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古装劇場 別館

越劇の世界~中国の女性演劇

2016年08月16日 20時31分15秒 | その他
 お久しぶりです。また長いこと放置してしまいました。それでもまだ訪問してくだる方、申し訳ありませんでした。次にいつ更新するか分かりませんが……

 それでは、しばらく前に読んだ本をご紹介。

「越劇の世界~中国の女性演劇」
 中山 文 編著 / 水山産業出版部

 越劇の誕生から発展の歴史、現状、俳優、代表作の紹介まで、初心者にはとてもためになる内容だった。これまで断片的にしか知らなかったことが、この本のおかげで一つにつながった気がする。

 越劇といえば、女性による演劇で(若干の男性俳優はいる)、いわゆる才子佳人ものを主に演じているというのが私の印象だった。新作もかなり作っているようだが、観客に迎合しているというか、悪くいえば俗っぽいというか、京劇や昆曲に比べると軽めのイメージがあった。が、この本を読んで、認識を改めさせられた。

 越劇が時代に応じて変革を続けてきたこと、次々に発表される新作も、その時の社会問題や女性が置かれている社会的立場を反映していること。伝統演劇の形を取りながら、実は時代や社会と真剣勝負を続けてきていたとは、私の想像を越えていた。美しい女性による見た目も音楽も内容も柔らかいイメージだったが、それは一面にすぎず、実に骨の太い、まさに内剛外柔なのが越劇だったのだ。

 本書では写真つきで代表的な演目の紹介がされているが、伝統的な演目を改編したものから、有名小説の舞台化、歴史上の人物をネタにした新作もあれば、人気テレビドラマを改編したものまである。現代が舞台のものもあるし、もはや女性演劇では片付けられない男性が主役のドラマまであるではないか。

 魯迅の「祝福」「孔乙己」、郭沫若の「屈原」、ネット小説初のベストセラー「第一次的親密接触」など、まさかまさか越劇で表現できるとは思いもしなかった。「ハムレット」の翻案もある。中国テレビドラマ好きとしては、「大明宮詞」を元にした「大唐驪歌」や、ドルゴンと孝荘太后を描く「摂政王の恋」などがたいへん気になる。そして、昆曲と越劇で上演されそれぞれ成功を収めたという「班昭」もぜひ見てみたいものだ。

 読んでいて胸が痛かったのは、京劇の招聘を長年にわたりおこなっている京劇中心の津田忠彦氏による「浙江小百花越劇団招聘公演のこと」。1997年、浙江小百花越劇団が来日し、「寒情~始皇帝暗殺秘話」を上演した。当時、私は気にはなったものの、結局見に行かなかった。陳凱歌監督の映画「始皇帝暗殺」の便乗企画かな?くらいにしか思わなかったこともあるし、当時は「浙江小百花越劇団」も茅威涛も知らなかった。ああ、主演が茅威涛だったとは! 読むと、当時は知名度の低さや宣伝がうまくいかなかったことなどから、客の入りは良くなく、津田氏も茅威涛も辛い思いをされたようだ。ああ、なぜ見に行かなかったのだろう。私ひとり観客が増えたからといってどうなったわけもないが、後悔されてしかたない。

 なお、お世話になっているブログ「越劇・黄梅戯・紅楼夢」の黄梅さんが寄稿されていて、その縁で本書も紹介していただいた。好きこそものの、とはよく言ったもので、流派の紹介などすでに素人のお仕事とは思えない。マニア道のすごさに感じ入ったことでした。