La Terrasse

カフェ文化、パブリックライフ研究家 飯田美樹のブログ。著書に『カフェから時代は創られる』

【英文記事要約】コロナ禍で供給が追いつかないアメリカの精子バンク

2021-02-26 15:22:15 | 英文記事読解
 
 コロナ禍で子供を持ちたいと望む人が増え、世界中で精子バンクの需要が高まり、供給が追いつかなくなっている。アメリカで最大手の精子バンクの「シアトル精子バンク」によれば、6月以来、アメリカ、イギリス、オーストラリアやカナダなどでの需要が過去最大に達しているという。昨年に比べて売れ行きは20%以上になっている。というのも在宅勤務が一般的になり、自分の時間を柔軟に使えるようになり、子供を持つなら今だと思った人が増えているからだ。
 
 もともと異性カップルの不妊治療としての需要があった精子バンクだが、同性婚の合法化やあえてシングルマザーを選ぶ人が増えたことにより、精子バンクの市場はこの10年近くで成長した。現在では異性間のカップルは約2割で、女性の同性愛者の人が6割、シングルマザーを選んだ人が2割となっている。
 
 こうした需要に追いつくために、精子バンクは努力してきたとはいえ、コロナによって様子が一変。男性ドナーは精子バンクに行くことを避け、新規ドナーを見つけることは困難に。冷凍保存されている在庫があるといっても、需要に追いつくわけではない。ドナー発掘が難しくなる一方で、子供を持ちたい人は急増している。
 
 多くの人は優秀な遺伝子を欲しているため、大手の精子バンクはスタンフォード大学やハーバード大学の近くに位置し、学生たちからの提供を受けていた。彼らは数ヶ月精子バンクに通うことで約45万円ほど手にしていた。こうした金額は精子自体の値段ではなく、彼らの交通費と時間提供に応じた金額ということになっている。とはいえ、現在では彼らと出会うことも難しい。
 
 アメリカではFDAによる規制が厳しい。精子は提供されてから6ヶ月間は冷凍隔離が義務づけられる。ドナーは何度もバンクに通い、血液検査等を受ける必要がある。遺伝的に問題が生じることを防ぐため、一人のドナーが提供できる家庭は25から30程度に限られる。ドナーは匿名であり、番号によって識別される。
 
 精子バンクの問題は値段が高額なことである。1パックにつき、著名なバンクでは11万程度することもある。とはいえ、すぐに結果がでるとも限らないため、子供一人につき4〜5パックは購入するのが賢明だ。二人子供が欲しければ100万近くかかることになってしまう。
 
 そんな精子バンクを通さない解決策として数年前からSNS上の精子ドナーグループが誕生している。こうした場では多くの場合無料で精子が提供される。男性は自分の写真だけでなく、自分の子供の写真まで見せることがある。そこには提供を希望する女性たちがコメントを山ほど書いている。しかしこうしたグループは規制外であるだけに、問題が起こる可能性も否めない。こうしたグループに参加する女性は伝統的な精子バンクが高すぎて使えないという理由で参加していることが多い。
 
 従来の精子バンクから、顔の見える形のグループを求める人の中には、金額の問題だけでなく、匿名性の味気なさに嫌気がさしている人もいる。精子バンクが病院的で冷たすぎると感じる男性や、どんな人が自分の子供を育てているのか、子供がきちんとした家庭でちゃんと育っていると知って安心したい男性もいる。だから誰でも彼でも提供すればいいというわけでもない。ドナーや母親になる人たちは、自分たちの孤独についても語る。ドナーの中には家庭をもたずが、自分の遺伝子が残って欲しいと思っている人も多い。多くの女性は自らシングルの道を選んだ者である。30歳の有名なドナーは夢を持っている。「私が50代から60代になったとき、大きな食卓を囲んで、子供達を皆そこに招いて夕飯を食べながら彼らの話をききたいんだ」と。それが彼のモチベーションになっている。こうした夢物語はすでに現実となっている。
 
毎週末土日に開催している、世界を知りたい大人の英文読会
World News Caféで読解した記事の要約です。
"Sperm supply. And demand." New York Times International Edition 
 
 

お金持ちになるための、たったひとつのルールとは?

