
私はリヤドに戻った後、サルタンさんと別れを告げ日本に帰国した。しばらくしてサルタンさんから今度はスペインで水管理の仕事があるから来てくれないかとメールがあった。スペイン南部は地中海性気候で雨がほとんど降らない。スペインは農業国であるが、雨が少ないので水管理が重要となっている。
しかし前回の仕事の報酬をもらっていない。サルタンさんに報酬をくれるなら手伝ってもいいと返事した。しばらく返事がなかった。忘れたころまた同じメールである。報酬のことは書いていない。サルタンさんは東京工業大学で博士号を取得したが、その時の彼の同僚の話を思い出した。彼らはサルタンさんを嘘つき呼ばわりしていた。同僚の話では、博士論文の締め切り間際になってもまだほとんど完成していないので、見るに見かねて論文作りを手伝ったという。これからは私の想像であるが、サルタンさんはサウジアラビアでの儲け話かなんかを餌にして論文作りの手伝いをしてもらったのではないかと。そうだとすれば、今回の件も私に報酬など払うわけがない。
サルタンさんからのメールに対して何も返事をしないまま半年が過ぎた。するとまた同じメールである。報酬のことは今度も書いていない。スペインにはマドリードに会議で行ったことがあるが、それ以外の町には行ったことが無い。スペインを見てみたいとスケベ根性が出て、少なくとも航空代、宿泊代、食費を出してくれれば、行ってもいいと返事をしてしまった。するとすぐに返事があり、e-チケットを送ると言ってきた。

日本からスペインへの北極回りルート。
スペインへのフライトは長かった。現在ロシア上空は飛べない。ロシアを除け、南周りか北回りである。日本からスペインへ行く方向は偏西風に逆らう方向である。この時は偏西風が強く、急遽北回りとなった。日本からまず北東方向に向かい、カムチャッカ半島沖に向かう。行先とは逆方向である。そこからアラスカの西端を通り、北極海へと反転する。次にグリーンランドへと南に向かう。そしてアイスランド、イギリスを通りスペインに到着する。飛行時間は15時間である。北極を通るので運が良ければオーロラが見られるという。しかし一か八かのオーロラより、飛行時間を短くしてほしい。
サルタンさんとはマドリードの飛行場で会った。会うなり一言「ヘイユー」。何がヘイユーだ、先に金を払ってほしい。
「元気でいるよ、ところで今までの報酬の件だが、払ってくれるよね」
「ああ報酬ね。この仕事でうまくいったら払うよ」
「前回、ダンマームの仕事はうまくいって、市からたんまりプロジェクト資金が入ったと言ってたよね」
「ああ、あれは君たちが協力してくれなかったから、ぽしゃったよ」
「君たち」とは、私の相棒の藤木君のことである。彼は人工衛星画像の解析の達人で、ダンマームの仕事を手伝ってくれる予定であった。しかしその彼がある程度仕事に決着をつけた後、報酬を要求した。サルタンさんを信用していなかったのであろう。結局彼が正解で、サルタンさんは報酬を払われずじまいであった。おそらくダンマームの仕事がぽしゃったというのは噓で、プロジェクト資金を独り占めしたのであろう。私としては大した仕事をしていないので、いろいろ旅をさせてもらっているので、満足している。しかし藤木君にとってはタダ働きである。怒るのも無理はない。サルタンさんは私に藤木君をなんとか丸め込んでくれと言わんばかりである。
「藤木君は報酬をもらえなければ何も協力しないと言っているよ」
「ユーにコーディネータ役をお願いしている。ミスター藤木のことは頼んだよ」
「報酬を払わない限りそれは無理だ」
「ここまでユーを招いておいて、それは契約違反だ」
「君と契約を交わした覚えはないよ」
「いや以前Agreementを交わした」
確かに私とではなく、私が以前いた会社とサルタンさんの間で協力に関するAgreementを交わしていた。
「そのAgreementは私とは関係ない」
「今更そんなこと言っても、兎に角ここまで来たのだから、一緒にプロジェクトの可能性だけでも調べたいのだけれど」
