青少年なやみ相談室

相談室だより

一年の折り返しに…

2023年06月01日 10時19分08秒 | vol.171~180

 西日本から順に梅雨入りの知らせが届き始める6月の異名は水無月[みなづき]です。田植えを終えた田んぼに水を張る時季であることから、「水の月」を意味する水無月の異名がつきました。

 この「水無月」という名前の和菓子があることをご存知でしょうか。

 「水無月」は外郎[ういろう]の上に蜜漬けにした小豆を乗せ、三角形に切り分けた生菓子です。少々、地味な見た目をしていますが、この和菓子にはさまざまな思いや願いが込められています。

 6月30日は一年のちょうど折り返しの日、翌7月1日からは下半期となります。上半期最後の日に半年間の厄を払い、下半期も無事に過ごすことができるように願う「夏越の祓[なごしのはらえ]」のときにいただく和菓子が「水無月」です。この風習は京都を中心に現代まで受け継がれてきました。拾遺和歌集に『水無月のなごしのはらへする人は千歳の命延ぶといふなり』*という読人知らずの歌があるように、夏越の祓は平安時代までさかのぼることができる伝統行事です。

 また平安時代に、宮中では暑さが本番を迎える前の6月に「氷の節会[せちえ]」で暑気払いとして氷を食べたそうです。冷凍庫からいつでも氷を取り出せる現代とは異なり、冷凍庫がなかった時代の夏場の氷は大変なぜいたく品でした。冬場にできた氷を山の中の洞窟など天然の冷蔵庫となる場所に運び、夏まで貯蔵するのですから、大変な苦労があったはずです。宝物同然の貴重な氷を口にできたのは宮中でも一部の人たちだったと言われています。

 「水無月」の三角形の外郎には平安時代、多くの人にとって口にすることが叶わなかった氷へのあこがれと暑気払いの思いが、厄除けの色とされる赤色の小豆(煮豆にすると茶色になりますが、生の小豆は小豆色の名前の通りやや暗い赤色をしています)には厄払いと無病息災の願いがそれぞれ込められているのです。

 みなさんも上半期の厄払いと下半期の無病息災を願い「水無月」を召し上がってみませんか。

 

*現代語訳:「六月に夏越の祓をする人は寿命が延び長生きできると言われているのです」

 

 

参考文献

坂木司(2012) 『和菓子のアン』 光文社文庫

中山圭子(1993) 『和菓子ものがたり』 新人物往来社

中山圭子(2018) 『事典 和菓子の世界 増補改訂版』 岩波書店


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