2021-02-21 21:10:59 | 英文記事読解
 お金持ちになるための唯一のルールは、資産と負債の違いを認識し、資産を買うことである。あまりにシンプルなルールなために、この深さや重要性はあまり理解されていない。金持ち父さんは言う。「お金持ちは資産を買う。貧しい人と中流階級は資産だと思い込んでいる負債を買っている。」私が9歳の時に金持ち父さんはお金持ちになる秘訣をそう教えてくれた。そんなにシンプルでわかりやすいのに、なぜ多くの人はお金持ちにならないのだろう?それは大人が物事を複雑に考えようとする傾向があるからだ。「資産というのは誰がそう言うかで決まるものではない。数字を見ることが重要だ。数字が何を語っているかを見抜く必要がある。お金持ちになりたければ、数字を読みとき、理解する必要がある」と金持ち父さんは耳にタコができるほど語っていた。「お金持ちは資産を購入し、一般人は負債を購入する」のだと。
 
 損益計算書とバランスシートの関係を見てみよう。損益計算書は収入と所得のバランスを計り、バランスシートは資産と負債のバランスを見るものだ。多くの初心者はこの関係性がわかっていない。資産というのは、自分が働く働かないにかかわらず、自分のポケットにお金を入れてくれるものである。負債は自分のポケットからお金を出していくものだ。キャッシュフローは資産・負債、収入、支出のお金の流れを意味している。もしお金持ちになりたければ、単に資産を購入し、資産形成をしていくことだ。中流か貧しい状態でいたければ、負債を買うことに人生を費やせばよい。
 
 人がお金に苦しむ原因というのは言葉と数字のファイナンシャル・リテラシーが不足しているためである。お金持ちがお金持ちになれるのは、お金に苦しんでいる人たちよりも金融リテラシーが高いからである。これは非常に重要な点である。
 
 一般的な若いカップルのライフスタイルを見てみよう。彼らは収入が上がるにつれ、夢の一軒家の購入を決意する。そこには住宅ローンとともに固定資産税がかかる。彼らは新しい車を買い、新しい家具や家に合う設備を購入する。ある日突然、彼らは自分たちが負債でいっぱいだという事実に気づいて愕然とする。彼らは今やラット・レースのわなにかかってしまったのだ。まもなく子供が生まれ、彼らはもっと働くことになる。そしてこのサイクルは繰り返される。収入が高くなるにつれ、税金も上がっていく。クレジットカードは限度額ギリギリまで使用している。彼らは借金を住宅ローンに組み込み、30年ローンを組むことにして、月々の支払額を減らす。ほっと一息。もうお金は使わないと心に決めるが、知人がセールにさそってくる。念のためクレジットカードはもっておこう。そしてこのサイクルは繰り返される。
 
 私はこうしたカップルに山のように出会ってきた。彼らの顔こそ違えど抱えている問題はいつだって同じである。彼らはこう訪ねてくる。「どうしたらもっとお金を手に入れることができるだろう?」本当に問題なのは、お金の使い方が間違っているのだと気づいていないということである。お金をもっと稼げても問題はほとんど解決しない。すぐに支出が増えるからだ。墓穴を掘っていることに気づいたのであれば、その穴を掘ることをやめるべきだ。自分を省みて、その生き方で本当によいのか問い直すべきなのだ。彼らは他人がやっているからという理由で同調し、疑問を抱くかわりに順応する。「分散投資せよ」「家こそが最大の資産」「安定した職業を選べ」「失敗を犯すな」「リスクを犯すな」本当にそうだろうか?
 
 このように家を投資だととらえ、収入の増加はより大きな家の購入や支出の増加を可能にするという考え方こそが、今日の借金まみれの社会の土台となっている。こうしたハイリスクな生活は金融教育の欠如からきている。投資信託が現在人気があるのは、それが安全だと思われているからである。彼らは分散投資が安全だと思っている。「安全に投資してリスクを避けよ。」しかし、金融の知識の欠如こそが、現在の中流階級の人が直面しているリスクをつくっているのである。彼らが安心、安全をもとめるのは彼らの金融状態がキツキツだからである。彼らの多くは収入源となる資産を持たず、唯一の収入源は給料である。彼らの生活は完全に雇用主に依存している。だから人生に一度のチャンスが巡ってきたときも、そのチャンスを手にすることができないでいる。
 
 資産と負債の違いを理解したのであれば、とにかく収入を生み出す資産を購入することに注力すべきである。そして負債と支出を減らし、もっと多くのお金を資産欄に投入できるようにすべきである。資産が増え、支出が減れば、今日仕事をやめてもそのお金で生きていくことができるようになる。豊かさとは今日働くことをやめて、何日生き残れるかという能力のことである。次の目標は余剰分を再投資し、より資産欄を育てていくことである。そして自分の支出を資産内にきちんとおさめつづけていれば、人はどんどん豊かになっていくのである。
 
