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三千世界の四次元宇宙

管理人・矢月悠の絵と小説、日々の語り草等々の吹きだまり。基本何でもアリのカオス空間。

ショート。

2008-11-27 03:43:34 | 小説
漏電でもなければケーキでもありません

絵本のストーリーが1本、ようやっと書けたので晒してみます。

絵本は「色」をテーマに赤・青・黄・紫・黒の5編のオムニバスな内容になっており、私が担当するのは赤・黄・紫のストーリー。と、表紙絵…の予定w(表紙絵はまだ話し合っておりませんが^^;(ヲイ))


今回書けたのは「紫」です。


童話‥ではない気がする。



--------------------------------

男は一匹のシカでした。

これがまたムンムンなのか、ものすごくもてたのでした。

シカはハーレムの中で、とても幸せな気分で、毎日を無為に楽しんでいました。






あるとき。浜辺をひとり散歩していたシカは、一匹の娘ジカに出会いました。

沈丁花の香りをまとい、月が渡る夜空のような紫の毛が綺麗な、ほんとうに美しい牝ジカでした。

その艶やかな佇まいに、シカはあっというまに恋におちてしまいました。

早速声をかけます。



「やあ、今晩和」
「今晩和。綺麗な三日月ですわね」
「君ほどの方に誉められる月がうらやましいよ」
「お上手ですね」
「今夜はどちらに」
「特には」
「では僕のところにいらっしゃい。貴女のように美しい娘のひとり身は危ないよ」
「随分、率直なお誘いをなさるんですね。しかし私は戻らねばなりません」



彼女は浜辺の向こうの離れ島に住んでいるシカでした。





それからというもの、彼は夜の君の虜でありました。

海を泳ぐこともいとわず毎日彼女の処へ通い、口説きとおし、添い慕うことこの上もない有様です。

夜の君も最初のうちは惑っていましたが、危険を顧みずやってくる彼の心意気に打たれておりました。

そんな日が繰り返され、三日月もいつの間にやら幾望になった頃のこと。





シカの最近の仕打ちに、ハーレムの牝ジカ達は内心煮えくりかえっておりました。

ほとんどの時を夜の君に費やし、たまに戻ってきても切なげな様子で溜息をつくばかりで、彼女達がどんなに献身しても、むしろ鬱陶しげなのです。

これでは流石に皆やりきれません。

なかでも年長の牝ジカなど、あまりのくやしさに蹄をうち鳴らして地団駄する有様です。

いつもは黒毛の気品に満ちた姿も、今ばかりは土くれに汚れ乱れてしまい、見る者が憐れみさえ抱く程でした。

そんなことなど露知らず、何日かぶりに帰ってきたシカは用意された床に就きました。





そしてその夜、不思議な夢をみたのです。





次の日、頭のいい黒の君に意味を尋ねました。



「これこれこういう夢をみたのだけれど、何か夜の君との意味深なものを感じる。君よ、貴女の深い知識の井戸から答えをさらってくれないか」

黒の君は、それを聞いて激怒しました。

「まぁなんと憎らしい。私たちはいつも貴男を想い焦がれているのに、貴男の心はあの女のことばかり。よくぞぬけぬけと――」

言葉は今にも口から飛び出しそうでしたが後一歩のところで飲み下し、黒の君は精一杯努力して平静を装い、微笑みました。



「貴男様は好き兆しとお考えのようですが、わたくしから診るにこれは凶夢で御座います。ススキは矢、雪は塩という風に、つまり人間に捕まり食卓に供されるという予見でしょう」
「なんと! そのような感はなかったが…」
「もし今後外出なさるならお伴を付き添わせましょう。勝手に出歩いてはなりません…特に、浜辺などは」
「しかしそれでは…」
「黒の君は貴男様を思って言われてるのですよ」

彼女の若い取り巻きは口々にそう言います。皆、黒の君の味方でした。





こうしてシカは牝ジカ達に説き伏せられ、またハーレムの生活に戻ることになりました。

しかし、床の中で見上げる満月に心中そぞろくばかり。

嗚呼、夜の君は、今なにをしているだろう。

会いたい。

恋しい――



――会いたい!





