日常が失われると

　たしかに、わたしとしては張り切りすぎていたかもしれない。
　でも、よく歩くようになったおかげで、体力が増したように思った。
　それで昨年の暮れあたりから、取材を兼ねたボランティア、
習い事、さらにスポーツジムへの入会と、これまでになく
日常を活発にした。
　それでも無理はしていなかったはずだ。

　が、天はいつだって意地悪だ。
　とことん行き詰ると、細い蜘蛛の糸を垂らして
なんとか引き上げてくれもするが、ちょっと調子に乗ると
たちまち梯子を外される。
　まさに、禍福は糾える縄の如し。

　先週、いきなり胃腸がダウンした。
　病院へ行って薬ももらったが、一週間以上たったいまも
まともに食事がとれない。
　公私ともに、珍しく用事がいろいろ入っていたのに
すべてキャンセル。
　どうしても出なければならない用事で
二度外出したが、やはり疲れた。
　あとは、豪華客船やホテルに閉じ込められた人々のニュースを
自宅にこもって見続ける毎日。
　
　私は胃腸のせいで予定が狂い、体力もないがゆえに
ひきこもっているだけだが、あの方たちは、社会から
隔絶されてしまった。
　なにも悪いことなどしていないのに。

　ホテルに隔離されている人たちを励ますため、
勝浦の砂浜に大きな文字が描かれたり、
竹灯篭が灯されたり、和太鼓の演奏があったり
というニュースには感動して涙が出た。
　崎陽軒のシウマイ弁当がダイヤモンド・プリンセスに
4000個差し入れされた、というニュースもあって、
それにも胸が熱くなったが、無事に届いたのかしらん？

　お粥しか食べられない私にも、ある友人が
自家製の梅干し、レトルトのお粥、その他、おなかに
やさしくて日持ちし、簡単に食べられるものを
あれこれと箱に詰めて送ってくれた。
　梅の小枝を添えて。
　ほんとうにありがたかった。
　
　なんでもない日常が戻ったら、これまで以上に
その「なんでもない」ことに感謝して生きなければ。