コロナ禍で子供を持ちたいと望む人が増え、世界中で精子バンクの需要が高まり、供給が追いつかなくなっている。アメリカで最大手の精子バンクの「シアトル精子バンク」によれば、6月以来、アメリカ、イギリス、オーストラリアやカナダなどでの需要が過去最大に達しているという。昨年に比べて売れ行きは20%以上になっている。というのも在宅勤務が一般的になり、自分の時間を柔軟に使えるようになり、子供を持つなら今だと思った人が増えているからだ。
もともと異性カップルの不妊治療としての需要があった精子バンクだが、同性婚の合法化やあえてシングルマザーを選ぶ人が増えたことにより、精子バンクの市場はこの10年近くで成長した。現在では異性間のカップルは約2割で、女性の同性愛者の人が6割、シングルマザーを選んだ人が2割となっている。
こうした需要に追いつくために、精子バンクは努力してきたとはいえ、コロナによって様子が一変。男性ドナーは精子バンクに行くことを避け、新規ドナーを見つけることは困難に。冷凍保存されている在庫があるといっても、需要に追いつくわけではない。ドナー発掘が難しくなる一方で、子供を持ちたい人は急増している。
多くの人は優秀な遺伝子を欲しているため、大手の精子バンクはスタンフォード大学やハーバード大学の近くに位置し、学生たちからの提供を受けていた。彼らは数ヶ月精子バンクに通うことで約45万円ほど手にしていた。こうした金額は精子自体の値段ではなく、彼らの交通費と時間提供に応じた金額ということになっている。とはいえ、現在では彼らと出会うことも難しい。
アメリカではFDAによる規制が厳しい。精子は提供されてから6ヶ月間は冷凍隔離が義務づけられる。ドナーは何度もバンクに通い、血液検査等を受ける必要がある。遺伝的に問題が生じることを防ぐため、一人のドナーが提供できる家庭は25から30程度に限られる。ドナーは匿名であり、番号によって識別される。
精子バンクの問題は値段が高額なことである。1パックにつき、著名なバンクでは11万程度することもある。とはいえ、すぐに結果がでるとも限らないため、子供一人につき4〜5パックは購入するのが賢明だ。二人子供が欲しければ100万近くかかることになってしまう。
そんな精子バンクを通さない解決策として数年前からSNS上の精子ドナーグループが誕生している。こうした場では多くの場合無料で精子が提供される。男性は自分の写真だけでなく、自分の子供の写真まで見せることがある。そこには提供を希望する女性たちがコメントを山ほど書いている。しかしこうしたグループは規制外であるだけに、問題が起こる可能性も否めない。こうしたグループに参加する女性は伝統的な精子バンクが高すぎて使えないという理由で参加していることが多い。
従来の精子バンクから、顔の見える形のグループを求める人の中には、金額の問題だけでなく、匿名性の味気なさに嫌気がさしている人もいる。精子バンクが病院的で冷たすぎると感じる男性や、どんな人が自分の子供を育てているのか、子供がきちんとした家庭でちゃんと育っていると知って安心したい男性もいる。だから誰でも彼でも提供すればいいというわけでもない。ドナーや母親になる人たちは、自分たちの孤独についても語る。ドナーの中には家庭をもたずが、自分の遺伝子が残って欲しいと思っている人も多い。多くの女性は自らシングルの道を選んだ者である。30歳の有名なドナーは夢を持っている。「私が50代から60代になったとき、大きな食卓を囲んで、子供達を皆そこに招いて夕飯を食べながら彼らの話をききたいんだ」と。それが彼のモチベーションになっている。こうした夢物語はすでに現実となっている。
毎週末土日に開催している、世界を知りたい大人の英文読会
World News Caféで読解した記事の要約です。
"Sperm supply. And demand." New York Times International Edition