ある晩、シカは供の目を盗んで浜辺に向かいました。

弓張の晩でした。

見上げた月の形にぞくりとするものを覚えつつ、ざぶざぶと波を蹴って水に入り始めたとき。



 ひょん



夜風を裂いて

一本の

矢 が



シカの頭を貫きました。



彼はしんでしまいました。





夢のなかで、男はシカでした。

目を覚ました男は鏡を覗きました。

鏡の中で、男は白髪の老人でした。

広くなったダブルベッドに再び横になりました。



男は、シカをうらやましく思いました。

そしてまた目蓋を閉じます。

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あれほど暗い話はやめろとorz
絵があってこそ伝わる構成にしたかったので、シカが見た夢の描写は省いてます。
まだ書きたてですし変更すると思います。本にしたとき違ってる確率大です^^;アーカイブということ?で。
絵も他の方が描くわけだし。。

しかし。
この話のシカの部分、とある諺のくだりをそのままパクっているのですが…解る方いらっしゃるかな…?
(バレてほしくないけどw

意味は「ものの善し悪しは解釈次第」だそうですが、ネットで調べたところ「気にかかることや心配事が、予想していたとおりになること」という意味もあるそうな。。。随分意味が違うぞ?w

元をたどれば日本書紀の時代の言葉だから、シチュエーションが違うと変わってくるのかもしれませんね。


現在ではどのような意味となるのやら。

少なくとも私には昼ドラ展開しか浮かばなかったYO!\(^o^)/
*お話へのツッコミ大歓迎w

水晶林のソフィアbesonder/Ruβland①

2007-11-28 21:31:37 | 小説
番外/【厳寒白璧】ロシア連邦



《p.m.14:45~》 Погода ――悪天候――


 冷気を帯びた風に吹きちぎられ、白く密度の濃い雲が流れていく。
 驚くほど澄んだ青空は、みるみるうちに湧き出すそれに遮られ、雲の下は昼間にも関わらず薄暗い。しかし、天を打ち破らんばかりにそびえ立つ険しい山脈は、全身に覆った雪化粧にわずか届く陽光を反射させ、雄大な姿を見せていた。
 そんな真っ白な世界を、ガタピシいわせながら動くものがある。銀色に光るワイヤーを伝って、山の斜面沿いに中空を移動する、箱形の物体。なぜ、こんな無粋なモンが人の全く立ち入られない場所で動いてるかって? 
 その理由はただ一つ。俺達四人を、この山頂付近まで連れて行くためだ。
ズガギガシャンッ
「おおっと!」
 ワイヤー中継点を通る度に、ロープウェイは派手な金属音と揺れを与えてくれる。ここまで上ってくる二時間ほどの間にもいくつも体験したのだが、正直、ヒヤヒヤし過ぎて俺の股のアレが縮こまって消えちまいそうだ。
「マジでこのロープウェイ、落ちたりしねぇだろうな」
「大丈夫……だと思うわ。多分だけど」
 ダーリャが、隣に置いたスキー板と登山用リュックを支えながら言う。
「しかし、よくこんなオンボロロープウェイが残ってましたね。人が登らないような所とはいえこれじゃあ、いつ落ちても不思議じゃない。そう思わないか? ペラトン」
「やめろよぉシューラ、縁起でもない」
 外の景色が見渡せるよう、ぐるりとはめ込まれたガラス窓の外を見ようともせず、必至に下を向いて座っているペラトンに、シューラが意地悪そうな笑みを浮かべて話しかける。
「でも、そうじゃないか。乗るときに見ただろ? 軸の部分が随分と錆てた。何とかなるって動かしてるけど、これだけ揺れるんだ。ヒビくらい入ってるよ。まだ一時間くらいは乗ってなくちゃならないのにね」
「お前なぁ、よく冷静にンなこと抜かしてられるな。本当になったらどーすんだよ」
「僕は結構、怖いもの知らずなんですよ。地上数十メートルの高さってだけじゃ、僕はビビりもしませんよ」
「…このイヤミ~…」
 恨めしげにシューラを見上げ、口を尖らせる。いい歳こいた野郎がする仕草なので、可愛らしさのかけらもない。顔の皺具合なんか、マントヒヒそのものだ。
 芝居じみた動作をつけて、シューラがたたみかける。
「ああ‥赤錆の吹いた金具が折れ、傾いたと思った瞬間……
不幸な四人を乗せたリフトは谷底へ真っ逆さま! 岩肌に叩き付けられ、衝撃でぐちゃっ――」
「うるさいうるさいっ!!! 黙れよ馬鹿野郎!」
「あんたがうるさいわよ、ペラトン。シューラも、からかうのやめたらどう? 子供じゃあるまいし」
「はいはい。つい、ね」
 …悪びれた様子は、一欠片もないが。
「さすが元小説家志願者。言葉でいじるか」
「イズブィニーチェ、イアキムさん? 僕は、何度も言いますが――」
「詩人志願、だろ? スキーアスリートで詩人たァ、妙な組み合わせだぜ」
「人にどう思われようがいいんです! アウトドア派のインドアですから」
「何それ~? 矛盾だよ~」
 皆でアハハと笑う。

