冬桃ブログ

一日中、古い写真をスキャンしていた……。

 写真をなんとかしなきゃ、と前から思っていた。
 もうかなり前から整理もせず、袋に放り込んだまま。
 まあ、大人になってからの写真なんて、見返すことも
ほとんどない。
 でも子供時代のものは、私にとって貴重品だ。
 写真を撮ってくれるような家族がいない状況だったから、
幼稚園や小学校の集合写真を除けば十枚にも満たない。
 それもだんだん色褪せてくる。
 そうだ、すべての写真をスキャンして、パソコンに
保存しておけば、それで整理もつくのではと思い至った。
 で、今日は一日中、その作業。
 けど、うちのスキャナーはプレビューを出すにもスキャン
するにも、いちいち十秒くらい考え込む。
 思いがけず忍耐を要する仕事となった。

 大きな目で、最初に見た光景はなんだったのだろう。


 少ない……と思っていたのだが、中学、高校
になると修学旅行の写真が意外と多くあった。
 一枚ずつスキャンするのが面倒になり、四枚並べて
一枚にしたりとだんだん手抜きに。
 さらに大人になってからの写真がドサッと出てきてゾッとし、
スキャンするのは二十歳までにしておこうと初心変更。

 19歳の時、何度か顔を合わせてちょっと恋心を抱いて
いた人が、山登りに誘ってくれた。
 彼の友人も一緒に、三人でどこかの低い山に登った。
 私は大喜びで、朝早く起き、彼の分までお握りなんか
こしらえていったのだが、まずはその時点で失敗。
 私が不器用なので、母は料理を一切、手伝わせなかった。
 従って、お握りの作り方さえよくわからず、とろろ昆布を
巻き付けただけの、じつに見場の悪いものしか作れなかった。
 山では、登山中はもちろんのこと、休憩の茶屋があるところ
でさえ、トイレに入れなかった。
 憧れの男性の前でトイレに行くなんて、そんなことは
とてもできなかったのだ。
 当然ながら、もう午前中から苦しくて苦しくて……。
 駅に帰り着いて二人と別れたのは夕方だったが、
途中から口をきくのも辛くなり、私は無言で顔をしかめたまま。
 なんであんな無理をしたのかと、いま思えばばからしいのだが
乙女心というやつだったのだろう。
 ほとんど不機嫌な顔で通した私を、彼は二度と
誘ってはくれなかった。

 山登りの記念。苦しみを隠した笑顔で。


 二十歳の時にはコピーライターになっていたが、
短い文章を書けばいいのよね、というだけの認識で
広告のなんたるかもわかっていなかった。
 大和市の鶴間というところから都心に通っていて、
当時は片道二時間近くかかった。
 体力のない私は、会社に着いた時点で疲労困憊。
 頭も体も使い物にならない。
 おまけに知識がない、気が利かない、従って仕事ができない
と、三拍子揃った役立たずだった。

 書類が積み上がってて、さも仕事をしてる風だが、
じつは疲れて何もできない。いつも、うつろな眼をしていた。


 ある日、こうやって頬杖をついているところへ、
デザイナーが息せき切って駆け寄ってきた。
 いきなり腕を掴み、「早く来て!」とせっつく。
 「どこへいくんですか?」
 「いや、説明してる暇はないんだよ。適当なのが
いるかと思ったらいなくて……」
 なんのことかわからない。
 
 ばたばたと連れ込まれた先は、近くにある銀行の地下だった。
 「ほら、これ着て!」
 その銀行の制服(上着だけ)を渡された。
 「え? これ着てどうするんですか?」
 「いいから、そこに立って!」
 ライトの真ん中に立たされた。 なにこれ。
 ひょっとして広告のモデル?
 ヘアは? メイクは? そんなものない。すっぴん。
 強烈なライトの熱で、汗がだらだら流れる。
 「手をこうして! どうぞっていう感じで!」
 「顔! 顔がおそろかになってるよ。笑顔だよ、笑顔!」

 いまなら、「ちょっと、いったいなんだっていうの?
説明もなしにいきなり人を引っ張り出して、失礼でしょう」
 くらい言えるかもしれないが、なにせこの時は、
仕事のできないコピーライターの卵。
 汗だくで、言われるとおり引きつった笑顔を
浮かべるしかなかった。

 いったいこれを何に使うのかも教えてもらえなかったが
しばらく後、赤坂の交差点にでっかい看板が立ち、
モデルでございといった顔で私が微笑んでいた。
 ライトの他にも、カメラマンやデザイナーが
あれこれ手を入れた結果の写真だと思う。
 

 ここでスキャニングをやめた。
 積み上がっているたくさんの写真を見て、
けっこう長く生きてきたことを思い知った。
 幸せなこともいろいろあったはずなんだけど
いやあ、人生しんどかったのよねえ、けっこう……。
 

コメント一覧

冬桃
あはは!
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
ひーさん

 突発性モデルとか大道女優とか、考えてみれば
私も華麗な過去があるんだわねえ。
 (いまはひたすら加齢だけど)
 大道女優としてのキャリアは10年よ、10年!
 一回だけだけど主役に抜擢されたことだってあるもんね。
ひー
この日記面白いっ
スキャンの話かと思えば青春の思い出の話になってるところが面白い~。
なんか読んでて気づいたらニコニコしてる私。

かわいいなあ~ 乙女心のおとめちゃん。

それにしても立派にモデルじゃないですか!プロフィールに元モデルって書いてもいいと思います!
冬桃
セピアは美人色
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
酔華さん

 セピア色になるとね、写真はみんな美人に見えて
くるんですよ。
 いまのデジカメみたいに、やたらくっきりはっきり
映らないところがミソです。
酔華
すごっ
http://blog.goo.ne.jp/chuka-champ
どの写真もみんなモデルさんみたいですね!
芸能界からスカウトとかなかったんですか。

私も写真を整理しようと思い、
とうとうスキャナーを買いました。
まだ手つかずの状態ですが、
作業が大変そうですね。
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