空港で言い合いをしていたら、通りすがりの人が我々を見返す。仕方なくサルタンさんについていくことにした。車をレンタルしてグラナダまで行くという。
(つづく)
しかし前回の仕事の報酬をもらっていない。サルタンさんに報酬をくれるなら手伝ってもいいと返事した。しばらく返事がなかった。忘れたころまた同じメールである。報酬のことは書いていない。サルタンさんは東京工業大学で博士号を取得したが、その時の彼の同僚の話を思い出した。彼らはサルタンさんを嘘つき呼ばわりしていた。同僚の話では、博士論文の締め切り間際になってもまだほとんど完成していないので、見るに見かねて論文作りを手伝ったという。これからは私の想像であるが、サルタンさんはサウジアラビアでの儲け話かなんかを餌にして論文作りの手伝いをしてもらったのではないかと。そうだとすれば、今回の件も私に報酬など払うわけがない。
サルタンさんからのメールに対して何も返事をしないまま半年が過ぎた。するとまた同じメールである。報酬のことは今度も書いていない。スペインにはマドリードに会議で行ったことがあるが、それ以外の町には行ったことが無い。スペインを見てみたいとスケベ根性が出て、少なくとも航空代、宿泊代、食費を出してくれれば、行ってもいいと返事をしてしまった。するとすぐに返事があり、e-チケットを送ると言ってきた。

日本からスペインへの北極回りルート。
スペインへのフライトは長かった。現在ロシア上空は飛べない。ロシアを除け、南周りか北回りである。日本からスペインへ行く方向は偏西風に逆らう方向である。この時は偏西風が強く、急遽北回りとなった。日本からまず北東方向に向かい、カムチャッカ半島沖に向かう。行先とは逆方向である。そこからアラスカの西端を通り、北極海へと反転する。次にグリーンランドへと南に向かう。そしてアイスランド、イギリスを通りスペインに到着する。飛行時間は15時間である。北極を通るので運が良ければオーロラが見られるという。しかし一か八かのオーロラより、飛行時間を短くしてほしい。
サルタンさんとはマドリードの飛行場で会った。会うなり一言「ヘイユー」。何がヘイユーだ、先に金を払ってほしい。
「元気でいるよ、ところで今までの報酬の件だが、払ってくれるよね」
「ああ報酬ね。この仕事でうまくいったら払うよ」
「前回、ダンマームの仕事はうまくいって、市からたんまりプロジェクト資金が入ったと言ってたよね」
「ああ、あれは君たちが協力してくれなかったから、ぽしゃったよ」
「君たち」とは、私の相棒の藤木君のことである。彼は人工衛星画像の解析の達人で、ダンマームの仕事を手伝ってくれる予定であった。しかしその彼がある程度仕事に決着をつけた後、報酬を要求した。サルタンさんを信用していなかったのであろう。結局彼が正解で、サルタンさんは報酬を払われずじまいであった。おそらくダンマームの仕事がぽしゃったというのは噓で、プロジェクト資金を独り占めしたのであろう。私としては大した仕事をしていないので、いろいろ旅をさせてもらっているので、満足している。しかし藤木君にとってはタダ働きである。怒るのも無理はない。サルタンさんは私に藤木君をなんとか丸め込んでくれと言わんばかりである。
「藤木君は報酬をもらえなければ何も協力しないと言っているよ」
「ユーにコーディネータ役をお願いしている。ミスター藤木のことは頼んだよ」
「報酬を払わない限りそれは無理だ」
「ここまでユーを招いておいて、それは契約違反だ」
「君と契約を交わした覚えはないよ」
「いや以前Agreementを交わした」
確かに私とではなく、私が以前いた会社とサルタンさんの間で協力に関するAgreementを交わしていた。
「そのAgreementは私とは関係ない」
「今更そんなこと言っても、兎に角ここまで来たのだから、一緒にプロジェクトの可能性だけでも調べたいのだけれど」
空港で言い合いをしていたら、通りすがりの人が我々を見返す。仕方なくサルタンさんについていくことにした。車をレンタルしてグラナダまで行くという。
(つづく)
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