 俺達は、「カヴァリェリースト」というスキーアスリート集団だ。そこらのスキー場にある踏み固められたような雪に飽きて、本当のパウダースノーを求めて世界中を旅し、制覇していくことが目的である。それでも大体はこの国――ロシア連邦内の山脈で事足りるので、今回は西の国境線付近・ウラル山脈の山頂を、東側から攻略する予定だ。
 そしてそのアスリート集団のリーダーが、この俺イアキム。最年長のシブかっこいいアフリカ系ロシア人だ。(周りの奴等はあんまり俺の魅力に気付かねェみたいだが‥)
 チームの紅一点で、すらりとした金髪碧眼の美人が、ダーリャ。チームのナンバー2で今回の計画の発案者でもある。今俺達の使っている登山ルートを見つけ、教えてくれたのも彼女だ。
んで、シューラは最近入った新人で、そいつにいじられてたのが、俺より一つ年下のペラトン。歳が五つも離れた後輩に舐められるようなヘタレだが、スキーヤーとしての腕は確か。他にも二、三人来る予定だったが、向かう途中でテロに巻き込まれ、大変な怪我を負ったという報せがあった。
 表面上の戦争は終わっても、この世界に心休まる平和な所なんてない。本気で戦火を逃れたいなら、月面都市か火星にでも行くしかないだろう。
 実際、知り合いのアスリート達数人は、すでに火星のロシア統治下のコロニーに移住している。俺達は、地球の雪が好きだから残っている。常に死の危険がつきまとうが。

 窓の外を眺めていると、薄暗い灰色の空にちらちらと粉雪が舞い始めた。
「降ってきたか………」
 外はみるみる暗くなり、雪の量も増していく。この分では、吹雪になるか――



     * * *



「おいドア、早く閉めろッ」
 ピシャッ、とシューラが二重ドアを閉めた。荒れ狂う風音もそれに遮られ、白熱灯のあたたかな光と暖炉の火の弾ける音だけが、心地よく耳に響く。
 俺達は服に付いた雪を払い落とし、部屋に設置してあった防水ソファの硬い生地の上にどっかと腰を下ろした。ロープウェイ降り場から簡易休憩所までの距離はそれほどではないのだが、吹雪の凄まじさは十分に体験できた。
「あったけ~。手の氷が溶けてく感じだぁ」
 ペラトンが、手袋を外し、手を火にかざす。隣で同様に暖をとっているシューラは、
「あの、この休憩所って結構古いよね?」
「んあ? ま、そうだわな。ロープウェイもあんなだし」
「普通なら、人、いないよね。なのに、自動管理機も見あたらないのにこんな火がついてたりするのって、変じゃないか?」
「そうかもね」
 ダーリャが、すとんと同意する。そして、休憩所の奥の部屋へと、ドアをくぐった。
「どこへ行く?」と俺が聞くと、
「トイレよ」とドア越しに返事が返ってきた。
 しばし、小さな部屋に静寂が訪れた。たまに、外の風でカタカタと入口の二重ドアが鳴る。
 その時。
「ぬ~く~い――」ペラトンの間の抜けた声に混じって、
「きゃあぁあ!!」
「――ぬぇっ!?」
 ダーリャの悲鳴だ!
 俺達は、声の聞こえた奥の部屋に急いだ。「どうした、ダーリャ!」
「あ、イアキム」
 ンで、ドアを開けてすぐ出迎えたのは、ダーリャのけろっとした顔だった。その前で、あわてて止まろうとした俺に後の二人が追突し、ドミノよろしくブッ倒れ。
「何してるの?」怪訝そうに見下ろされる。
「‥い、いや、別に……それよりお前、さっきの悲鳴は…?」
「悲鳴? ‥ああ! アレ、違うの。驚いちゃって、つい声が出ちゃっただけ」
「なヌ?」
 顔を上げてみると、ダーリャの隣に男が一人立っていた。その奥のテーブルには、数十人の男女が座って茶を飲んでいた。
 全員、俺達と似たような防寒服とリュックを持っている。相違点といえば、スキー板を持ってないことぐらいか。
「どちら……様で?」
 シューラが恐る恐る聞く。
 それに答えたのは、ダーリャ。
「この人達は、“アイスクライミング愛好会”のメンバーの皆さんよ。この人は、代表のジェームズさん。私たちより一日前にここへ登って来られたらしいの。あと一時間くらい経ったら、もう少し高いところにある会員制の宿泊施設へ向かうそうだから、一緒しない?」
「よろしく」
 ジェームズと紹介された男が、無愛想に一言だけ口を開いた。米国人…か、名前から察するに。
 男はダーリャと同じ金髪碧眼だが、そのごつごつした鉄面皮には、俺に対する明らかな侮蔑が見て取れた。
 ――嫌な野郎だ。
 そう感じたが、こんな所で何かともめても仕方がない。俺は立ち上がって、ジェームズと握手した。
「イアキム・ピャタコフだ」
「おいダーリャ。確かにこんなボロ休憩所に食糧なんか置いてないとは思うけどよ、その人達の泊まる場所って、会員制だろ? 使わせてもらえるわけないし、第一迷惑かけちまうんじゃないかぁ?」
 ペラトンが言った。うんうんと頷くシューラ。
「私もそう思ったんだけどねぇ、何と! OKしてくれたのよ。交渉ってしてみるものね!」
 そう言って、ダーリャは笑顔で俺達の間をすり抜け、自分の荷物の方へ向かった。
 突然のことにあんぐりとするペラトンとシューラ、ジェームズ、登山者達の順に目線を動かし、少し考える。
 ――確かについて行くのは問題かもしれんが、かといってこの設備も思ってたより古くて隙間風も多い。積雪に耐えきれるか怪しいな。
 食糧は手持ちのもがあるから何とでもなるが、何日も吹雪くことも多い山ン中で、ここじゃあ寒さをしのぐには問題が多いか…? 旅は道連れ、善意を受けてみるのもこの際……ううん…
 しばらくして、
「…仕方ない。甘えさせてもらうか」
 俺はそう判断した。