※World News Caféで2月20日に読解した、Robert Kiyosaki "Rich Dad Poor Dad"のルール1を要約したものです。

ワクチンは実際どれほど有効なのか?世界のワクチン接種の最先端、イスラエル 【英文読解講座 記事要約】

2021-02-13 15:04:38 | 英文記事読解
 
世界におけるワクチン摂取を大幅にリードしている国、イスラエルは、ポジティブな結果を伝えてくれた。イスラエルの初期結果は、通常2回摂取が必要とされるワクチンを一度摂取しただけで、感染可能性が大幅に下がることを示している。それだけで入院率を数10%下げることになるという。
 
また、2回摂取した場合、臨床試験での結果以上に優れた結果となっている。イスラエルの健康維持組織のひとつ、マカビの研究部門によれば、はじめに摂取をした43万人のうち、1回目を摂取してから13日〜21日後、感染が60%も低下したという。マカビとイスラエルの厚生省によれば、2度目の摂取をした人たちは非常に高い有効性を示したそうだ。2回摂取した後、コロナウイルスに感染したのはいずれも約0.01%だった。ファイザー社は臨床試験において、95%の有効性を示していたため、これらの結果は予想されたものよりはるかに高い。とはいえ、臨床試験で必要とされる、ワクチン未摂取の人たちと比較した綿密なデータはまだ公表されていない。現在のデータは準備段階のものであり、今後はより深く統計的で、研究者のレビューを受けたデータが公表されるだろう。
 
イスラエルではすでに人口の30%以上が初回のワクチンを摂取しており、世界におけるワクチン有効性のテスト・ケースのとなっている。人口が900万近くで高度に電子化された国民皆保険システムがあり、軍の協力のもと、迅速なワクチン摂取を行っているイスラエル。その現実世界でのデータは世界の研究者や薬品業界、政治家たちにとって、臨床試験の結果を有効に補完するものとなるだろう。
 
イスラエルがこれだけのことを成し遂げたのは、ファイザーに対して初期に着実なを要求するかわりにデータの提供を約束したからでもある。また、ネタニヤフ首相は自らファイザーに交渉したという。
 
現実世界のデータは有効とはいえ、様々な変数に影響されやすい。例えば初期にワクチン摂取をした人はそもそもコロナ対策に熱心で、ソーシャル・ディスタンシングやマスク着用を普段からする傾向がある。住む場所や社会経済的地位も影響するだろう。また、病気自身も時間とともに変化する。変化が早いため、2週間前のデータはひと昔まえのデータにすぎなくなってしまう。
 
また、新鮮な状態のデータを公開することは、誤読されるという危険も伴っている。クラリトが初期データを数週間前に公表した後、多くの人は33%しか効果がないと読み違え、予測していた95%に到達しないので、ファイザーのワクチンは有効ではないと解釈してしまった。専門家と一般人が同じデータを読んでも、解釈に違いが生じるのだ。
 
イスラエルは12月20日にワクチンを開始し、すでに1回目は260万人に、両方摂取済みの人は100万人以上になる。60才以上の人やヘルス・ケアワーカー、リスクの高い人から開始され、今では40歳以上の人や高校生が摂取している。
 
こうしたワクチンへの努力にもかかわらず、イスラエルはコロナの第三波に苦しんでおり、再びロックダウンに踏み切った。変異種は感染力が高く、ワクチンの有効性も既存のものより減りそうである。まだコロナ病棟は満杯であり、余裕がでるにはまだ数週間かかるだろう。イスラエルではこれまで4000人が亡くなり、1月だけで1000人が亡くなった。それはイギリスからの変異種のせいだろうといわれている。
 
 
世界に視野を広げるオンライン英文読解 World News Caféでの読解記事
"Israel's early vaccine data offers hope" New York Times 

手厚いコロナ支援の裏側で 倒産危機にあるフランスのカフェや飲食店

2021-02-08 19:58:54 | 英文記事読解
 パリのカフェ経営者、ロジエ氏の店がなんとか生き残っているのはひとえに政府の支援のおかげである。かつては賑わっていた彼の店の売り上げはマイナス80%になった。最近店に来るのはごくわずかなテイクアウトの客だけだ。「私たちは死の淵にある」と彼は言う。
 
 フランスやヨーロッパの国々は、戦後最大の経済危機に対して、ビジネスをなんとか生き残らせるため巨大な支援を行ってきた。そのため倒産件数はかつてないほどに減っている。2020年、実はフランスでは倒産件数は40%も減り、EU全体でも25%減っている。こうした支援がなければ倒産数は2倍になっていただろう。雇用を守るための対策もしっかりしてきたために失業者数は多くないが、手厚い支援は一方で「ゾンビ・カンパニー」を作り出すという懸念もある。フランスので生き残っている企業の10%は、ひとえに政府の支援のおかげであるという見積もりもある。政府の支援だけで生きながらえている企業は、今後の「失われた10年」のきっかけかもしれない。何を差し置いてでもビジネスと雇用を守ったというヨーロッパは、コロナが収束した後の回復を約束するのか、それとも経済の競争力を失わせ、より政府の援助に依存する経済になってしまうのだろうか。これだけ援助をしてみても、支援がストップした瞬間に倒産のドミノ倒しや失業が急上昇するという懸念もある。
 
