青少年なやみ相談室

相談室だより

温泉のすすめ

2023年09月01日 09時00分00秒 | vol.171~180

『閑暇を活用する術のない者には閑暇は持てず』
 英国の詩人の古い格言¹です。
 休息の時間の重要性を説いた言葉ですが、誰しも、貴重な余暇は漫然と過ごすのではなく、有意義なリフレッシュタイムとしたいものですね。今回は、休息を十二分に享受する方法の一つとして、『温泉への入浴』をおすすめしたいと思います。
 日本人と温泉との付き合いは、古くは縄文時代にさかのぼりますが、古事記・日本書紀など、古い文献にも記述があります。温泉の健康効果についても、出雲国風土記(733)では、「一たび濯(すす)げば形容(かたち)端(きら)正(きら)しく、再び沐(ゆあみ)すれば万(よろず)の病悉(ことごと)くに除(い)ゆ」(一度の入浴で美しくなり、再び入ると万病が治る)と紹介されています。
 日本の温泉は10種類あり、最も多い泉質の単純温泉は、老若男女問わず楽しめる「大衆の湯」として広く親しまれています。他に塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉、放射能泉があり、目的に合わせた療養泉のチョイスも、温泉入浴の楽しいところですね。                                                                                                                                            
 わが国は27,000を超える数の源泉を誇る温泉大国です ²。この恵まれた環境を存分に生かして、余暇の時間には温泉巡りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

【参考資料】
早坂信哉(2018) 「最高の入浴法」大和書店
松田忠徳 (2006)「温泉教授の新・日本百名湯」日本経済新聞出版
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会 https://www.onki.jp/


¹ George Herbert, The poetical works of George Herbert, England, George Bell, 1892

²環境省,令和2年度温泉利用状況 https://www.env.go.jp/nature/onsen/pdf/2-4_p_1.pdf, (参照 令和3年3月末)

 


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病は市に出せ

2023年08月01日 09時00分00秒 | vol.171~180

『病[やまい]は市[いち]に出せ』

 これは、かつて徳島県にあった海部町[かいふちょう]に伝わる言葉です。

 市町村合併により現在は海陽町の一部となった海部町は、徳島県の南東に位置する小さな町でした。この町は、日本で最も自殺率の低い町として注目された町です。旧:海部町の自殺率の低さの理由を探る研究をしたのは、当時、慶応義塾大学大学院の大学院生だった岡檀[おか まゆみ]さんでした。旧:海部町は、なぜ自殺率が低いのか、なにが他の市町村と違うのか、旧:海部町に何があるのか。度重なるフィールドワークの中で見えてきたのは、生き心地の良さを生み出す町のコミュニティでした。そのうちのひとつが『病は市に出せ』という言葉で表される、上手に周りを頼り助け合う考え方です。

 ここで言う「病」とは、病気のことだけではなく、家庭内や仕事上のトラブルなど、生きていく上でのあらゆる悩みや困りなどの問題を意味します。もうひとつの「市」とは、市場、マーケットのことで公開の場という意味です。これは、体調がおかしいときは隠さずに公[おおやけ]にすると、誰かがこの薬が効くとか、どこの医者に診てもらうといいとか何かしらの対処法を授けてくれるという意味から、悩んだり困ったりしたときはみんなに相談することで事態の深刻化を避けることができることを表します。

 また、この『病は市に出せ』には、やせ我慢や虚勢を張ることへの戒めも込められています。やせ我慢をしているうちに問題が大きくなり、本人が辛いだけでなく、周りも助けてあげることができなくなってしまいます。そうなる前に、周囲に助けを求めなさいというリスクマネジメントの意味もあるのです。

 困りごとや悩みごとを誰かに話すこと、辛いときや苦しいときに助けを求めることは、ときに勇気がいることです。「相談したいけれど、相手にどう思われるだろうか…」、「こんなことを相談してもいいのだろうか」。そんな思いがあるときに、旧:海部町の『病は市に出せ』という言葉を思い出してみてください。

 青少年なやみ相談室も「市」のひとつです。匿名で相談することもできますので、困っているときや悩んでいるとき、辛いときや苦しいときは、019-606-1722にお電話くださいね。

 

 

参考文献

岡檀(2013) 『生き心地の良い町 ―この自殺率の低さには理由がある―』 講談社 

河北新報(2023.6.25掲載)「迷い道 [作業療法士 内田加奈さん] 自殺率全国最低の町、飛び出したけれど 理想の職業観は故郷に」


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自分への水やりを

2023年07月01日 09時00分00秒 | vol.171~180

 7月に入り、ジメジメとした蒸し暑い日も増えてきました。初夏から盛夏へと季節が移り変わろうとしています。梅雨の時季にかけて降る長雨は、数か月後に得られる豊かな実りへの呼び水となります。

大地への恵みの雨という反面、雨の日が続くと何となく憂鬱(ゆううつ)で外に出るのも億劫になりますね。そんな日は部屋にこもって、のんびりと本を読んでみてはいかがでしょうか。

 シトシトと静かに降る雨の音を聞いていると、自分だけの時間がゆっくりと流れ、心が静まるような、安らぐような、どこか心地よい感覚を抱いたことはありませんか。誰にも邪魔されず、読書に集中できるのは雨の日の良さとも言えます。

    昔から「晴耕雨読(せいこううどく)」という言葉があるように、雨の日の休日や空き時間などに気分転換も兼ねて本を読んでみると、新しい発見や感動と出会えるかもしれません。本の作者や登場人物の考え方に触れることで、さまざまな価値観があることを知ることができます。さらに、今まで感じたことのないような喜びや悲しみによって心が動き、他人に共感する思いやりや相手の気持ちに寄り添う優しさなどが培われ、精神的な成長にもつながります。