 そして。一時間はあっという間に過ぎ、俺達は登山者達に混じって再び雪の中を歩くことになった。
 ゴーグル越しに腕時計に目を落とすと、デジタル文字が、ちょうど6時10分を示したばかりだった。あと一時間もしないうちに夜になり、今よりもさらに寒さが厳しくなるだろう。北半球の日没は早い。
 少し後ろでは、ペラトンが隣で並んで歩く登山者の女性にしきりに何か話しかけている声が、風の咆哮にかき消されつつもギリギリ聞こえた。(耳にはそれなりに自信がある。そうでないと、氷点下の世界では生き延びられないからだ。微かな変化が、命運を分ける)
 シューラは俺とペラトンの間に、ダーリャはジェームズと並んで歩いていた。二人は、顔を寄せて何か相談している様子。何故か、妙に仲がよい感じかする。
 ‥まるで、前から知り合ってたみてェに……
 いや。
 仲間のプライベートのことなんか考えたって、詮無いことだ――俺は、ただ足を動かすことだけに集中した。



     * * *



「…………おい。ちょっ、と……待て、ジェームズ!!」
「何よ? イアキム」
 本人より先に、ダーリャが答える。ゴーグルをしているため表情は分かり辛いが、不機嫌そうな風は分かる。
「バテてるの? 貴方らしくもない…もう少しで着くから、頑張ってちょうだい」
「違う………」
 乱れきった息を整えるため、下を向く。その間に、後ろの二人も追いついた。
「俺が聞きてェのは、何故平地の多い東側の斜面ではなく、わざわざ崖や岩の多い西側へ向かってンのかってことだ!」
 ダーリャの口元が引きつって笑みの形を結び、首を傾げた。
「何言ってるの? ここは‥」
「いいや。俺はいつも、登る山の特徴、地形や傾斜の移り変わりなんかを全て頭にたたき込んでからスキーする。安全のためにな。お前だって知ってンだろう?
 さっきから、足場の傾斜がきつくなってきてる。…一体、どこへ向かってるんだ?」
「……」
 ダーリャが黙り込んだ。反対に、ジェームズが一歩前に出る――なんか嫌な雲行きになってきたぞ。
「も、戻ろう! イアキム」
 シューラが、言いながら胸ポケットを漁り始める。
「今からでも遅くないです、これを使えば――」

