漫画家アシスタント物語 第3章

ブログ「漫画家アシスタント物語 第3章」をまとめました。

漫画家アシスタント 第3章 その38

2006年06月28日 12時41分37秒 | 漫画背景
( この写真は、東京、豊島区南長崎の『トキワ荘』とその隣の『うさぎ荘』があった辺りである。
  《'06年2月 撮影》 )

【 はじめての方は、 「漫画家アシスタント 第1章 その1」 へ、どうぞ。】




              その38 ・・・・・・・・・・・・ 2006年04月21日 19時43分 (公開)



1978年、春。 Jプロで私がはじめて描いた背景は、1ページだいの川ぞい
の古い町並みでした・・・・。

この背景が漫画雑誌○ックコミック○リジナルの「H雲」に掲載されたのは
絵を完成させてから3,4ヶ月たってからでした。 ( この背景はコピーされて、
この後15年位の間に何回か使用されました )

漫画背景は漫画家先生やそのアシスタントの個性によって多種多様です。 
私の場合はK・K先生( 『第2章その7』~『第2章その17』参照 )の影響を強く
受けていたので、かなり劇画調でした。 資料写真に忠実に丸ペンを使って
カリコリ細かく描いていくといった感じで・・・・・。


Jプロに入った当時( 1978年春 )、アシスタントの仕事をナメきっていた私は、
J先生の背景を描くこの仕事を自分の漫画背景のための実験の場として
考えていました。

M・M先生( 『第2章その18』~『第2章その23』参照 )の所で見聞きした斬新
な画法。迫力のある構図や大胆なタッチ。その芸術的な背景世界にあこが
れ、事もあろうにJ先生の背景にそれを試していたのです・・・・!

私に画力が備わっていればまだしも、まるで実力の伴わない「 芸術的背景 」
は、まさに「 奇妙な凡作 」と成り果て、それはJ先生をして『 あいつはクビ
だ! 』と思わせる事になる危険極まりない大チョンボでした・・・・。

背景技法で試したかった事は、ペンを使わずに筆とスクリーントーン処理だ
けで絵を完成させる事や奇抜で( 粗雑な )実験的な構図を考え出す事でし
た。 しかし・・・・ そんなお気楽な期間は1年足らずで終わります。

前回、書きました様にJ先生の「雷」で全て変わってしまいました・・・・・。

筆を使って、個性を出そうとか・・・・ 奇をてらった構図で目立とうなどと考え
たりした事・・・・・ それらの事が全て『 嘘の絵 』になっていたのです・・・・
自分の絵も人生そのものも『 嘘の絵 』を塗りたくっていたのです・・・・・ 

まるで、泥沼に頭から突き落とされて、そのドロドロの中でもがいているとい
った感じでした・・・・・ 

「 しかし・・・ 」と言うべきか「 だからこそ 」と言うべきかその内に手の中に何
か手ごたえのあるモノをつかんでいたのです・・・・・・ まったく人生とは不思
議なものです・・・・・・。

自分の絵の『 嘘 』に向かい合った時、私の中で新しい自分が生まれるので
すが・・・・・ 古い自我が崩壊し、頭が真っ白になっていく経験は「 とてもいい
経験でした 」などと言うものではなく、それは・・・ 単にゲロ吐きそうな苦痛で
しかありませんでした・・・・・・。

Jプロでの1年目がこうして終わろうとしていました・・・・・・・・。



            「 漫画家アシスタント 第3章 その39 」へつづく・・・



     ・前に記事へ戻る時はこちら→「 第3章 その37 」



 

【 各章案内 】  「第1章 その1」  「第2章 その1」  「第3章 その1」
          「第4章 その1」  「第5章 その1」  「第6章 その1」
          「第7章 その1」  「第8章 その1」  「第9章 その1」
          「諦めま章 その1」  「古い話で章 その1」
          ( 但し、第1~3章は『縮小版』になります )
 

    
    

漫画家アシスタント 第3章 その6

2006年05月07日 16時20分43秒 | 漫画背景
( この写真は、'75~8年当時に毎日利用していた丸の内線、新高円寺駅。今でも26年前と同じ
  内装の様です・・・。《2005年7月撮影》)


 
              その6  ・・・・・・・ 2005年09月02日 13時55分 公開


1978年、昭和53年頃にJ・Aプロが持っていた連載は「H雲」「よた○う」
「○ーライ○ルース」「○の○○太郎」「○○ふき○○○○シャン」・・・

以上の作品の正確なタイトルを全て言える人は、いないと思いますが・・・
もし、いるとしたら・・・すっごい漫画通かJ・A先生親衛隊です!(金一封
は出せませんが、惜しみない拍手を送りたいと思います!)

