(くんって歳ではないけど)に「届いてる?」と電話した。
Nくんから以前、「俺んとこへは来ないんだよ」という電話があったから。
案の定、住所が変わったりして連絡先がわからなくなったらしく、
彼のところへは届いていなかった。
後日、Nくんからお礼の電話。
「ありがとう。幹事のとこへ電話して、葉書、送ってもらったよ。
おまえ、いいやつだな。ほんと、感謝してるよ」
高校時代の友人達とはなぜかそれほど付き合いがない。
ほんの数人。その中でNくんは唯一、高校時代と同じように「おまえ」と呼んでくれる。
日頃、会ってるわけではないが、時々、思い出したように電話がかかってくる。
16歳の頃と同じ口調、変わらぬやんちゃなキャラクター。
「俺さあ、鬱病になっちゃってさあ、もう孤独で死のうかと思ってんだよ」
なんていう電話があったこともある。
「どうしたのよ。なにがあったの?」
聞けば、なんのことはない。糖尿をはじめとする成人病が幾つかあり
うんざりしたのだとか。
女房と離婚して孤独だと言いながら、愛人が複数いるとか。
あほらしいが、彼の場合はなぜか腹がたたない。
そしてまた本日もまた電話。
「同窓会、楽しみだよな」
「うん……でも、私はちょっと怖いんのよね。なんだか知らない人
ばかりになってるかもって。誰もかまってくれなかったらどうしようかと」
「俺も怖いんだよ」
「ほんとに?」
「そうだよ、いまはこうですって自信を持って言えることなんか
なにもないしさ。おっかなびっくりなんだよ、ほんとは」
そうか、やんちゃなNくんにしてからがそうなのか。
年月は、懐かしさと同時に隔たりや不安も生み出す。
「だけどさあ、会いたいじゃん、昔、好きだった子とかさあ」
「Nくんは○○さんが好きだったよね」
「○○も好きだったけど、本命は△△だったんだよ。あと、初めて
付き合ったのは☆☆だったしさ」
「そんなにたくさん?」
「可愛い子、いっぱいいたからな」
「私は?」
「おまえはまあ、同じクラスにいたってだけだけど」
「え~、私だってあの頃は可愛かったと思うけど……」
「並だったな、並。う~ん、せいぜいおまけして、
寿司で言えば1600円くらいかな」
そうか、そうかい。他の男だったらガシャンと電話を切ってやる
ところだが、なぜかNくんだと一緒になって笑うしかない。
「そういや、おまえ、独りだったよな。寂しいんなら
俺、いま籍空いてるから入れてやってもいいぞ。
愛人はいるけどよ」
やかましい! おおきなお世話だ。
うちの高校は新設校だった。だから同窓会といっても同期会。
それもなぜか30代の終わりという年齢になってから第1回目が開催された。
その後は四年に一度。一回欠席すると、もう疎外感というか
知らない人の中に紛れ込んでしまったような、落ち着かない気分になる。
それは私の性格もあるのだろうが……。
「まあ、心配すんな。会ったらギュッと抱きしめてやるからさ」
陽気な笑い声を残して電話は切れた。
勇気を出して、出席してみるか。
お互い様と思って、老けた顔をさらすか。
どうせあの頃だって「並」だったんだから。
おまけして1600円の頃。