ぱぱぱしっ

 驚くほど乾いた音と共に、俺の頬を、何か熱いものが通り過ぎた。手をやってみると、グローブの先がわずかに赤く濡れた。
「シューラっ!!!」
 ペラトンの絶叫。驚き振り返ると、俺の真後ろで、シューラがつんのめって崩れ落ちていく様が。あ、と俺の口が開いたと同時に、新雪にどさりと倒れ込んでいた。
 その手から、取り出したばかりの小型マップナビがこぼれ落ちる。
「シューラ! な…!!?」
「わぁあああ…――」
 ペラトンが、あわてて抱き起こす。シューラが倒れていた場所には、白と真紅の不気味な模様が形作られていた。シューラの脇腹と胸に小さく暗い穴が空いていて、防寒服にみるみる赤黒いシミが広がっていく。
 俺は、キッとジェームズを睨みつけた。
「てめぇ、……何のつもりだ!?」
「…」
対する方は、顔色ひとつ変えずにゆっくりと顔を回した――未だ硝煙を燻らせている、サイレンサー付きの銃を手にした、一人の登山者へと。
「――あ、す、すみません上官! 外部への通信機かと‥」
 登山者が震える銃口を上に向けると、
「はぁ……全く」
 心底うんざりだ、と言わんばかりに溜め息を吐き、すたすたとそいつの方へ歩いていった。
 そして、前に立つと同時に拳が踊った。
 バキッと派手な音がして、シューラを撃ったそいつは鼻血を吹いて倒れ、雪煙を立てた。暴風ですぐさまかき消され、倒れた姿がさらされる。
「失礼した、ミスター・ピャタコフ。最近人員補給したばかりで気の早い連中ばかりなのだ。だから、あまり変な行動を取ることはお勧めしないな」
 背を向けたまま、ジェームズが言う。
 殴られてぐったりしている奴を、他の登山者達がすぐに両脇に手をかけて抱え起こすが、ジェームズに反抗するものは誰一人いなかった。
 むしろ、気付いたら俺達を遠巻きに取り囲んでやがる。しかも、その全員の手には、殴られた奴のよりも大きな機銃があった。(こいつらが皆サイレンサーをつけているのは、銃声による災害を恐れてのことか?)
「お前ら、一体…」
「誰だと思うかね、ニグロのファッキンロシアン?」 
 俺は、口元を引きつらせた。
「へぇ~、ニグロだと? なるほどな。そんな死語を、じじいよろしく未だに使ってやがる連中ってのは、知ってる限りじゃ一つしかねぇ――テロ組織、K.K.K.だな?」
「ご名答」
 振り返ったジェームズの手には、いつ抜いたのか小型拳銃があった。暗く光る銃口が、俺の顔にぴたりと向けられた。
「では話が早い。おとなしく付いてくる方が身のためだと…分かるな?」
 濁った蒼の瞳が、残虐に笑う。



     * * *



 陽の光が途絶え、山は完全なるや身に閉ざされておりました。激しい吹雪の中に一つ光る、ぼんやりとした白く四角い光を除いては。
 分厚い雪層を持ち上げてもたらされる光の中には、銀色に輝く鋼鉄製の階段があります。
 その光の前に立つ男性が顎をしゃくって、背後から銃を突きつけられた男性が三人――一人は肌の黒い大男に背負われています――と女性一人がその中へと入っていきました。その後に、銃を持った者達が続きます。
 そして最後に、最初の男性が一人残ります。
 名を、レオナルド・ジェームズと云います。彼は闇に沈む白い世界をひととおり見回して、誰もいないことを確認し、中へ入ろうと身を翻し――途中でやめました。
 視界の隅で、何か光ったからです。
 レオナルドは銃を抜くと、足音を立てぬよう慎重に、しかし素早く動きました。十歩ほどで岩場へ辿り着き、辺りを探ります。
 黒い風の世界に、生物の気配は見あたりません。
 彼が膝まで埋まる雪の中で、足を一歩動かしたときです。
こつ。
 雪の中で、彼のつま先が何かに触れました。掘り起こして見てみますと、雪から黒い物体が出てきました。
 拾い上げてみます。それは、グロック37.40S&W――彼が部下達に支給した拳銃でした。銃口には、サイレンサーが付いていません。
 拳銃の作動と安全装置を確認し、グリップから弾倉を抜きます。弾は一発も未使用のままです。
「……」
 レオナルドは眉に皺を寄せて、雪原に目を落としました。施設から漏れてくる光を受けほのかに白く照らし出されたそれには、ほんのわずか‥本当に微かですが、靴裏の形にくぼんだ跡があって、一定の間隔でひとつの岩へと続いていました。
 彼は殊の外慎重にその岩へと近付き、岩陰に誰かいることを確認します。
 そして一呼吸置き、