J・Aプロのスタッフですら完璧に答えられるかは疑問です・・・・。


東京、目白のマンションの7階。 J・Aプロには私を含めて当時、7人の
アシスタントがいました。

仕事場にはAMラジオが流れ、TBSラジオのにぎやかなアナウンサーの声が
部屋に広がる。 そして、夏の終わりの鈴虫の様に・・・・

カリカリ・・・ コリコリ・・・ サラサラ・・・ パタパタ・・・ カリコリ・・・

  
さて、新入りの私から見た先輩たちの漫画背景の技術と傾向なんですが・・・
当時まだ、ほんの「ひよっ子」だった私の偏見(!)によるJ・Aプロの先輩
たちの絵は・・・・・

まず、最年長者のガンさん(仮名:羽賀 司郎、東京出身、28歳)・・・ 

J・A先生の絵柄に最も良く似ていて、昔は先生から信頼され、一番高い給
料を貰っていたそうですが・・・ 私には特長がイマイチ・・・・・・ なマンガ背景
に見えました。(でも、2ヶ月後にデビューし独立。J・Aプロ唯一のプロへ) 

次に、テラさん(仮名:寺山 新一、博多出身、26歳)・・・ 

とても個性のある絵柄(童話的)なのですが、まるでJ・A先生の画風にマッチ
しない様な・・・・ テラさんの絵だけが独立したカット(テラさんの世界が出来
上がっている)の様に見えました。 

カンさん(仮名:菅原 浩二、神戸出身、25歳)・・・ 

J・Aプロの中核。 大黒柱。 緻密で誠実な絵柄。 正確なデッサン力。 
でも・・・ 極々たまにキャラクターの大きさと全然合わない背景でみんなを驚
かせます。 誰も何も注意しませんが、一番の実力者には遠慮があるようで
した。

マツさん(仮名:松村 祐樹、広島出身、24歳)・・・ 

J・A先生から彼の絵は「手抜き背景」の参考になるから・・・と言われていたの
ですが、手を抜くなと言われるのなら判るのですが、手抜きの参考にしろとは
どういう事なのか不思議でした。

「手抜き」といえば、マツさんからはよくオナニーについての話をお聞きしま
した。「わしゃ~のぉ、想像力を鍛えるためにオナペットは使わんのぉ・・・ 
そじゃけぇ、いろんな女を想像するんよ・・・」と言っておられましたが、26年間
ついにデビューを果たす事がなく・・・・・ あまり効果的な方法ではなかったのか
もしれません。

リョウさん(仮名:内海遼一、山口出身、24歳)・・・ 

明治維新の専門家。「歩く幕末」と言われている「大竜馬ファン」なのに・・・なぜ
か、その熱気がストレートに伝わって来ない・・・。

ユミさん(仮名:吉村由美子、?出身、?歳)・・・ 
なんだか暗い・・・。 陰々滅々とした劇画の様な少女マンガ・・・?



 久々の・・・漫画家アシスタント物語、血の教訓


  『 実力がモノを言う世界では、正しい者の言葉が正しいのではなく、

                実力のある者の言葉が正しいのである。』

                      ( イヤな世界だなァ・・・ )


           「漫画家アシスタント 第3章 その7」 へつづく・・・


 

 

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          ( 但し、第1~3章は『縮小版』になります )



 このページへのコメント  【 計 4 】



始めまして (華)

2005-09-04 07:39:50

楽しく拝見させていただいてます。
私も漫画家志望であり、そして生まれてから21年間目白に住んでいて、しかもJA先生の「H雲」のFANでありますのでこのブログは大変面白いです。
目白界隈の風景を見ると慣れ親しんだ光景でなんだか不思議な気分になります。
楽しみにしていますので、お忙しいと思いますが更新頑張ってください。



華さん、はじめまして。 (yes)

2005-09-05 03:56:21

華さん、コメントありがとうございました。

目白に21年住んでらっしゃるんですか・・・  ひょっとして、
学習院の方ではなく、ケンタッキーやりそな銀行がある方で
すか?

我がJ・Aプロはその先ですが・・・ お判りになりますか・・・?

それはともかく・・・ J・Aプロが入っているマンションの近
くにピーコックがあるんですが、数年前そこで買い物をして
たら、代議士の田中真紀子氏が買い物に来ていました。

外国人記者も一緒でしたが、驚いた主婦の一人が

「まあ! こんな所で買い物なんかするんですかァ?!」と、

声をかけると、

「私だって買い物しますがね、よく買いに来るんですよココ

ガハハハッ・・・」と、例のしゃがれ声で気さくにしゃべって
いました。

第3章からは、いよいよ目白や椎名町が舞台になりますので、
これから、いろいろなエピソードが飛び出してくると思いま
す。

自分でもなぜだかわくわくしています。 これからも頑張り
ます。 どうぞよろしく!



うわぁ (華)

2005-09-05 04:55:20

コメント返していただいて有難う御座いました。「H雲」読んで感動して思い立って来てみたら、返信が来ていて嬉しかったです。


私の家はほぼ聖母病院といってもいいくらいのあたりです。生まれたのもその病院ですが。あ、例の「T乃屋」は私も良く出前を取ります。お店の方には余り行かないのですが、そういえばサインが置いてあった気が…

ピーコックのあたりですか!近いですね!マンション玄関口の写真見ても解かりませんでしたが…
ピーコックは金曜日に必ず来る「出来たてメロンパン」が密かに楽しみだったりします・笑



今週も「H雲」の制作です・・・ (yes)

2005-09-06 03:48:15

華さんの楽しみな「メロンパン」私も食べた事があります・・・。
  
   
聖母病院の近くのお蕎麦屋さんを知っているとは、驚きました。
そこから毎日、仕事場に出前してもらっていたんです。
   
確かに店内には多くの漫画家のサイン色紙が飾られています。
ご主人が相当な漫画ファンで商売よりネットや漫画に夢中な面
白い(?)人です。
  
   
さて、今週は「H雲」の締め切りがあり、その背景をやります。
昨日も今日も雨、台風も来る・・・ とにかく大変な一週間になり
そうですね・・・。