 実際、倒産自体はそこまで悪いものではなく、それは創造的破壊であり、経済の活力を生み出すためには、見込みのないビジネスが倒産し、競争力あるセクターが生き残るというのも重要な視点である。ただ支援をし続けるのではなく、経済成長を促す支援になるようにしていくべきだとOECDは説く。というのも重要な資源を「ゾンビ・カンパニー」にばかり投入するわけにはいかないからだ。
 
 フランスは数々の支援をしているとはいえ、数多くのビジネスは借金の山や収益性の低下に直面している。パンデミックがが長引けば、投資をする余力も限られてくる。
 
 ロジエ氏の店はビジネス街で文化的な街区に位置しており、在宅勤務の導入によってオフィス通勤の客が大幅に減った。政府はスタッフの給与の支払いを援助し、約400万円の貸付を行い、その支払い期限も延長した。10月のロックダウン以降は月額130万円ほどの援助を受けている。
 
 とはいえ、すでにこうした資金も彼の売り上げの損失を補填できない。彼は2店舗のうち1店を昨年夏に売却した。月額50万近い家賃の支払いはすでに3ヶ月遅れている。それに加えて社会保障費や電気代等を払うのにも苦戦している。フランス政府はカフェやレストランにテイクアウトしか許可していない。ロジエ氏はそんな中、なんとかして店内で飲食ができるようにと訴える代弁者として知られるようになった。「あと数ヶ月のうちに店を閉めることになるだろう」と彼は語る。「倒産するより店を売った方がましだ。」彼の友人のレストランオーナー二人はすでに倒産申告をした。「もっと多くの人たちが彼らに続くのは確実だ。」
 
2月6日、World News Caféで読解したNew York Timesの記事の要約です。
 
World News Caféは世界の英文記事や名著の原文読解を通じて視野を広げる会です。
毎週末土日朝9時半からオンラインで開催中。オブザーバー参加でぜひお気軽にどうぞ。

世界を理解するために 語学力が必要な理由

2021-02-03 20:23:34 | 英文記事読解

 

フランスのテロが起こった時、必死になってニュースを
聴いて色々と書いたりしていたら、「こんな時に
語学力があるっていいね」と言われたことがある。
語学というのは武器だと思う。武器、というのは
よく言われるように就職に役立つ、履歴書に書けるという意味よりも
自分を武装してどこかに向かわなきゃいけない時に
本当に武器になってくれるもの。最近強くそう思う。

フランスのテロが起こった時、私は日本の報道の仕方に
随分とショックを受けた。どうしてこんなに
情報が遅いんだろう?どうして正確とは言えない情報が
大手テレビ局のニュースでさらりと流れてしまうんだろう?
それはひとえに語学の問題ではなかったのか と最近
イギリスに関するニュースを読むたびに思う。

英語は相当なレベルの人たちが日本にも数多くいて、
おそらくジャーナリズムの現場にもきちんと存在しているのだろう。
だから英語圏からニュースが入れば、それはわりと早く
翻訳されて、さっとニュースになりやすい。
だから日経に書かれたイギリスのニュースはなるほど、と
思わせるものも多くあり、情報源が英語だと
こんなにしっかりしするのかと関心してしまう。
ところが英語以外の言語になると、一般的には
それが英語になったものを日本語に翻訳しようとするから
時間がかかり、伝聞している間に湾曲されてしまうことがあるのだろう。

確か昨年のことだったと。私がフランスに行った時、
立て続けにバイリンガルの友人に会い、彼らは
鬼のような形相をして私に言った。
「息子をバイリンガルにしなさいよ!」
私には何で彼らがいきなりそう言ったのか よくわからず、
そうはいっても日本ではそれは大変だ・・・お金もかかるし、とつい
言い訳がましい言葉を吐いた。でも普段は優しい彼らが
なぜ私に怒るように我が子をバイリンガルにせよ!
それが親の務めである・・・というような口調で言ったのか
しかも別々の日に立て続けに起こったのか、
私は不思議に思っていた。あれはもしかして神様が
彼らに乗りうつり、何かを伝えようとしたのだろうか?
それくらい不思議な出来事だった。