「動くな!」

 レオナルドに銃を向けられても、その人物は全く動じませんでした。
「……?」
 その人物は体に積もった雪を払ったりせず、綿の詰まった分厚い防寒服も着てはいませんでした。筋肉のついた裸姿に下着だけをまとって、雪に直接腰掛けて冷たい岩肌にもたれかかっていました。
 目はかっと見開かれ、口はだらしなく開かれたまま、唾液が口の内外で凍りついております。
「………」
 レオナルドはしばし呆然と、裸の男性を見つめていました。その目は只の一点――裸の男性の、かくりと折られた首筋へと注がれています。
 その者の盆の窪に深々と突き刺さった、鉄の棒に。
 太さ五ミリほどのスパイクは、荒縄が乱暴に巻かれただけの滑り止めが備えてある程度の粗末な物でしたが、男に声を上げさせず、ほぼ即死の致命傷を与えることができる品であることは、レオナルドの目にも明らかでした。
 何故これが部下の一人の首に――
 その答えに思い至ったとき、彼の鉄面皮はみるみるうちに崩れ、激怒しているような、恐怖におののくような表情へと変化します。 
 突然ガッ、とスパイクに手を伸ばすと、一気に引き抜きました。氷点下という気温のせいで保存状態のよかった紅の血が滴るそれを手に、レオナルドは自分がやってきた方――施設の入り口へと振り向きました。
「俺としたことが……入れ替わってたことに気付かなかったとはな」
 そして、目を細めます。
「さて、どうするか…」
 歯噛みして呻くように呟きますが、その声は雪と風の唸りにかき消され、霧散していきました。

 ――冷たく、長い夜の幕開きです。   






------------------------------
あとがき? いいえ、言い訳です。(何



シリーズ上、初めて書いたヤツだけにいろいろヘンテコなことになってます。
特に展開とか展開とか展開とか…

それに、主人公だぁれも出てませんしv

大丈夫です、次話にはちゃんと出ます。つか、それっぽい展開は残しましたし♪ こういう風な展開の切り方が好きなので、多分こんなのばっかりです。
…もっと文の修行が必要だな自分…

何はともあれ、ここまで読んでくださった方に、最大級の感謝を!!!
本当に有難う御座います! 

次回も頑張りますv




…希有な善意の方に、コメントとか感想なんかもらえちゃうと私、狂喜乱舞しまくること必須(笑
<あ、いえ、何でもないですスミマセン(汗

追記:タイトルの「Rußland」ですが、「ß」が表示出来ないようなので、代理に「β」を使ってます。ちょっと変ですけどニュアンスで読んでくださると助かります(^^;)

水晶林のソフィアbesonder:設定

2007-11-27 22:23:00 | 小説
「水晶林のソフィア」は、私が学内等で配布している個人本の小説ストーリーシリーズです!
こうして書くとなんか大層な物なように聞こえますが、まぁ只単にオリジナル小説書いてるってなだけの話ですw

ジャンルとしては現代的風刺を込めたSF/ファンタジー系アクション。

かなり設定が込み入っているので、下記の世界設定を読んでから本編に進まれること推奨。
では、どぞ↓









 2280年。
 この年は、世界にとってこれまで経験してきた分岐点の中でも、特に大きなものでありました。
 地球温暖化によって引き起こされた急激な海面上昇。各国は主要都市や工場地帯、何より国土を失いました。それに追い打ちをかけるのが、2280年前後から始まったヤンガードリアス期の到来です。百年後には本格的な氷河期が始まることを知り、各国は燃料と領地を求めて争い始めてしまいました。
 第三次世界大戦――暗黒時代の始まりです。
 しかし五十年の長期にわたる戦争は、南アメリカ大陸・アステカ共和国の都市サンタ=マリアで締結された条約により終わりを告げます。
 そして今、2335年。
 戦火の去った地上ですが、未だ世界は狂気に満ちていました。
 傾国──【暗転白璧】米帝国。核の炎に領地は灰色に染まり、かつての豊かな工業国は寒冷の地と化していました。政府内は極右思想が席巻し、国内では今日(こんにち)今日世界中でテロを引き起こしている人種差別主義犯罪組織、K.K.K(クー・クラックス・クラン)を生み出してしまうなど、混沌を極めております。
 そう、個の生命(いのち)生命は集団に容易く奪われてしまうことが普通となってしまっていたのです。
 そのため、人々は逃げるように月や火星へと旅立ち、各国に残った人々は国の中に閉じこもって他国との交流をほとんど絶ち、ネットワークのみで繋がり合い、かりそめの平和を謳歌しているのでした。
 正義など幻。剛力こそ全て。それが人々の暗黙の了解であり、冷酷なる世界で生き残る唯一の術であります。
 
