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非線形な世界 その1-プロローグ―

2020-02-14 11:01:56 | ものがたり
非線形な世界
 
プロローグ

 一四〇億年前、ビッグバンが起こり宇宙は誕生した。ビッグバンによって開放されたエネルギーは膨張する。宇宙はこのエネルギーそのものである。宇宙の膨張とともにエネルギー保存の法則に従ってエネルギー密度は低下する。宇宙の中のエネルギーは非線形にゆらぐ。物質はこのゆらぎでできる。あらゆる星は海岸に打ち寄せる波同様、非線形なゆらぎによってできたのである。

 凹みがいくつもあるゴルフのグリーンでゴルフボールを転がすと決まって同じ凹みに転がり込んで止まった。このゴルフボールの動きは線形で解は一つということになる。しかし風が吹くとその強さと方向によってゴルフボールの動きが変わり別の凹みに転がり込んでしまった。風はゆらぎである。ゆらぎによって解は一つではなくなり、非線形ということになる。芝は日を浴びると伸びてくる。そこで芝の伸び具合によってもゴルフボールの動きは変わる。昼になると朝とは違う別の凹みに転がり込んでしまった。芝の伸び具合もゆらぎであり非線形現象を起こす。さらに急にカラスがやって来てゴルフボールを銜えてどこかに行ってしまった。ゴルフボールの行方はもう無限の可能性があることになる。カラスの存在もゆらぎである。これの意味することはゴルフボールの動きは予測不可能なゆらぎによる非線形現象だということである。


この予測不可能な現象が無限の宇宙の中で一四〇億年間繰り返されてきた。その結果が現在の世界である。
 では、一四〇億年前に戻りまた同じビッグバンを再現すれば、全く同じ過程を経て同じ地球が生まれるであろうか。答えはノーである。この宇宙は我々が今生きている姿とは全く異なるものになる。解は無数にあり、我々が生きているこの宇宙はその解の一つでしかない。
シミュレーションはこんな宇宙を知った消化不良を起こした人間が自分の胃腸をすっきりさせるための自己満足でしかない。コンピュータから出てきた答えは無限にある解のうちの可能性の一つであり、事前に自分が頭の中で考えた自分にとって都合が良い解なのである。
我々が見る夢も解の一つである。しかし夢は都合が良いこともあれば都合が悪いこともある。

地球は宇宙誕生からずっと後の四六億年前にたまたま誕生した。そして偶然の連続で生命が生まれた。
恐竜がまだ棲んでいた数億年前、陸地は地球の片側に集中し一つの大きなパンゲア大陸を形成した。そのパンゲア大陸は分裂を始め、ローレンシア大陸とゴンドワナ大陸に分断していった。大陸移動である。大陸が分断すると赤道付近に海ができた。テチス海である。
大陸移動の原動力は地球の中のマントルの対流である。マントルは内部に溜った熱を宇宙に放出するために地球の中をぐるぐる回るのである。その動きがちょっと変われば大陸の移動方向も変わる。テチス海はこうして創られた偶然の産物である。
暖かいテチス海ではフズリナ、ウミユリ、サンゴ、貝類、石灰藻など二酸化炭素を炭酸カルシウムに変える能力のある生物が大量に生育していた。このような生物によって二酸化炭素が固定化され大量の石灰岩層が形成された。
また植物プランクトンが大量に生育し、太陽エネルギーを吸収して光合成をし、二酸化炭素を高エネルギーの糖質に変化させた。その糖質が嫌気性バクテリアの活動でテチス海に大量の石油は生まれた。
大陸移動がさらに続き、油田を抱えるテチス海は長い年月を経て四方八方に分裂し一部は陸化し、現在の中東、ロシア、北海、北米、南米へと分かれていった。
つまり石油は非線形な世界における偶然の賜物なのである。

(続く)