なぜか運命のように互いがそばにいる……こういう不思議な
関係の男女は同じ韓国のキム・ギドク監督作品にも通じる
ところがある。
 ちょっと、キム・ギドクの「悪い男」を思い出した。
 
 サンフンもヨニも家庭内暴力の中で育っている。
 止むことのない暴力の連鎖が、二人を覆っている。

 韓国映画は、いま邦画など比べものにならないほど素晴らしいと
私は思うのだが、暴力描写の惨さだけは苦手だ。
 この映画はまた、五分とたたずに暴力、また暴力と続くので
本来なら途中で観るのを止めたくなっただろう。

 でもさすが、数々の賞に輝いただけのことはある。
 これだけやりきれない内容なのに、どことなく、ほのぼの感が
漂う。
 見た目も生き方も駄目なサンフンが、だんだん可愛く見えてくる。
 「秋津温泉」と違って、女子高生ヨニの、サンフンを大事に思う
心情が、じつによく理解できるのだ。
 互いに自分の環境を愚痴ったことのない二人が、夜中、河のほとりに
並んで坐っているシーンがある。
 サンフンがいきなりヨニに膝枕をさせる。
 「なによ、いきなり」と、ヨニは女子高生なのに母親のような
微苦笑を浮かべてサンフンを見下ろす。
 サンフンが子供みたいに泣き出す。ヨニもつられて、サンフンの
頭を抱えながら泣き出す。
 どうにもならない現実を、打ち明けあわないまま、二人が
心を通わせる秀逸なシーン。
 観ているこちらも、二人の背中に顔をつけて一緒に泣きたくなる。
 
 そして、救いのないラスト。
 救いがないのに、なぜか救われたような、やさしい気分になる。
 「プレシャス」もそうだったが、映画はやはりこうであってほしいものだ。

「息もできない」公式サイ」
http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/
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