 ――世界は、ゆるやかな終末を迎えようとしていました。



サンタ=マリア条約…2330年の条約締結と共に国境が成立した、南アメリカ大陸において約4分の1の面積を持つ国家「アステカ共和国」の首都、サンタ=マリアで締結された終戦条約。条約の内容は、各国の停戦とともに、曖昧になっていた国境を新しく引き直すこと。「水中都市」や「バイオモデル統治」等、これまでになかった領土の問題や国家情勢を世界的に塗り替えた。

主要国一覧:
(暫定。「仮」が付いてるのは変更するかも)
【水中国家】日本国
【連合国家】EU
【工業大国】中華人民共和国(仮
【南米連合】アステカ共和国(仮
【厳寒白璧】ロシア連邦
【機巧国家】スメラ国
【暗転白璧】米帝国
   :
 まだ増えます
「セカンドスフィア計画」により、外宇宙にも国家が存在。   
【月面十四都市群】
【火星コロニー群】
上記のは個々の名称によって統治条件や政策が異なるため、決まってないうちは名前なしです^^;


ロボット設定
Ⅰ/バイオモデル…
 2280年前後に開発・発展した、生物とほぼ同じ行動・外見を持つロボットの総称。それらは、モデルとなった生物の学名(例:人型バイオモデルの場合、「ホモサピエンス」=Homo sapiensの名がつく)に、Replicaを付けて分類される。人型の略称は、Hs.r。
 この技術は、地球環境の変化によって絶滅した動物や、既に化石と化した古生物にも応用でき、現在数々の研究が進められている。
 Hs.rを代表として、バイオモデルは人々の日常にも存在し、主に対人サービス業(メイド、ウェイトレス、風俗など)に従事している。無論、女性のみならず男性型もあり、外見どころか内臓関係まで、簡単な部位は再現されている。
 この他にも、軍隊用のバイオモデルも存在する。このタイプのバイオモデルには、内部構造に戦闘を考慮した特殊改造が施されるため、上記の社会用と区別して、「Hs.r'」と呼ばれる。その後に続く名称α、β、γ、δはその改造の種類を指す。
α式…バイオモデルの内部構造をほとんど改造しない、ノーマルタイプのこと。
 銃器やナイフを手に持って使う、生身の人間とほぼ同じ戦闘方法を取る。ただし、生身の人間では肉体制限上、2本の腕で扱えない武器(重器・対戦車火器などの大型銃)なども扱うことができる。
→基本的に接近戦型。‥というより、オプションがないため武器なしでは接近戦しかできない。人間に対しての戦闘力はまぁまぁだが、対ケミカルモデル戦・バイオモデル同士の戦いには、さほどの力はない。
 このデメリットを埋めるため、α式のHs.r'には、個々にそれぞれ違ったトリートメント(改良)を加えることが多い。その内容はHs.r'それぞれのケースによって変わるため、奇抜な能力を持つ者もいる。
β式…バイオモデルの外見はそのままに、内部構造に戦闘用オプションを仕込むタイプのこと。
 内部に仕込む武器類は、作戦に合わせて取り替え可能。軍事利用されるバイオモデルの大半が、これに分類される。
→システム上、ほぼ全種のバイオモデルに導入できる形式。接近・中距離戦型。武器オプションによっては飛行したり、遠距離の敵にも攻撃できる。しかしβ式最大の難点は、定期的なメンテナンスが要求され、作戦ごとに必ず受けなければ次の活動に支障が出やすいこと。
 つまり、長期の戦闘には向かない。
γ式…バイオモデルの外殻組織(皮膚組織)を分厚い特殊装甲に取り替え、外界の影響を受けにくく、また増強された筋肉組織によって馬力を上昇させるタイプ。
 パワーはα・β式の約5倍、焼夷弾やミサイルの直撃にも耐えられる防御性を有する。装備する武器オプションも、大型のものが多い。
→全タイプ中、一番改造コストのかかる戦車的形式。とにかく金のかかる上に機動力が低く、通常メンテナンスでも時間のかかる形式のため、次第にケミカルモデルの自動戦車に取って代わられた。
 現在では、実戦で投入されることはほとんどない。
δ式…バイオモデルの知能組織に、補助演算コンピュータなどの特殊回路を組み込んで、外界からのデータを瞬時に感知・分析・判断できるようにするタイプ。
判断した内容を即実行できるよう内部構造にも手を加える。
軍隊の司令官クラスに導入されているが、この改造を受けた(もしくは、最初からこの形式に作成された)Hs.r'は少ない。
→δ式は主に頭脳を改造する形式なので、外見や戦闘能力では判別しにくい。そのため首の後ろや体のどこかにコードが刻まれている。
 生身の人間よりも高い知能を有するため、この形式のHs.r'にはほぼ必ず機能停止装置か、(政府によっては)遠隔操作の爆弾が組み込まれている。
 