     読書の合間には、好きな飲み物で一息つくと、リラックス効果も高まり、ストレス解消にもなります。また、ゆったりと読む環境を整えることで、より快適に読書を楽しむことができます。あまり堅苦しく考えず、気軽に興味があるジャンルの本から手に取ってみるのも本を好きになる近道となります。

    忙しい日々の中でも、本を読むことは豊かな心や人間性を育み、生きる力になります。そういった積み重ねが、人とのコミュケーションの取り方や物事の前向きな捉え方に役立つのではないでしょうか。読書は、知識や教養を増やすだけでなく、心に栄養を蓄え、気持ちを整える自分への水やりになります。

 

 

【参考文献】

見坊豪紀ら編 (2022)『三省堂国語辞典 第8版』三省堂

齋藤 孝 (2002) 『読書力』岩波書店

福原 義春 (2018) 『教養読書-仕事も人生も読む本で大きく変わる』東洋経済新報社


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一年の折り返しに…

2023年06月01日 10時19分08秒 | vol.171~180

 西日本から順に梅雨入りの知らせが届き始める6月の異名は水無月[みなづき]です。田植えを終えた田んぼに水を張る時季であることから、「水の月」を意味する水無月の異名がつきました。

 この「水無月」という名前の和菓子があることをご存知でしょうか。

 「水無月」は外郎[ういろう]の上に蜜漬けにした小豆を乗せ、三角形に切り分けた生菓子です。少々、地味な見た目をしていますが、この和菓子にはさまざまな思いや願いが込められています。

 6月30日は一年のちょうど折り返しの日、翌7月1日からは下半期となります。上半期最後の日に半年間の厄を払い、下半期も無事に過ごすことができるように願う「夏越の祓[なごしのはらえ]」のときにいただく和菓子が「水無月」です。この風習は京都を中心に現代まで受け継がれてきました。拾遺和歌集に『水無月のなごしのはらへする人は千歳の命延ぶといふなり』*という読人知らずの歌があるように、夏越の祓は平安時代までさかのぼることができる伝統行事です。

 また平安時代に、宮中では暑さが本番を迎える前の6月に「氷の節会[せちえ]」で暑気払いとして氷を食べたそうです。冷凍庫からいつでも氷を取り出せる現代とは異なり、冷凍庫がなかった時代の夏場の氷は大変なぜいたく品でした。冬場にできた氷を山の中の洞窟など天然の冷蔵庫となる場所に運び、夏まで貯蔵するのですから、大変な苦労があったはずです。宝物同然の貴重な氷を口にできたのは宮中でも一部の人たちだったと言われています。

 「水無月」の三角形の外郎には平安時代、多くの人にとって口にすることが叶わなかった氷へのあこがれと暑気払いの思いが、厄除けの色とされる赤色の小豆(煮豆にすると茶色になりますが、生の小豆は小豆色の名前の通りやや暗い赤色をしています)には厄払いと無病息災の願いがそれぞれ込められているのです。

 みなさんも上半期の厄払いと下半期の無病息災を願い「水無月」を召し上がってみませんか。

 

*現代語訳:「六月に夏越の祓をする人は寿命が延び長生きできると言われているのです」

 

 

参考文献

坂木司(2012) 『和菓子のアン』 光文社文庫

中山圭子(1993) 『和菓子ものがたり』 新人物往来社

中山圭子(2018) 『事典 和菓子の世界 増補改訂版』 岩波書店


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ことだま

2023年04月01日 09時00分00秒 | vol.171~180

 春は出会いと別れの季節。たくさんの感謝やエールが飛び交います。旅立つ人も送りだす人も、短い文章にそれぞれの想いを乗せて、誰かにメッセージを贈ったのではないでしょうか。

 

言葉には神秘的な力が宿ると考えられ、古代から言葉は「言霊(ことだま)」として大事にされてきました。                                「よい言葉はよい未来につながる」「言葉は一人歩きするので要注意」「魂を乗せた言葉でないと心に響かない」などなど、「言霊」という考え方には、多くの先人たちからのアドバイスが詰まっています。

 

 先日、「もらった手紙やメッセージカードは読んですぐに処分する」という発言をした人と、それを聞いて「情がない」と不愉快な顔をした人がいる場面に遭遇しました。手紙を送った側からすると、心を込めて書いたのだから短期間でも大切にしてほしいと思うのは当然でしょう。しかし、その直後、誰かが「でも、送ったのは自分の勝手だよね」と言ったことをきっかけに、「自分本位に行ったことで、相手に何等かの行動を求めるのは、送る側のエゴではないか」という話で、その場は一旦まとまったのでした。                                                    相手にどうなって欲しい、どう感じて欲しい、という自分勝手な願望は捨てて、ただ言葉に想いを込めて贈り、そこから先は相手を信頼して任せる。そんな相手を尊重した言葉の贈り方をしてこなかった自分に気づかされた一場面でした。

 

 検索機能の高度化、チャットGPTの登場と、私たちの使う言葉の重みや意味合いが刻々と変わってきています。                                            AIを介して発信させられる情報が氾濫する中で、私たちは、想いをのせた生きた言葉をどれだけ使っているでしょうか。

私たちが相互に発信しあう言葉の力をもう一度見直し、日々発する言葉を大切に丁寧に扱っていけたらいいですね。

 

参考文献

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』  https://ja.wikipedia.org/wiki


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