ニューヨーク在住のギルバードさんはハーバード大学出身の女性。女優としても活動し、本を4冊書いた彼女は今ではQAnonの信者として積極的に活動している。QAnonは大統領選でトランプ陣営を支えるのに貢献した陰謀説を唱える集団だ。QAnonによれば、民主党やハリウッド、メディアのエリート達は小児性愛癖のある悪魔的なグループであり、トランプ大統領はこうした悪事を裁きにかけるという秘密の任務をもっているメシア的存在なのだという。ギルバートさんの日課は、こうしたことを裏付ける投稿をFacebookに発信することである。
とはいえ選挙の圧勝を予想していたQAnonにとって、現状を説明するのは簡単ではない。彼らが予期していた、世界的な小児性愛の一段を裁きにかけ、何千人もが一挙に逮捕される日はまだ起こっていない。反対に著名な信奉者の多くが国会議事堂襲撃によって逮捕されるという結果になった。
QAnonはもともと、2017年に"Q"という、政府高官を称する人物が4チャンネルで匿名の投稿をしたところから始まった。初めは極右的グループだったが、現在ではアメリカ全土に大きな広がりをみせている。QAnonは決してパソコンの前で1日中過ごしている独身男性だけに愛されているわけではない。歯医者や消防院、不動産業で働く人、ヨガを愛する母親まで、老若男女、様々な人が参加している。名門高校からハーバード大学に行ったギルバートさんのような女性もいる。
実はQAnonに人々を惹きつけているのは陰謀説そのものというよりも、コミュニティに属している感覚や、使命感を与えられることなのだ。新しく入ったメンバーの投稿は多くの人によって一斉に称賛される。彼らはそこで友達をつくり、来るべき革命を起こすために集まっているのだという感覚になる。メンバーたちはQAnonに属していることを楽しんでいる。
ギルバートさんはハーバード在学中から、スノッブでお金持ちの子供が集まったエリート集団の中で居場所のなさを感じていた。彼女はその後反権力運動に参加し、スノーデンなどの告発者たちに憧れた。彼女はもともと民主党院であり、Change.orgや動物愛護運動にも参加していたが、「ピザゲート」と呼ばれる出来事をきっかけに世界の仕組みを理解する。これまで感じてきた違和感やエリートに対する疑問の謎が溶けたのだ。それから彼女はQAnonに積極的に参加しはじめる。とはいえ彼女はパソコン上で闘うのみであり、実際にメンバーと会ったり、デモに参加したことはない。
11月の大統領選後、"Q"からのメッセージはパタリと止んでしまった。かつては1日12回ほどの投稿があったが、大統領選後はたった4回しか投稿がない。チャットルームやツイッターのスレッドは、"Q"の予言を疑う人の声で溢れている。しかし彼女はまだ信じることをやめていない。きっと奇跡は起こるのだ。彼女は様々な出来事の断片やシンボルを集めて道筋を探し、それを解釈するのが得意だった。そしてパズルが完成したときに投稿すると、人々は彼女を称賛する。こうした仲間との共同作業的なイベントは、オンラインゲームに人がはまる理由と近いだろう。彼女がQAnonにはまって以来、疎遠になった人は多い。マスクもしない主義なので、近所で罵られることもある。バイデン大統領が就任したら、彼らの多くはやめるのだろうか?きっと彼らはその熱狂を他の陰謀説へと向けるだろう。彼女は仲間達に語りかける。「もう少しの辛抱よ。もうゴールが見えているはず。」
1月31日にWorld News Caféで読解したニューヨークタイムズの記事の要約です。