世界戦争が50年も続けられた一因に、彼等の戦場導入による予想以上の影響があると、世間一般で言われている。

Ⅱ/ケミカルモデル…
 これまで開発・研究されてきた、純粋なロボットのこと。生命体のような自我意識やライフサイクルを持つバイオモデルとの区別として、この名称(=Chemical:科学)が付けられた。
 主に人間が行うには危険とされる場所での作業、社会の底辺の仕事をこなす。(例:工場の作業ロボット、セキュリティロボット、建物の清掃・管理ロボットなど)その他にも、子供向けのオモチャなど簡単なAIが組み込まれた物も、これに分類される。ここでいう「オモチャ」とは、外見はこれまでの物と同じ、テディベアなどのぬいぐるみや人形に少しのバッテリーとAIを組み込んだ、ちょっとした受け答えのできる物のことである。
 バイオモデルと同じく、軍事開発された物も大量にあり、それらはα・β・γ・δ・ε式と分類される。α~δにかけてはバイオモデルのときとほぼ同じだが、ε式だけは、人間が遠隔操作するタイプである。δ式の場合も、演算コンピュータは組み込まれるものの、「自立」することは滅多にない。‥言い換えれば、「自立」するときというのは、すなわち暴走を意味する。


主要キャラクターs'
クロイツ Kreuz
normal→ "K"system ver,→設定
元米帝バイオモデル特殊部隊ブラックハウンド所属、CODE/9、α式Hs.r'。
A級国際指名手配されているテロリスト。
二つ名は【マルコシアス】。二つ名の所以となった超低音粉砕装置"K"システムを内蔵する。

基一博 Kazuhiro-Hajime 
normal→
日本国在住の純系日本人の少年。17歳。
革命家・基国主を父に持つ。現在は親戚の家にて、政府監視下の元生活している。
先天的に心臓が悪く一度死にかけたことがある。が、当時の緊急手術のおかげで心臓を取替え、健康体になった。

クリス=エルシ Chris=Jersey 
normal→
謎の多い、特A級国際指名手配のテロリスト。二つ名は【毒椿妃】。
その目的は何かの組織の指示によるもののようだが、組織の情報は、政府の人間でも終ぞ知ることができないでいる。
ロボのくせに霊感があるようで、本人は"ギフト"と呼んでいる。
クロイツとは喧嘩友達。

シュヴァル Chyeval
normal→□
【機巧国家】スメラ国の創設者にして国王。
元ブラックハウンド所属、CODE/1、δ式。クロイツの兄に当たる。
"迷宮"と呼ばれる強制テレパス能力を有し、意思あるものは彼の周囲半径1キロ以内に入ると否応なく"迷宮"に取り込まれる。シュヴァル自身もある程度はコントロールできるものの、影響範囲を完全に消し去り影響をゼロにすることはできない。
唯一、クロイツのみがこの影響を全く受けない。






…いまのところはこのくらいです。ストーリーがもっと進んだらそれに応じて増やします。

……それにしても……

長っ! クソ長ッ!!
なんかこのブログ長文ばっかですけど、どうかよろしくお付き合い願います

追記:■をクリックするとビジュアルイメージが開きます。□は、もうちょっとお待ちを…