そのうちの一人でいつも国際的な交流会を開催しており
あのカフ・ド・フロールで哲学カフェを開催している友人が言った。
「1言語は最悪、2言語でまし、3言語でまあよいだろう」

1言語は最悪か・・・当時の私にはわからなかった。
そしてしぶしぶ、言われたからちょっとはやらないとまずいよな、と
息子にフランス語で話しかけたり教えてみたり、虚しい
努力を続けていた。そのあとに11月のテロが起こって
「1言語は最悪」に納得がいく。

結局1つの言語では、見えるのものが限られている。

特に私たちのようにに島国に住み、自分たちしか
使わない言語で暮らし、それだけで情報をとろうとすると、
どうしても情報が限られ、偏りが出てきてしまう。
多少なりとも翻訳に関わる者としてわかるのは、
全文の翻訳がいかに大変かということだ。よく訳者あとがきに
書いてある「思った以上に翻訳に時間がかかり、出版が
遅れたことをお詫び申し上げます・・・」の気持ち、たった1冊の
本とはいっても、1年以上翻訳にかかることもある。

だからこそ、海外のニュースや出来事は基本的には要約された
形で日本に入り、これだけははずせないという点が翻訳される。
一方で向こうのネイティブの人たちはその背景となる情報も
しっかり母国語で把握し、理解しているわけで、そういうことの
積み重ね で 私たちがようやく「語学力」を手に入れた時、
外国人と社会について話したくても、言われたこと自体を
知らない、その背景すらわからない、そして結局
お話にならない という悲しい事態が生まれてしまう。

私は口を酸っぱくして自分の生徒さんに言う。
「フランス語で書かれた文章を理解するには
語学力と、文脈を理解すること、その2つが大切です!」
語学力があったって、ワイン用語やワインの世界を知らなければ
なんのことやらわからない。でも背景を知っているなら、
語学力が低くても大抵はイメージできる。
だからこそその両方が必要なわけだけど。

文脈を理解していくためには(専門知識だけでいいならともかく)
世界で何が起こっているか、それなりにずっと追っていないと
「あれは?」「これは?」「それについては?」
と言われた時に、ひたすら黙ることになってしまう。

世界ではたくさんの問題や事件が起こり、
からまりあって動いている。世界を理解するために
日本語だけでは情報が遅く、情報量が限られている。
だからこそ、私たちに語学は必要で、特に情報を伝える側の
人間にはかなり高度な語学力が必要とされていると思う。
通訳や翻訳なんか通さなくても、1度聞いたらだいたいの意味は取れる。
そしてより突っ込むために、自分の言葉でそれを質問できる。
そして理解したことを、わかりやすい日本語で市民に伝えていく。
ジャーナリズムにおいてこれは欠かせない点だと思う。

私はひたすらフランス語に浸っていたけれど、
イギリスのEU離脱についてもっと知りたいと思った時に
これではまずいと気がついた。フランスにはフランスの態度があり、
アメリカやイギリスにはまた違ったジャーナリズムの態度がある。
フランスはイギリスの離脱についてはわりとそっけなく冷淡で、
必死になって追うよりも、まさに今開催されいているサッカーの
ユーロ2016が大切だ。これではわからん、と思ったので
必死になってBBCを聞き、英語のニュースを読むことにした。

そのときなるほど、「2言語でまし(フランス語があっただけでもかなり
助かった)3言語で良し」というのはそういうことかと
納得できた。私にフランス語しかなかったら、Brexitを理解するのは
至難の技で、特にその後何が起こるかを考えるのは難しい。
英語を勉強していてよかった、そしてもっと本気で
やっていかねばと思わされた瞬間だった。

世界には沢山のニュースが流れている。
どの国の新聞でもトップになるニュースもあれば、
そうでないものや論考もある。
その国の新聞や雑誌に載っているだけでも
すでに編集部の指向はあるだろうけど、世界に山ほどの論考がある中で
1つだけを日本語に翻訳して抽出するなら、その指向性はもっと強いかもしれない。

自分の頭で世界をもっと理解するには、やっぱり語学が必要だ。
広い視野を持っていくこと、色んな意見を検討すること、
そしてできれば誰かとそれを議論し、より一層深めていくこと。
私にバイリンガルの忠告をした二人はまさにそんな世界で
ずっと生きてきて、今でもパリで英語とフランス語で暮らしている。
何かを言いたくても言葉につまり、心底悔しかった留学時代。
あれから相当な年月が経ったけど、なんとか私も語学力と
文脈力と、それからしっかり表現できる力を手に入れて、
そんな世界で自分の意見を語りたい。

※4年前のBrexitが決まったころに書いた文章です。